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地域のつむぎ手の家づくり| 老舗工務店が挑む“リノベまちづくり” にぎわいを取り戻し、若者が暮らしたくなる地域に〈vol.68/馬場工務所・にいつ住宅研究所:新潟県新潟市〉

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


「生まれ育った街にかつてのにぎわいを取り戻し、若者が『ここで暮らしたら楽しそうだな』と思うような地域にしたい」。新潟市秋葉区の新津本町に本社を置く馬場工務所社長の馬場一也さんは、そう地元への思いを語ります。

馬場工務所・にいつ住宅研究所、まちづくり会社「パッチワークAKIHA」の代表としてまちづくりを推進する馬場一也さんは一級建築士でもある

同社は「にいつ住宅研究所」を屋号とする専門部署を設け、一定のエリア内で、リノベーションによって空き家を店舗などに再生して地域活性化につなげる“リノベまちづくり”に取り組んでいます。

昨年の10月には、まちづくりのシンボルにも位置づけるJR新津駅東口のすぐ近くの緑豊かな敷地に、古い土蔵や倉庫をリノベした飲食店をオープンしました。店舗がオープンしたのは、大正時代に開院した地元の診療所・髙塚医院の敷地約5000㎡の一角。診療棟や併設された住宅(母屋)、リノベした土蔵、倉庫などの建物群を取り囲む“森”のようにケヤキの大木などの木々が立ち並びます。

新津駅のすぐ近くにある「マチーシャの杜」と名付けられた緑豊かな髙塚医院の敷地

以前から、精力的に地元のまちづくりに取り組む馬場さんの姿を見てきた、同院理事長で医師の髙塚務さんから馬場さんに「地域活性化のためにこの場所を有効活用できないか」と相談が持ちかけられたことをきっかけに、“森の再開発”プロジェクトがスタートしました。

築100年を超える土蔵をリノベし、あわせて一部増築した店舗には、新鮮なマグロがウリの食堂が、築60年の倉庫をリノベした店舗には県内で人気のフルーツサンドを提供するフルーツパーラーがテナントして入居。テナント誘致からプランの策定、リノベの工事までワンストップで、にいつ住宅研究所が手がけました。

土蔵をリノベした食堂と倉庫をリノベしたフルーツパーラーの店内。「リノベの魅力を発信したい」とデザイン性にもこだわった

設計については、「リノベの魅力を最大化して広く発信したい」(馬場さん)との狙いから、同じ地区内に事務所があり、リノベの実績も豊富な神田陸建築設計事務所に依頼しました。

地域ににぎわいを生む“森の再開発”というコンセプトも相まって、2店ともオープン直後から注目を集め、多数のメディアに取り上げられたこともあり、常に行列が絶えない人気店となっています。馬場さんは今後、緑豊かなこの森でマルシェやキャンプイベントなどを開催し、場所のさらに魅力を引き上げていく考えです。並行して、現在は使われていない母屋の利活用計画も進めていくそうです。

点から面へ『まちが変わっていく』

にいつ住宅研究所は、2017年の立ち上げ当初から、新津駅に近い自社の周り・半径250mを中心とするエリアで、リノベによる空き家の再生事業を展開し、カフェやオープンキッチン・レンタルスペース、宿泊施設など、地域内外の交流を促進し、まちのにぎわいのもとになるような拠点を次々と生み出してきました。

馬場さんは「エリアリノベーション(リノベまちづくり)は、いかに範囲を絞り込むかがポイント」と指摘、その理由について「生まれ変わった建物が点から線に、さらに面になりやすい。『まちが変わったね』という印象が鮮明になり、リノベの魅力が増して効果が相乗的に波及していく」と語ります。

にいつ住宅研究所がリノベを手がけたオープンキッチンやレンタルスペースを備えるコミュニティ施設と宿泊施設。狭いエリアで、リノベ店舗・施設が増えて点から線、やがて面となり、街を彩りにぎわいを生み出していく

地元への思いが強く、地元を熟知し、人脈も豊富で、何よりも建物の設計・施工のノウハウを備える地域工務店は「リノベまちづくりの“リード役”として最適」と馬場さん。同社のリノベ事業の売り上げが増えるほど、ローカルビジネスが活性化し、それにより地域の人たちにとっては魅力的なお店が地元に増え、まちのにぎわいへとつながっていく好循環を生み出す“三方よし”のビジネスモデルなのです。

民間出資のまちづくり会社も

馬場さんは、地域から出資者を募り、株式会社としてまちづくり会社「パッチワークAKIHA」も設立、代表を務めています。同社は、レンタルスペースや宿泊施設の運営などのほか、行政とも協働し、地元の住民主体の組織のまちづくり計画の策定なども支援しています。馬場さんは「まちづくりはソフト面も非常に重要。同時に、まちづくり会社には“志のある人”や有益な情報が集まりやすい」と、その機能について説明します。

馬場工務所(にいつ住宅研究所)は一昨年、事業再構築補助金を活用して、本社内に古材の魅力を発信するショールーム「コザイシツ」を開設、リノベで発生する古材・古建具・古道具などのオンライン販売もスタートしました。また、不動産専業のスタッフ(宅地建物取引士)も増員。「多面的かつ複層的」にリノベ事業を拡大していく考えです。

本社内に開設した「コザイシツ」。古材や古建具・古道具をオンラインでも販売している

同社は、馬場さんが4代目の老舗。馬場さんは「長きにわたり、この地に根差して商売を営む当社が恩返しの意味も含めて主体的にまちづくりに取り組むのは、ある意味で必然的な流れ」としながら、「大学時代に東京で暮らすなかで、あらためて地元の良さを感じた。自分が子どものころのようなにぎわいを取り戻し、自分の子どもたちを含めて若者が魅力を感じ、『暮らしてみたい』と思ってくれるようなまちにしたい」と理想を描きます。


文:新建ハウジング編集部






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