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地域のつむぎ手の家づくり|「かっこよくあたたかく そして人に気に入られる家を」 四代続く地元大工のプライド胸に <vol.7/宮﨑建築:新潟県阿賀野市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

冬にはたくさんの雪が降り積もる新潟県阿賀野市にある宮﨑建築は、明治から続く大工の家系の四代目の宮﨑直也さんが、妻の康子さんと信頼を寄せる大工の3人で営む小さな工務店です。

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その小さな工務店がつくる「あったかい家」が、地元の人たちに喜ばれています。「家は寒いもの」と思っていた人が、暖かくて快適な家に驚きながら、そこでの暮らしを楽しむ姿を見ることが、より良い家づくりを追求する宮﨑さんの原動力になっています。

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コロナの外出自粛期間も「ストレス感じなかった」

コロナ禍のなか、宮﨑さんが昨年、引き渡してから1年半ほどのオーナー宅をひさしぶりに訪ねたところ、家族から「家は快適だし、子どもたちは庭で遊べるし、コロナの外出自粛期間もまったくストレスを感じなかった。家ができてからは家で過ごすのが楽しくて外食もあまりしなくなっていたから、外食ができないことも全然気にならなかった」との言葉をかけられ、感謝されたそうです。

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「つくり手冥利に尽きる。すごくうれしかったし、自分の家づくりへのこだわりが報われたように感じました」と宮﨑さん。これからも地道にいい家をつくり続けていこうと改めて決意を固めました。

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寒冷地で積雪も多い地域で、宮﨑さんが暖かくて経済性(省エネ)にも優れる家をつくっていこうと決めたのは9年前の東日本大震災がきっかけです。「なぜ、震災が自分の決心につながったかは自分でもわからないのですが、被災地の光景をテレビ越しに見たとき、とにかく『いい家をつくらなきゃ』といてもたってもいられなくなったんです」と宮﨑さんは当時を振り返ります。

震災の直後に、新住協(新木造住宅技術研究協議会)が提供する外皮性能や暖冷房エネルギー消費量が計算できるソフト「QPEX」を購入し、快適で省エネ性能が高い家づくりを突き詰めていく方向へ踏み出しました。そのすぐ後には、新住協に入会。高性能な家づくりに取り組む県内外の仲間(会員)の工務店の現場を見せてもらうなどしながら、時に教えを乞い、自分なりに学びを深め、実践を繰り返しました。「同じ志を持つ仲間との交流は非常に刺激になり、『自分もやるぞ』とモチベーションが高まるんです」と宮﨑さんは語ります。

地元の暮らしと家計を劇的に変える

宮﨑さんは、暖かい家を提供するようになり、改めて生まれ育った故郷で「住宅の暖かさ」が持つ価値の重要性を思い知らされました。家を引き渡したオーナー家族は、宮﨑さんが驚いてしまうほど、暖かい家を喜んでくれ、感謝してくれるそうです。

そんな家族の姿を見て、声を聞きながら、宮﨑さんは「ああ、みんなそもそも『家は寒いもの』と思っているから、『暖かい家にしてほしい』と注文されなかったのか」と愕然としました。「暖かい家が、本当はこんなにも求められていて、こんなにも喜ばれるなんて」と気づいた今は、「地域の人たちに快適に暮らしてもらうために、言われなくても暖かい家にしよう」と使命感に燃えています。

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宮﨑建築がつくる住宅の断熱性能は、HEAT20・G2*、付加断熱+トリプルガラス樹脂サッシを標準的な仕様とし、予算的な都合がある場合でもG1は上回ります。宮﨑さんが自ら構造計算を行う耐震性については、等級2以上を必須としながら、より高いレベルの等級3を提案。

*「HEAT20」(ひーとにじゅう/一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)が出している断熱グレード(レベル)で、高断熱住宅のものさしとして参考にできる。グレード1(G1)とグレード2(G2)があり、G2が上位レベル。
性能の解説はこちら▼
住まい×健康の専門家が解説!高断熱住宅で暮らすメリット
断熱性能ってなに? 断熱性能の基本と性能値の読み方

暖房は床下エアコン1台、冷房は2階のホールや吹き抜けに設置する壁掛けエアコン1台で、家全体を賄うのがスタンダードな形で、換気は熱交換式(ダクト式)を採用しています。

年間の冷暖房費(電気代)は6~7万円程度で済みます。古く大きな農家住宅も数多く残る地域で、「冬の間、灯油にプロパンガスにエアコンも加えて月に数万円というものすごい額の暖房費を払っている」世帯にすれば、快適さだけでなく家計も劇的に変わることになるのです。

「あったかいけどダサいという家は嫌」と話す宮﨑さんは近年、デザイン面のレベルアップにも精力的に取り組んでいます。素材などについては以前から、外壁はサイディングを用いずに木(板)・左官・金属、室内は床に無垢フローリング、壁に珪藻土クロスなど、建具は既製品は使わずにキッチンや棚などの家具も造作する、といったこだわりを持ってやってきました。

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最近では、自社の住宅が醸し出す世界観をさらに魅力的なものにしたいと、建築家や設計事務所とコラボする案件を増やしているそうです。「設計(プラン)そのものも確かに素晴らしくて参考になりますが、一番勉強になるのは建築家が語る言葉です。たとえば『なぜ、そこに開口部(窓)を設けるのか』という一つひとつの言葉からも、建築の奥深さを知ることができるんです」と宮﨑さん。コラボによって得られる知識やスキルを自らの設計力やデザイン力の向上に役立てながら、自社が手掛ける住宅に今まで以上に“建築的な厚み”を加えていきたいそうです。

高い基本性能は当たり前。“無言の信頼”に応える

宮﨑さんは、地元・阿賀野の隣にある新発田市内の高校を卒業後、県産材を用いた大工による家づくりで知られる重川材木店(新潟市)に入社し、大工としてキャリアをスタートしました。2年間の寮生活を含む同社での4年間の修業を通じて、墨付け・手刻みといった伝統の大工の技、現場の整理整頓やマナー、洗練されたデザインと納まり(ディテール)、当時県内で先駆的に取り組んでいた高断熱・高気密の知識・技術など全ての基礎を学びました。「誇り高い大工のあるべき姿を知ることができたのは、いまも自分の大切な財産になっています」と宮﨑さんは語ります。

四代続く大工が営む地場工務店には、暖かく快適な高性能な住宅を手掛けていることなど知らずに、地元のつながりだけで「頼むよ」とやって来る顧客も少なくありません。それだけに宮﨑さんは「だからこそうちには、高い基本性能を備え、快適に暮らすことができ、長く愛される住宅を提供することで、その“無言の信頼”に応える義務があるんです」と気持ちを引き締めます。

今後は、新築よりも改修(リノベーション)を主体的に手掛けていきたいという宮﨑さんの「もしも地元の人たちが、うちのことを知らずに、ハウスメーカーやリフォーム屋さんに改修を頼んでしまったら、本当に暖かくて快適な暮らしを手に入れられないかもしれない」との言葉にも、地場工務店のプライドがにじみ出ます。

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古い農家住宅を生まれ変わらせたリノベーションの事例

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耕作放棄地と一緒に買い取った農作業小屋を
リノベーションした事務所

無我夢中で、あったかい家づくりに取り組みながら、一緒に仕事をする妻の康子さんと、家庭では3人の子どもを育てる宮﨑さん。『大工さんみたいにかっこよくあたたかくそして人に気に入られる家をつくってくれとたのまれたいです』。長男が、小学生のときの宿題で書いた「10年後の自分」に宛てた手紙は、いまも宮﨑建築の事務所に貼られています。「自分なりの挑戦や試行錯誤、そして手応えや喜びを、子どもたちも見ていてくれてるんですかね」と、宮﨑さんは少し照れながら、でもうれしそうに話してくれました。

文:新建ハウジング編集長 関卓実
写真:宮﨑建築提供

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