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地域のつむぎ手の家づくり|“やってみる”から始まる「リノベ住宅」という選択肢を提供 <vol.48/まごころ本舗:新潟県五泉市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・


新潟県内で中古住宅の買取・再販事業をメインに展開する、まごころ本舗(新潟県五泉市)の新潟支店長を務める平田未来さん(30歳)は、社長で父の光一郎さんが会社の方針として掲げる「“やってみる”から始まる」を実践。中古住宅を性能向上リノベーションすることで、いまある住宅を長く大切に使う、人々が少しでも安く良質な住まいを手に入れられる状況をつくり出すことにチャレンジしています。

まごころ本舗の平田未来さん

同社は数年前まで、そのほかの多くの不動産業を中心とする買取・再販の事業者と同様に、20年程度の築年数の浅い中古物件を購入し、塗装のし直しや壁紙の張り替え、水まわりの交換といったコストを抑えた表面的なリフォームを施して、手ごろな価格で販売していました。
しかし、高校・大学と建築を学び、家業(自社)に入った後は、「現場(施工)が分かる設計者を目指すべき」という光一郎さんのすすめもあり、3年間、大工として修業を積んだ平田さんは「より高い建築的なスキルが求められる仕事にチャレンジしたい」という思いを膨らませていったのです。

平田さんは、そんな思いを抱えながら、新潟県内の工務店や設計事務所、一般の人や建築を学ぶ学生など“住宅好き・建築好き”が集まるコミュニティー「住学(すがく)」の活動に参加しました。そこで、サトウ工務店の佐藤高志さんやネイティブディメンションズ一級建築士事務所の鈴木淳さんなど、先駆的に性能やデザイン性に優れる家づくりに取り組む諸先輩たちと交流しながら、いまとこれからの家づくりや住宅市場などについて学びを深めるうちに、自社の事業に「フルスケルトン(構造以外を取り払う工事)の性能向上リノベーションという新たな要素を重ね合わせていこう」と決意を固めていきました。


築60年をG3にリノベ
「自宅」から実践

光一郎さんから「やってみるから始まる」の精神を受け継いでいる平田さん。さっそく、新潟市内で購入した築60年近い約40坪の中古住宅をHEAT20・G3レベル(省エネ基準地域区分5地域)の断熱性能、等級3相当(上部構造評点1.6)の耐震性能を備える自宅兼ショールームにするフルリノベーションを敢行しました。

平田さんが自宅としてフルリノベーションを施す前の状態

今年の夏に完成し、いまは奥様と幼いお子さんと3人で暮らしながら、「体感によって得た情報とともに中古住宅×性能向上リノベーションという住まいの選択肢を地域の人たちに伝えていきたい」と張り切っています。

リノベにより生まれ変わった平田さんの自宅

平田さんは「(住学を通じて交流のある)オーガニックスタジオ新潟の相模稔さんたちが確かYouTubeかなにかで『いい家をつくっている工務店の社長が意外といい家に住んでいなくて、それで自社がつくる家の良さを本当の意味で伝えられるのか』といったような話をしていて、そういうのも頭の片隅にはありました」と笑いながら話します。


ニーズの変化を追い風に

ウッドショック・資材ショックなどにより新築住宅の価格が高騰するなか、平田さんはこれから自社が力を入れていく中古住宅買取・再販×性能向上リノベーションの事業に大きな可能性を感じています。住宅の性能に対する生活者のリテラシーが上がっていることも追い風です。
「例えば性能値が示されていないローコストの新築住宅と、耐震性(構造)や温熱環境の計算書、長期優良住宅の認定書、BELS評価書、C値1㎠/㎡を切っている気密性能測定結果書、施工前・施工中の写真を完備した築40年のG2・フルリノベ住宅が同じ価格で並んで建っていたら、リノベ住宅の方を選択する生活者が確実に増えているのではないか」と平田さんは見ています。

いまのところは、新潟市中心部から少し離れた郊外エリアで、築30~40年の中古物件(土地込み)を600万~800万円程度で仕入れてフルリノベし、2200万~2400万円程度の価格で販売していくことを想定しているそうで。平田さんは「最近、新築を土地から手に入れようとしたら3000万円を大きくオーバーする予算が必要。高い性能の住まい、自然あふれる郊外での伸びやかなライフスタイルを1000万円近いコストメリット(価格差)と合わせて提案できたら、顧客にとってかなり魅力的な選択肢になるのではないか」と、生活者に対する想いも込めて語ります。


「長期優良化リフォーム」
補助金活用を積極的に提案

「リノベの最大の魅力は、性能の高い良い住まいを、よりお得に手に入れられることです」と平田さん。そのための一策として同社では、最大250万円の補助金を受けられる国の「長期優良住宅化リフォーム事業」を積極的に活用しています。平田さんは「スケルトンによるフルリノベは、つくり手にとっても非常にやりがいがある」と話します。構造や断熱について、きちんと設計したとしても、設計通りの性能を担保するための現場施工は、新築に比べて格段に難しいのです。現場でのチャレンジと工夫、そして経験を積み重ねながら、より精度の高い施工ノウハウを蓄積していく考えです。

設計についても、既存を生かすリノベは制約が多く選択肢が限られ、新築注文住宅とは違った難しさがあるそうですが、「それが自分には向いている」と平田さんは笑います。「選択肢も“正解”も無限にある新築注文住宅に比べて、制約が多いリノベはそのぶん、ある程度“ベストな答え”がある気がしています。さまざまな検討を重ねて、その答えにたどり着く感覚が自分にとっては魅力的」(平田さん)。


事務所移転、地域の交流拠点に

同社は一昨年、手狭になっていた新潟市内の事務所を、築85年の空き家となっていた古民家(延べ床面積122㎡)をフルリノベーションした建物に移転しました。新事務所には、リノベの魅力を発信するショールームとしての機能だけでなく、地域の人たちがさまざまな活動に利用できるコミュニティスペース、「耐震シェルター」や9kWの太陽光パネル、4kWの蓄電池を備え、災害時には住民が避難できる防災拠点としての機能も持たせました。

空き家になっていた築85年の古民家をフルリノベーションした事務所は、地域交流の拠点として開放。太陽光発電や蓄電池、耐震シェルターなど、地域の防災拠点としての機能も備える

平田さんは「いまはコロナ禍で地域の人たちに利用してもらうことが十分にできていないが、コロナが収まったら地域の人たちが気軽に立ち寄り、利用できる場所として開放していきたい」と語ります。平田さんは社会貢献的な活動も積極的に行っていきたい考えで、地元・新潟大学創生学部の学生たちが授業の一環として行っている企業訪問を受け入れ、自社の事業について説明するなどもしています。

平田さんは今後、「部分リノベ」事業に可能性を感じているそうです。「郊外の中古物件は40坪を超える大ぶりなものが多く、1階と2階を完全に分けてリノベし、コストを抑えながら、快適で健康、省エネな居住空間を確保するという選択肢は潜在的なニーズが非常に大きいと感じている」とし、「フルスケルトンリノベよりさらに難易度は高いかもしれないが、だからこそやりがいがあるし、自分たちの存在価値も今以上に発揮できるのかもしれない」と先を見据えます。


文:新建ハウジング編集部


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