地域のつむぎ手の家づくり|「少しでも価格を抑えて、良質な住宅を地域の人たちに届けたい」メリハリ効かせた設計でコストダウンの工夫 <vol.46/大恭建興:新潟県長岡市>
今回の<地域のつむぎ手>は・・・
物価高が続く状況で、木材や建材・設備の値上がりによる住宅の価格高騰も深刻化しています。そんななか、HEAT20・G2以上の温熱環境と耐震等級3という高い性能を自社の住宅の標準的な仕様とする大恭建興(新潟県長岡市)では、「少しでも価格を抑えて良質な住宅を地域の人たちに届けたい」と、性能やデザイン性を保ちながらコストを抑えるためのさまざまな工夫を行っています。こうした地域の人たちに寄り添おうとする“想い”が込められていることも、地元の工務店による家づくりならではの特徴です。
大恭建興は、常に1年近く先まで予約が埋まっている人気工務店です。住宅の価格が高騰するなか、同社の設計を担う37歳の専務の小幡大樹さんと32歳の佐藤光さんは「自分たちと同世代の地域の普通の家庭が求めやすい高性能住宅を提供していきたい」と意欲を燃やしています。
小幡さん、佐藤さんがコストをできるだけ抑えながら、性能・デザインや快適性に優れ、暮らしやすい住宅を実現するために心がけていることは、メリハリのある設計です。「住まい手の満足度の決め手となるのは“体感”」という考え方のもと、体感を向上させる部分には手厚くコストをかけ、それ以外の仕上げ・建具などでは“コスパ”を重視しながら既製品や手ごろな価格で入手しやすい建材を使いこなしています。
体感アップの切り札は海外製食洗機
小幡さんが体感アップの切り札として挙げるのがMiele(ミーレ)、BOSCH(ボッシュ)、AEG(アーエーゲ―)などに代表される海外製食洗機です。「これは自宅でも使っていますが、圧倒的に便利で感動的と言っていいほどの体感レベルなんです」と小幡さんは絶賛。高価な製品ですが、同社では「ほぼ標準仕様」となっているそうです。
ただし、キッチンについてはお金がかかる造作はせず、海外製食洗機を設置できるWOODONE(ウッドワン)の既製品を標準仕様とし、標準にすることでメーカーと価格交渉し、よりコストを抑えて調達しています。
佐藤さんは「ウッドワンのキッチンやカップボードの無垢材の質感は、自然素材でつくる室内空間と調和するんです」と評価。なるべくコストを抑えつつ、空間の雰囲気やデザイン性を確保できる製品として選択しているのです。
空間・部屋の用途に応じて開口にもメリハリを
気密はC値0.2㎠/㎡を切る高い性能で、付加断熱+樹脂サッシ・トリプルガラス、第一種全熱交換式の換気設備を標準とし、暖房用・冷房用それぞれ家庭用エアコン1台で全館空調を行います。
また、同社では「高性能住宅では、通風の確保などそれほど頻繁に窓を開け閉めする必要がない」との考えのもと、空間の用途にあわせて開口部にもメリハリをつけています。南面の日射熱取得や採光を考慮しつつ、断熱性能を下げ得る外部窓を意味なく増やさないという方法をとっています。
佐藤さんは「例えば、LDKの南面は、日射熱取得も考慮して9尺の掃き出し窓を2つ並べるなどして思い切った大開口を取りながら、寝室や子ども部屋は必要な採光を得られる窓を1つ。お風呂、トイレには窓を設けないパターンもあります」としながら、「ただし室内用のFIX窓や欄間をうまく使いながら、“暗がり”はつくらないように設計していて、住まい手から明るさに対する不満はありません」と説明します。
小幡さんは「当然ですが開口は壁よりもコストがかかるし、構造を強化する面でも開口を減らすことは優位に作用します。あくまで結果的にではありますが、メリハリが効いた開口の配置は、コストを抑えながら高い断熱・耐震性能を確保することにつながっています」と話します。
床断熱のフローリングは針葉樹
同社では、暖房については基本的には床下エアコンを推奨しており、その場合は基礎断熱になりますが、基礎断熱はベタ基礎のコンクリートの一体打設をはじめとする防蟻対策にコストがかかります。そのため顧客の予算・要望によっては、床断熱にして暖房についてもエアコンを壁付けにしてコストを下げるケースもあります。
ただし、その際は「ナラ、オークのような広葉樹フローリングだと冷たさを感じてしまうため、床断熱(エアコン壁付け)の時はパイン、スギ、ヒノキなど針葉樹のフローリングをほぼ必須として体感的な暖かさが損なわれないようにしています」(小幡さん)。
施主DIYも積極的に採用
仕上げ材の標準化によるコストダウンにも取り組んでいます。同社では無垢の木との相性がよくコスパの高い珪藻土クロスを標準的に使用していますが、塗り壁(珪藻土、漆喰)で仕上げたいという施主に対しては、コストダウンの効果も含めて施主自身によるDIYを提案しています。「かなりの割合のお客さんがDIYで楽しみながら自ら壁を塗っています」と小幡さんは話します。
最近、人気が高まっているのが、美しい白さを醸し出すローラー塗りの西洋漆喰です。素人でも塗りやすく施工性もよく、将来的に上塗りや補修も施主が自らの手で行うことができるそうです。
小幡さんは「自社で在庫をしなければならないが、材料屋さんからまとまった量を仕入れることでコストを下げています」とし、「DIYを組み合わせることにより、自然素材でデザイン性にも優れる仕上げを施主にリーズナブルに提供しています」と説明します。
下地材の野縁で天井仕上げ
デザイン性を確保しながら、コストを抑える手法として、木材の使い方にも工夫を凝らしています。例えば、下地に使う節のある野縁(スギ材)を天井の仕上げ材として用いるのもその1つです。小幡さんは「柿渋を塗ることで、節が目立たなくなりとても“いい感じ”に仕上がるんです」としながら、「最近では、あえて塗装をせずにスギの赤身、白太の色のコントラストを残すお施主さんもいます。いずれにしても、こちらが最初に丁寧に説明すれば、節については気にしない人がほとんどです」と話します。
外構の木製のフェンスにスギの間柱材を活用するのも、同社がよく使う手法です。佐藤さんは「これを例えば樹脂木材でやるとなると3倍ぐらいのコストがかかるんです。耐久性は樹脂木材の方が高いかもしれませんが、交換できることを考えればこちら(間柱材)の方が断然コスパがいい」と話します。
外装についても、無垢のスギ板材をファサードなど部分的に用いることにより、「木の家」の印象を出しながら、それ以外の妻面や裏側などは木板よりもコストを下げられるガルバリウム鋼板で仕上げています。
高性能住宅への理解広がる
顧客サイドでも工夫
同社が「できるだけ求めやすい価格帯で高性能住宅を地域の人たちに」と、さまざまな工夫に取り組む一方で、小幡さん、佐藤さんによると「家づくりを検討する人たちも勉強していて、高性能住宅にはコストがかかることに理解を深めており、それを手に入れるための工夫がみられる」そうです。
その一例が土地です。これまで同社の顧客では「1000万円の新規分譲地に2500万円の住宅を建てる」というパターンが典型例としてありましたが、最近では、施主が分譲地ではない多少、条件が悪い400万~600万円といった土地を探し、そこに3000万円で同社の住宅を建てるケースが目立ってきているそうです。
小幡さん、佐藤さんとも「そうやって当社との家づくりを検討してくれるお客さんの存在は非常にありがたいです」と感謝します。一方で、新規分譲地に比べて敷地条件は劣ることが多く、そこに快適で心地いい住宅をつくるためには、設計の難易度は上がります。同社では、仕上げをはじめコストダウンの工夫を継続しながら、住まい手の満足度と建築的な魅力を損なわない「コンパクト化」など、さらに効果的な価格を抑える取り組みや、それを実現できる設計力アップを目指す考えです。
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