わたしをの悩みを解決してくれた管理員さんの話
わたしが管理会社のフロントとして働き始める前、一時期分譲マンションを賃貸で借りて住んでいた時の話、上階から聞こえる騒音に悩まされていた。
コンコンコン・・という音で、フローリングにゴルフボールが転がっているような音が、決まって深夜12時から14時ごろに上階の部屋から聞こえるのだ。クレームを言おうと、上階の部屋の前まで何度行ったか数えきれない。
一年程耐えた後、管理員さんに相談してみた。
管理員さんは一年も我慢していたのかと同情して、すぐに上階に訊いてみますと言ってくれた。
果たして、一年続いたその音は、相談した翌日からぴったりと止んだ。
わたしは驚いて、管理員さんに
「いったいどうやって音を出すのをやめてもらったのか」訊きに行った。
すると、管理員さんは
「夜中、コンコンというフローリングの音で困っている居住者がいるが、あなたも騒音の被害に遭っていませんか?」
と上階の部屋すべてに訊いて回ったというのだ。
わたしはこの話を聞いて、管理員さんの問題対応能力に舌を巻いた。
「あなたが騒音を出していませんか」と訊くのと、「あなたも被害に遭っていませんか?」と訊くのでは相手の受け止め方は真逆になる。
「あなたが犯人か?」と訊かれればいい気がする人はいないだろう。逆に「被害に遭っていませんか」と心配されると、ハッとする反面、相手の気遣いを感じるだろう。
この一件でわたしは、言い方を工夫することの大切さを学んだ。
マンション管理会社のフロント職に就いてからも、訊きにくいことを訊く際は、まず相手を心配する会話から始めるように努めた。
ある日、泥酔してエントランスのガラスを割ってしまった居住者さんからの電話を受けた時も、一言目に「お怪我はされませんでしたか?大丈夫なら何よりです。」と、言葉が出るようになっていた。
また、担当するマンションの管理員さんから類似の相談を受けた時も、被害を出していると思われる居住者に話に行く際には、
「○○ということが発生しているようですが、お宅は大丈夫ですか?迷惑していませんか」
と訊きに行くように打ち合わせた。
たいていの居住者さんは自分のことだとわかれば、認めずとも改善してくれた。
ひとつ残念なことは、わたしの騒音の悩みを解決してくれた管理員さんが、その後すぐにマンションを去ってしまったことだ。
管理会社は惜しいことをするな・・・と心から思った。
あの管理員さんであれば、今もどこかで、その能力を発揮されていることだろう。
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