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地域のつむぎ手の家づくり|地域の人たちが快適・健康に暮らせる超高性能住宅を提供 福祉事業に参入し、障害者支援施設の運営も <vol.55/森大建地産:三重県伊賀市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・


「地域の人たちに快適、健康に暮らせる暖かくて省エネ性にも優れる住宅を届けていきたい」。森大建地産(三重県伊賀市)は、そんな家づくりの理念を実践していく決意表明の意味も込めて2017年、当時、三重県内で初となるドイツ・パッシブハウス研究所の基準に適合した認定パッシブハウスを、モデルハウスとして開設しました。以降、同社では、地域の人たちが快適で健康に暮らすことができる超高性能住宅を提供し続けいます。
今年は、そのなかで培った技術と知見も生かしながら、福祉分野へと事業領域を広げていくそうです。

本社の隣接地にあるモデルハウス。三重県で初めてドイツ・パッシブハウス研究所の基準に適合して認定を取得したパッシブハウス

建築家でi+i設計事務所代表の飯塚豊さんや、造園家で荻野景観設計代表の荻野俊也さんとコラボした前述のモデルハウスは、温熱性能だけでなく、デザイン性や庭の美しさなども際立つフラッグシップモデルで、同社はここを発信拠点としながら、着実に高性能・高品質な家づくりの実績を積み重ねてきました。

同社社長の森秀樹さんは「家づくりを通じて、地域工務店として、地域の人たちの快適かつ健康的で経済的な暮らしを支えているという使命感、責任感を、今まで以上に強く感じるようになってきた」と話します。今年から同社では、その使命感、責任感に基づき、住宅事業で得たノウハウを基盤に、地域福祉に貢献する事業も進めていくそうです。

森秀樹社長

分かりやすい体感拠点を

モデルハウスを建設した当時は、住宅性能表示制度において、HEAT20のG2・3に相当する断熱等級6・7が新設され、省エネ基準の適合義務化(2025年)を間近に控える今と比べると、住宅の断熱性能アップへの理解は広がっていませんでした。そんな環境で、世界レベルのパッシブハウスを建築した理由について森さんは「生活者だけでなく当社の社員も含めて理解が深まっていないからこそ、分かりやすく体感もできるものが必要だろうと考えた」と振り返ります。

森さんの中には、「やがて住宅性能に対する生活者のリテラシーが向上してくる」という確信もあったため、同モデルに関しては当時の市場のスタンダードに迎合することなく、飯塚さんの設計により、温熱性能に加えて構造材をはじめ外装・内装材にふんだんに三重県産材を用いるなど、意匠や自然素材活用の面でも、「将来的にも高く評価され続ける」ことにこだわったそうです。

確かなブランドを構築し
高い評価を獲得

森さんのビジョンは時代にフィットし、同社ではその後、飯塚さんを中心とする建築家とのコラボによる「性能・意匠・素材」の“全方位”に優れるハイクオリティな住宅を手がける工務店としての立ち位置(ブランド)を確立しました。現在、年間30棟ほどを受注する新築住宅のうち、6割強をG3レベルで耐震等級3の高性能住宅が占めています。

[photo:@Shigeo Ogawa]
[photo:@Shigeo Ogawa]
[photo:@Shigeo Ogawa]
[photo:@Shigeo Ogawa]

上4枚:大建地産が手がけた住宅の事例。建築家とのコラボにより、性能・意匠・素材の全てに優れる“全方位型”のハイクオリティ住宅を提供する。住まいに関する情報リテラシーの高い層の顧客の側から声がかかる状況が生まれている

コロナ禍の社会・経済・暮らし、資材ショックやウクライナ危機、それに伴うエネルギーショックなど、さまざまな要因により、住宅の性能に対する注目度が高まると同時に、住宅市場は二極化が叫ばれています、森さんは「もちろん今のような状況を予想などできるはずはないが、結果的にハイクオリティな住まいを求める人たちは足元の経済情勢などの影響を受けにくいとは感じている」と説明します。

施主から声がかかる工務店に

同社では今年、津市内で、いずれも飯塚さんの設計によって建てる住宅で、パッシブハウス認定の取得を目指す方針です。すでに1棟は完成し、もう1棟も5月中には完成する予定です。2棟とも世相を反映した25~30坪弱のコンパクトな住宅で、構造材や内・外装材にはふんだんに三重県産材を用いています。そのうち完成した1棟では、窓に三重県産のヒノキ材を用いて製作した高性能木製サッシ「佐藤の窓」(スマートウィン)を採用し、荻野俊也さんとのコラボにより庭づくりを行いました。

津市内の近接したエリアで進める2棟の住宅のイメージ。いずれも建築家・飯塚豊さんの設計で、パッシブハウスの認定取得を予定している

森さんは「どちらもお施主さんから当社に声がかかって受注に至った案件です。最近のお客様は性能やデザインなど住まいへのリテラシーが高く、自ら情報収集して当社を探し当ててくれます」と笑顔で話します。他に先がけて地域でハイクオリティな住宅を供給し続けてきたことが、ブランディングや評判という成果につながっていることに、森さんはつくり手として確かな手ごたえを感じています。

価格抑えた規格住宅も提供

一方で、地域に根差した経営を理念として掲げる同社では、賃金が上がらないまま物価高が生活を直撃する厳しい情勢の中で、ハイエンドモデルだけでなく、一般の人たちが手が届く価格帯の高性能住宅の供給にも力を入れています。価格は抑えても性能は妥協しない、G2レベルの温熱性能を備える耐震等級3の規格型住宅を2000万円程度の価格で提供しています。
資材価格の高騰が尾を引き、住宅の価格上昇に歯止めがかからない状況で、森さんは「2023年は、地域の人たちのためにも、この規格住宅のブラッシュアップに力を入れたい」と力を込めます。

高い躯体性能を前提に、コンパクトでも暮らしやすい「平屋」、「太陽光発電」、「床下エアコン」、「全館空調」をキーワードに、販売価格を抑えてながらも高性能・高品質な住まいを地域に対して供給していくそうです。

住宅のノウハウを福祉に展開

同社は今年、家づくりで培ってきた技術と、「地域の人たちの快適・健康で経済的な暮らしを支える」という想いを、そのまま生かし広げていくことができる福祉事業に参入します。障害者グループホーム(定員10人・ショートステイ1人)の運営を行うそうです。国の事業再構築補助金の採択を受け、地元・伊賀市内で木造平屋建て、延べ床面積約110坪の施設を建築中で、5月中に開所する予定です。

住宅で培った技術を生かして木造で建てていることがよく分かる障害者支援施設(グループホーム)の工事中の様子。住宅以外でも、断熱・気密性能を高め、快適・健康で経済的(省エネ)な暮らしの実現に貢献する

森さんは「住宅建築で磨いてきたノウハウを生かして、高断熱・高気密の快適で健康な生活環境を提供しながら、太陽光発電設備も搭載して経済性にも優れる施設を実現する」と意気込んでいます。家づくりで大切にしている地域の人たちや暮らしに対する想いをそのままに、新しい人材の採用はするものの施設運営は自社の直営で行う方針です。

今後はさらに、同施設を定員50人規模へと拡張していく構想をあたためているそうです。森さんは建築と福祉は親和性が高く、その融合は、自社の地域への社会貢献度を拡大するシナジーを生むと考えます。いまは明確なビジョンとしてまとまってはいませんが、近年、自社が提供する「暖かな住まい」が、特に医療関係者の間で評判となり求められているという状況が、「地域の健康や福祉を充実していくための何らかのアイデアが生まれるきっかけになるのではないか」と自らにも期待しているのです。


文:新建ハウジング編集部






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