リリーフの神様
管理員さんのお仕事というのは、実に奥深い。
マンション管理に携わる前は、管理員さんは「清掃業務と管理室から居住者の方々に挨拶することが仕事」くらいに思っていた。
昔暮らしていた分譲マンションの管理員さんも、日中仕事で不在の私にとって影の薄い存在だった。
しかし、マンション管理業にマンション担当者として働き始めて、管理員さんの業務が多岐にわたり、事務能力と対人能力を高度に必要とする仕事であると知ることになった。
まず、マンションは一般の戸建よりはるかに特殊な設備を備えている。
消防設備、給排水設備、エレベーター設備、機械式駐車場設備、自動扉・・・
数えたらきりがないほど設備が満載である。
これら設備は定期点検が必要であり、その点検スケジュール調整や点検結果資料の保管もろもろは管理員さんの業務である。消防訓練さえも管理員さんが実施してくれることもある。
また、設備に故障は付き物だ。故障のたびに修理の手配をする(もしくはマンション担当者に報告し修繕の手配をさせる)のも管理員さんの仕事だ。
そして、理事会開催の案内状を配布・回収し、理事会が成立するように理事に出席を促すのも管理員さんの重要な任務だ。
また、理事長には支払いのための払込書押印を依頼したり、せっついたり。細々した仕事はきりがない。
とどめは居住者さんからのクレーム受付だ。
館内で煙草をポイ捨てする人がいる、自転車を玄関前に置いている、来客用駐車場に毎日同じ車が駐車されている、給湯器が壊れた、漏水している・・・。
更には、多くの場合、毎日の清掃業務も加わる。
新任の管理員さんは間違いなく、
「こんなにたくさんの仕事があるとは思わなかった」と、ため息をつく。
これほど多岐にわたる仕事を、一通りこなせるようになるには2年ぐらいは必要だろうとわたしは思っている。
この管理員さんというお仕事を長年務めてオールマイティーになった方が、活躍する働き方がある。
それは、管理員さんが辞めて次の管理員さんが着任するまでの数か月の間を「中継ぎ」として任される管理員さんだ。
わたしはこっそり「リリーフの神様」と呼んでいた。
彼ら(彼女ら)は、ガタついているマンションの管理業務を立て直した後、新任者に引き継いで去っていくという一番しんどい仕事をこなす。
退職した前任管理員さんの不備を修正しつつ、新しい管理員さんが着任した後困らないように管理員業務を整理する作業を、平常の業務をこなしながら進めていくのだ。
わたしも一度、リリーフ管理員さんにとあるマンション管理員業務の立て直しをしていただいたことがある。
その管理員さんから、清掃用具の不備を全て指摘され必要なものを揃えなおした。また、日常の管理員業務ルーティンを洗い出し、どれをどの程度すれば時間内で終わるかを検討していただいた。館内掲示物を新しくし、これまでの管理員さんが封印していた廃棄物を一掃したりした。
どの指摘もマンション担当者にとって耳が痛く、手間もかかり面倒だったが、管理員さんの業務改善能力に対して、ほれぼれした。
リリーフ管理員さんの能力一つで新しく着任する管理員さんのご苦労が大幅に軽減されることは明らかだった。
ああ、この「リリーフの神様」にわたしの仕事ぶりを評価されたい!と何度思ったことか・・・。
そして、わたしと一緒に仕事をしてくれたレギュラーの管理員さんの多くが、「リリーフの神様」並みの能力を備えていることを感じて、いかに心強かったか。
いまでも忘れられない。
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筆者のお仕事について ちいさな管理
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