地域のつむぎ手の家づくり|築260年の古民家を軸に町場の工務店が存在感を発揮 着実に仕事を重ねて人と技術をつなぐ<vol.26/輝建設:大阪府東大阪市>
【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。
今回の<地域のつむぎ手>は・・・
大阪府東大阪市にある輝(てる)建設は、地元の風景として残る古民家を守り次世代に継承しながら、一方で高い技術力を生かし、現代の暮らしにフィットする住宅の新築も柔軟に手掛けています。同社の多彩な仕事ぶりは、築260年の古民家を再生したモデルハウスや築50年のプレハブ住宅をリノベーションした事務所が立ち並ぶ「石切ヴィレッジ」と名付けられた、500坪の本社の敷地にも表れています。
東大阪のさらに東、生駒山の麓の傾斜した土地に赴きある旧石切町の町並みが広がっています。古くからの家が残るのは、港湾として栄えた時代に力のある庄屋が数多くいたためだそうです。かつては、高野山へ続く街道としてもにぎわいました。野崎観音など、麓に沿って今も参拝者が途絶えない寺や神社が立ち並び、地域を見守るとともに地元の心のよりどころになっています。
その1つ、石切神社に向かう坂道の参道の先に輝建設はあります。大阪市を一望できる抜群の眺めです。東京とは異なり、戸建て住宅が広い範囲に広がり、ビル群が中心に集中している大阪ならではの風景が印象的です。
古民家とプレハブが共存
まるで武家屋敷のような瓦塀に囲まれた輝建設の事務所は、入り口から「ただものではない雰囲気」が漂っています。それも当然で、500坪の敷地の核をなす古民家は、なんと築260年。モデルハウスとして再生したもので、石切ヴィレッジの玄関口として顧客を迎え入れて案内するとともに、社内の会議の場などとしても活用されています。
このほかにも敷地内には、土蔵や50年前に建てられたプレハブ住宅などがあるのもユニークです。古民家再生から新築まで幅広く手掛ける同社の事業内容を表現しているかのようです。プレハブ住宅はリノベーションし、スタッフが常駐する事務所として利用しています。
500坪という広大な土地は、現社長の小原響さんの先代(創業者)の時代に、農家だった地主から「きちんと使ってくれる人に」と借り受けることになったそうです。
社長の小原響さん
古民家活用の店舗などが増加
小原さんによれば、同社の事業(仕事)のバランスは「新築、リフォーム、古民家再生が3割ずつで、残りは雑小工事」。新築は、OMソーラー協会に長年加盟していたことや建築家の伊礼智さんの影響を感じさせるテイストです。本社の敷地を借りている地主の住宅は「i-works」(伊礼さんの設計手法を基本とする企画住宅)で建てました。仕事をバランスよく手掛けている相乗効果から紹介が多く「先代の時代からクチコミで仕事を頂いています」と小原さんは話します。
近年、古民家の魅力が再評価されていることに伴い、店舗に改修する案件が増えているといいます。同社の強みは実績が豊富なため、見積もりの精度が高いことです。それが信頼につながっているそうです。
古民家再生事例1
古民家再生事例2
古民家再生事例3
新築事例1
新築事例2
新築事例3
オーナー負担が少ない方法で後世に古民家を継承したい
古民家を次世代に継承することに精力的に取り組む同社ですが、実際には、古民家は「確実に失われている」状況です。小原さんは「先日も、僕らのモデルハウスと同じような大きな庄屋さんの古民家が解体されて、7棟の小さい家の分譲地になりました」と寂しそうに話します。大阪の中心エリアからも近いため住宅需要が旺盛で、今後もこうした流れに歯止めをかけるのは難しいと小原さんは見ています。「持ち主が数世代移り変わる中で、体力(資力)がなくなってきています。熱意だけで残すというのも酷な話ですからね」と小原さん。
そこで小原さんは、例えば古民家の離れと土塀など一部を解体し、駐車場などにして持ち主が利益を得られるようにし、母屋は残していけるような提案も行っています。オーナーによるDIYも柔軟に取り入れながら、構造部分だけをプロとして改修し、それ以外はオーナーが自ら手を入れて費用を抑えられるといったことも提案。利益はほとんど出ませんが「持ち主に愛着があるなら、経験のある僕らが何か手を貸したい」と考えています。そうした柔軟な対応ができるのは、技術のある工務店だからこそです。
小原さんは、その後30年間、50年間にメンテナンスで費用がいくらかかるかということも必ず伝えています。「古民家らしく残すことに執着すると、逆に残せないです。駐車場をつくったら、月2万円、30年間で600万円を得られる。それを家本体に回していく方がいいと思うんですよね」(小原さん)。
新しい価値を持たせる
石切ヴィレッジでは、定期的にワークショップやマルシェが開催されます。特に「石切マルシェ」は平均200人が訪れる地域の人気イベントです。「さまざまな角度から豊かさを提案できれば」と小原さんは話します。
定期的に開催している「石切マルシェ」は地元住民の交流の場になっている(コロナ禍の現在は休止中)
石切ヴィレッジは貸しスペースとしても利用されており、さまざまなイベントが開催されているほか、CM撮影の依頼を受けたりと「稼げる古民家」としての役割も担っています。小原さんは、この自社の取り組みも「古民家の持ち主の見えざる負担を少しでも解消できるスキームになるのではないか」と考えます。まずは自社で実践し、成果が出ればオーナーを通じて広げていきたいそうです。
モデルハウス(古民家)は貸スペースとしての利用も行われている。
近年は「撮影に使いたい」という依頼も多い
今、進めている仕事は、住んでいる古民家をコミュニティスペースにしたいという大阪の施主の依頼。最近は「ちょっと変わった意向を持った顧客」から声が掛かることが増えているそうです。「古民家って面白いんですよ。改修するときに解体しますが、ものすごく丁寧な仕事が見られる。釘、無しでここまでできるのかと、僕らもそうですがお施主さんも驚きます」と小原さん。輝建設1社では、そうした驚きを広く発信することはハードルが高いかもしれませんが、驚きを共有した施主も巻き込めたら「何か変わるかもしれません」と小原さんは希望を抱いています。
文:新建ハウジング編集部
写真:輝建設提供