
地域のつむぎ手の家づくり| 笑顔で仲良く暮らせる家を 高いスキルで想いを形に〈vol.67/ニコハウス設計室:愛知県豊橋市〉
【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。
今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・
家族がいつもニコニコ笑顔で仲良く暮らせる家を―。
そんな想いで家づくりに取り組む、社長もスタッフも穏やかな笑顔が印象的な町の工務店、それがニコハウス設計室です。

同じ場所にとどまることなく、常に進化を目指す社長の鈴木茂明さんを、広報・経理を担当する妻の佳奈さんと、新入社員で設計アシスタントの鈴田晴美さんが支えます。鈴木さんの家づくりにかける想いや情熱、飽くなき向上心で学び続ける姿勢が、顧客の心をつかみ、ファンを増やしているのです。
鈴木さんは3歳の時に病気で母親を亡くし、7歳のころからは父親と離れ、それ以来、弟と2人、ずっと祖父母に育てられたそうです。「両親の分まで愛情を注いでもらい、不自由なく育ててもらった」と亡き祖父母には感謝していますが、それでも両親と4人そろって楽しく過ごした鮮明な思い出がないことに一抹の寂しさを感じることも。
だからこそ、家づくりという仕事を手がけるいま、「家族がいつも笑顔で仲良く暮らせる家を届けたい」という想いは人一倍強いのです。その鈴木さんの想いが、ニコハウス設計室の家づくりのバックボーンとなっています。
ヒートショックで祖母が亡くなる
とはいえ、想いだけで良い家をつくることができ、顧客から評価を得られるほど工務店業も住宅業界も甘くはありません。想いを軸に、常に学び、設計力と技術(施工)力を磨き、進化し続けるのが鈴木さんのスタイルです。断熱はHEAT20・G3に近いUA値0.3W/㎡K程度、気密はC値0.1~0.2㎠/㎡の間、耐震は許容応力度計算による等級3が同社の標準性能。創業時からこだわってきた性能に関しては「地域の人たちから評価されているという確かな手ごたえを感じている」と鈴木さんは語ります。
独立前、地元の工務店に設計担当として勤務していた27歳の時、自宅で祖母がヒートショックで亡くなりました。鈴木さんは当時、「恥ずかしいことに、そのヒートショックが住宅の断熱性能に起因したものだとは知らなかった」そうです。
その後、設計者として断熱性能と住む人の健康状態について理解を深め、それが亡くなった祖母への想いと結び付き、会社に対して「住む人が健康に暮らし続けられるように(自社の)住宅の性能を引き上げましょう」と強く訴えました。
しかし、分譲事業をメインに拡大路線を掲げる社内で、鈴木さんの訴えが聞き入れられることはありませんでした。それが、独立のきっかけであり、創業当初から高い断熱性能を譲れないファクターとして貫いてきた理由なのです。
設計力をブラッシュアップ
その性能を土台に、鈴木さんがいま最も重点的にブラッシュアップするのが設計力です。数年前から、建築家の飯塚豊さんの設計塾で、プランのつくり方からプロポーション、空間構成・間取り、構造・断熱から内・外装の仕上げまで徹底的に学んでいます。学びながら、それをまねて実践に落とし込み、飯塚さんのメソッドを“血肉”とし、少しでも憧れの飯塚さんの建築に近づきたいと鍛錬を重ねます。鈴木さんは「本当に勉強になったし、設計の奥深さや楽しさを知ることもできた」と話します。




設計・デザインのレベルアップは、ブランディングへの効果も抜群です。地域の風景になじむ高さを抑えたスギ板張りの外観、シンプルで美しい架構が生み出す落ち着きのある空間、外の緑を美しく切り取りながら内と外をつなぐ居心地のいい開口部とそのまわり―といった要素が自社のスタイルとして定着。「地域の人たちのなかで『この辺ではあまり見かけない素敵な雰囲気の住宅をつくっている会社』という認知が少しずつ広がっているように感じています」と鈴木さんは笑顔を見せます。



住宅価格が高騰するなか、「できる限り“普通の家族”に手が届く価格で良質な住宅を届けたい」と力を込めます。そのためにこそ、磨き続ける設計・デザイン力と、設計・施工の機能が一体化されている工務店の特性が生きるのです。
例えば、設計者としては性能が高く意匠的にも美しい木製窓を全面的に提案(採用)したいが、価格は一気に跳ね上がってしまう―。「そこを性能的には見劣りしない樹脂サッシを用いて上手に設計することで、美しい意匠を実現しながらコストを抑えることができるはず」と鈴木さん。「地元の普通の人たちから、なるべくズレない感覚とレンジで家づくりを続けていきたい」と想いを語ります。
築80年、思い出の自宅をリノベ
同社では4年ほど前、鈴木さんが祖父母と暮らし、そして受け継いだ築80年の古民家(自宅)をフルリノベーションし、G3を超えるUA値0.26W/㎡Kまで断熱性能を引き上げ、モデルハウスとしてオープンしました。
鈴木さんは「誰もやっていないことにチャレンジしたかったし、自分の設計力や技術力がどれほどのものか試してもみたかった」と笑いながら振り返ります。もちろんそこには、「祖父母との思い出を刻む家を残したい」「祖母が亡くなる要因となったヒートショックなどは決して起こらない家として自らの手でよみがえらせたい」といった、さまざまな想いが込められています。



このモデルハウスでもある自宅で鈴木さんは、佳奈さんと20歳の長女、17歳の次女の家族4人で仲良く暮らしています。「どれぐらい快適かは、やはり住んでみないと実感を込めてお客様に語れませんから」と笑います。10mを超えるかという長さの棟木に波を打ったような形状の丸太梁など、歴史を物語るあらわしの小屋組みが、家族の暮らしを温かく包み込み、見守っています。
高校2年生の次女が最近、大学で建築を学び、将来的には鈴木さんの跡を継ぐことを考え始めたそうです。「継いでほしいなんて言ったことないんですが、僕が楽しそうに仕事をしているのを近くで見ていてやってみたいと思ったんですかね」と鈴木さんは照れながら話します。
鈴木さんは、全国のトップランナー工務店の経営者が講師陣として名を連ねる経営塾に参加し、経営についての学びを深めました。「厳しい市場で生き残っていくためには立ち止まることなく学び続け、進化し続けなければ」。経営者としての強い言葉の裏側に、同じ道へと踏み出そうとする娘の将来を想う親心がのぞきます。
文:新建ハウジング編集部