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地域のつむぎ手の家づくり|“チームビルディング”で地元工務店がまちづくりをリードする<vol.28/カワイ建築:愛知県春日井市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

カワイ建築(愛知県春日井市)は、自社単体ではなくチームによってものづくりを行う“チームビルディング”を経営方針として掲げ、地域の建築の仲間と共に、家づくりやまちづくり(地域活性化)に取り組んでいます。建物の老朽化や住人の高齢化、空き家化が深刻な問題となっている地元の「高蔵寺ニュータウン」では、そうした問題の解消に少しでもつながればと中古マンションの買取再販事業にチャレンジしています。

同社社長の河合忠(まこと)さんは「仲間たちと一緒に、自分たちが持っているものを生かし、地域の人たちも巻き込んで、楽しみながら地域の課題解決に貢献したい」とし、「地域工務店は、まちづくりの領域で存在感を発揮していくことができる大きなポテンシャルを秘めている」と力を込めます。

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河合まこと 社長

河合さんが、地元の建築家の内藤太一さん(設計室ないとう)と井村正和さん(ジンバルワークス)、酒井悠行さん(パスワークデザイン)と協働して中古マンションの買取再販を行う高蔵寺ニュータウンは、東京・多摩、大阪・千里と並び“日本三大ニュータウン”とも称され、黎明期の1960(昭和40)年代から旧日本住宅公団(現在のUR都市機構)により整備された「公団団地」です。同じ時代に建てられた全国の他のニュータウンと同様、建物の老朽化とあわせて、住人の高齢化や空き家化といった課題を抱えており、行政を中心に地域ぐるみでの対策が進められています。

河合さんたちは「小さなことかもしれないが、空き家を買い取り、建築のスキルを生かしたリノベーションにより住空間としての魅力や付加価値を高め、それを提案(販売)することで、空き家化の抑止や(団地内の)人口増に少しでも貢献できれば」と活動の実施を決めました。

建築ユニット結成しリノベプロジェクト推進

高蔵寺ニュータウンで生まれ育ち、一度離れた後に、新たに自身で同団地内の中古マンションを購入し、リノベーションして暮らす内藤さんを中心とする4人は、活動を行うのにあたり「Danchitectsダンチテクト」(団地とアーキテクトをかけあわせた造語)というユニットを結成。「団地のつづき」と名付けたリノベプロジェクトとして事業を展開しています。プロジェクト名には「今ここにあるものの良さを引き出し、そこで暮らす人の喜びや地域の結び付きを未来に受け継いでいくために活動し、団地というフォーマットの上に、その人らしい多様性のある未来へと続く住空間をデザインする」との想いを込めました。

プロジェクト第1弾として、志に共鳴する地元企業にクライアント(事業主体)になってもらい、築40年余りのRC造5階建ての団地の3階の1戸(3LDK・55㎡)を取得。リノベのプランについては、コンペ形式でメンバーが出し合い、互選により決定しました。河合さんは「プランを考えるのも、あれこれ評価し合うのも楽しかった」と振り返りながら、「今の価値観では窮屈な台所や風呂に畳敷きの和室3室という典型的な“公団仕様”が、どれだけ魅力的な住空間に生まれ変わるか見せたい」と張り切っています。

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プロジェクト第1弾としてリノベーションを行う団地の外観と室内
典型的な“公団仕様”の住空間を、建築の力で
どこまで魅力的に生まれ変わらせることができるかが問われる

いまのところリノベ後に1000万円前後の価格で販売する方針です。河合さんは「周囲には廃校になった小学校の校舎を活用した児童館や図書館、カフェ、市民活動スペースなどが入る複合型のコミュニティ施設や校庭を再生した公園・遊具もあり、商業施設も充実している」とし、「『空洞化するかつてのニュータウン』『今の暮らしには合わない古臭い仕様』といったステレオタイプなネガティブな先入観を取り払えば、住環境としては恵まれている」と説明します。

すでに第2弾となる物件も取得済みで、今後はクライアントではなく、ダンチテクトで出資し、自己資金により事業を行うことも見据えています。

設計・施工からテナント誘致まで

河合さんは、地元・春日井商工会議所の青年部の活動をきっかけに、まちづくり・地域活性化に携わるようになりました。特に春日井市内のJR勝川駅前にある「勝川駅前商店街」の活性化には主体的に関わっています。

同商店街にあった築80年の町家をカフェなどが入るシェア店舗「TANEYA」として再生する事業(2014年)や、“中庭スペース”で地域イベントなども開くことができるモール型の複合商業施設「ままま勝川」を新築する事業(2016年)では、施工を手掛けるだけでなく、事業計画の策定からテナントの誘致までコアメンバーとして行ってきました。現在は、同商店街など勝川地区の活性化を目的とする民間のまちづくり会社「勝川エリア・アセット・マネジメント」(通称:KAM)のメンバーとして、まちづくり活動を行っています。

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河合さんは「地域のさまざまな分野の人たちや建築の仲間たちの力を結集してつくるという“チームビルディング”の発想があれば、大手とは違う地域に根差した工務店しかできないことを実現できる」と訴えます。建築の力で、建物の魅力を最大限に高めながら、事業性や収益性だけでなく「地域の人たちが求めていて、長く地域にとどまってくれ、地域のにぎわいと交流のハブになってくれる」といったことも判断基準としてテナントを選び、誘致します。

駅前の商業施設をコンバージョン

コロナ禍の2020年~21年にかけては、勝川駅前にある商業施設「パレッタ」(1・2階)とマンション(3~13階)の複合ビルで、スーパーが撤退した1階フロア(1600坪)を、商業・コミュニティスペースとしてコンバージョンする事業を手掛けました。団地のつづきプロジェクトメンバーの井村さん、酒井さん、建築仲間として親しい山田貴之さん(TONZAKOデザイン)、江﨑浩哉さん(スタジオ・グラップ)の5人のチームによって、フロアコンセプトの策定から設計・デザイン、施工、テナント誘致までを行いました。

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「健康なライフスタイルに寄与する場所に」のコンセプトのもと、24時間営業のフィットネスジムやピラティスの教室、キッチン付きのレンタルスタジオ、コワーキングスペース、大手住設・建材メーカーのショールームなどが入居。シェア「電動バイク」の拠点も設置し、駅前商店街や地域内の周遊を促します。コロナ禍のさなかの昨年2月にオープンした後は、地域の新たな交流拠点となっています。

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たくさんの人たちが訪れる交流拠点になってほしいと、「COME来て 」と「MEET出会う 」をかけあわせた造語「COMEETコミート 」をフロアネームとして付けました。フロア内の主要通路は、イベントを開けるほど広く確保し、ベンチなど“たまり”のスペースも配置し、フロアネームを具現化する空間デザインとなっています。

家づくりもチームで工務店がまちづくりの起点に 

河合さんは、本業の家づくりにおいてもチームビルディングにより、「自分たちが楽しむことやチャレンジすること、成長すること」を大切にしています。建築家とのコラボにより伝統構法の家を手掛ける一方で、早くから大型パネルも採用するなど、多様な家づくりに取り組んでいます。

昨年は、建築仲間でもあるみのわ建築設計工房の箕輪裕一郎さんが設計した箕輪さんの自邸で、荻野景観設計が造園を手掛けた住宅「大泉寺の家」の施工者として、「愛知まちなみ建築賞(第28回)」を受賞しました。

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施工者として「愛知まちなみ建築賞」を受賞した住宅『大泉寺の家』(Photo ToLoLo studio)

「建築のスキルや家づくりで培ったノウハウをチームビルディングによって幅広く展開できれば、地域工務店はまちづくりの“スイッチ(起点)”になれるポテンシャルを持っている」と河合さんは語ります。

「点」として完結しがちな家づくりという地域工務店の事業を、まちづくりに主体的に関わることで、「面」的に発展させることができ、それは地域の歴史・気候風土、社会・経済事情に詳しく、人的なネットワークも豊富な地域工務店の“財産”を生かし切ることにもつながるのです。

「顧客の思い描く暮らし方をイメージしながら、それを実現できる居場所を形にすることができるのが工務店の本質的な機能だとすれば、チームで取り組むことにより、まち(地域)の未来をイメージしながら、まちの人たちの“未来の居場所”を形にしていくことも仕事にできるはずだし、そうしていくべきだ」と河合さんは投げ掛けます。

文:新建ハウジング編集部
写真:カワイ建築提供

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