最前管理は悪?

暴力事件、チケット偽造、アイドルとの繋がりなどの悪評で度々話題に上がる「最前管理」ですが、実際のところ彼らの実態とは何なのでしょうか。

私自身もアイドルオタクとして熱量高く現場に通っていた頃は最前管理と関わることも少なくなく、知り合いも何人かいたため、内部事情もある程度理解しているつもりです。当時とは人の入れ替わりや環境の変化もあるでしょうから、現代のそれを正確に捉えているわけではないかと思いますが、当時の印象等含めて私なりの見解を書いていこうと思います。

まず前提として、ここでいう「最前管理」とは最前列の場所に誰が入るかを出演グループ順に管理する"行為"のことを指すのではなく、最前列でライブを見ることを好む各アイドルグループのファン同士が協力関係を持って組織化された「最前管理」という"グループ"のことを指すということを理解してもらう必要があります。

どういうことかわからない方のために嚙み砕いて説明すると、最前列でライブを見るファンには最前管理とそうでない人がいます。そして、一見最前管理のように見える人でも正確には最前管理ではないというケースが多々あります。最前管理とは、正確には「最前管理」という組織に属している人であり、その組織は大袈裟に言うと会社のようなものです。この組織に属する人は、組織内でのルールや上下関係、役割、権限範囲などを遵守するよう統制されており、グループ全体が縦と横の人脈で形成されている巨大組織になります。また、この組織に属する人には明確に帰属意識があり、組織内の人間か組織外の人間かについては一線存在し、界隈では、組織内の人間を"管理"、組織外の人間を"管理外"と呼ぶことが多いです。

この前提を踏まえた上で、この「最前管理」という組織が悪かどうかという本題に入りますが、私個人の見解としてはこうです。

"悪もいれば善もいる"

全く当たり障りのない意見ですが、この表現が正確だと個人的には思います。以下、その理由を説明しようと思います。

まず、最前列を占拠する行為について。

これ自体はイベントのルール上問題ないと思います。アイドルのイベントには対バン形式が多く、座席自由またはオールスタンディングのため、席や場所を交代することは自由です。たとえそれが最前列7人分の場所を占拠していたとしても、出演グループごとにその場所を交代すること自体は他人の場所を退けるなどの迷惑行為ではないため指摘されるようなことではありません。また、交代する相手についても最初に場所を取った人が場所を"譲る"権利を持つことは言うまでもないため、誰と交代しても文句は言われないはずです。

しかし、この「最前列を占拠する」という行為が全うな手段で行われず、ルール違反をして実施された際には、それは「最前列を占拠する」という行為とは切り離して問題にすべきだと思います。全うな手段とは例えば、チケットの整理番号順に正しく入場された上で、最初に確保した場所の範囲を守った上でファンが入れ替わるような形です。これに、整理番号が早い人を脅す行為や、入場人数分以上の場所を広く確保して仲間を後から入れる行為(ポシュ)、最前列の場所を持っている他のファンを暴力等で剝がす行為、最前列の人同士の間に無理やり割り込んでスペースを広げる行為、最前列と2列目の間に割り込んで壁役となる行為などが絡んだときには、その行為を指摘してペナルティを課すことは必要だと思います。

実際、最前管理は毎回のイベントで整理番号の早いチケットを必要数揃えるよう努力しているとは思いますが、時には必要なチケットがどうしても手に入らずこういった違反行為をすることもゼロではありません。

近頃では、"最前管理行為の禁止"を掲げるイベントや当該行為をしたファンに出入禁止処分を下すグループ(運営)も現れ始めましたが、トラブルの本質は最前管理行為ではなく、また、当該行為の定義やルール違反の線引きが難しいため、最前管理行為を禁止事項として掲げてイベントを開催したとしても効果的なトラブル対策にはならないと思います。それよりも、セキュリティスタッフによる警備強化や明確なルール作りにリソースを割く方が効果的であると思います。

次に、組織の体質について。
先ほど、最前管理は上下関係や役割などで統制されている組織であるという点に触れました。この点は、ある種の文化的な側面がある部分ですので全く関わりの無い方にはイメージできないかもしれませんが、どういった点が他のファンと違うのか、例を挙げて説明しようと思います。

まず、地下アイドルの対バンイベントでは出演グループが20~30分の持ち時間で順にステージでパフォーマンスをするため、各グループの出演時間ごとに最前列のファンはそのグループのファンに場所を譲り合う形になるのが常です。そこでは、事前に"交渉"が発生し、"グループAの出演時刻になったら場所を譲ってもらい、グループAが終わったら元の持ち主に場所を返す"というような約束に基づいて最前枠の交代が行われます。

この"譲り合い"というのが前提で最前列の場所が扱われるのであれば、どのグループのファンもお目当てのグループを最前列で見る機会が生まれる点で理にかなった文化だと思います。しかし、全てのイベントでこのような平和的な譲り合いが成り立っているわけではありません。
このようなある種"誰でも"最前列で見れる可能性があるのは最前列の端の方のみで、ステージの中央寄り(ライブを正面から見ることができる良い位置)のエリアではやや事情が変わってきます。

最前管理は、最前列の中央寄りの場所でライブを見ることを好むためイベント開始時に中央寄りのエリアで5人分や7人分の場所を確保することが多く、このエリアは「管理枠」と呼ばれています。

この管理枠では通常、最前管理内で共有されている"バミ表"と呼ばれる、どのグループの時に誰がどこの最前枠に入ることになっているのかが一覧になっている表に従って交代が行われるため、最前管理もしくは最前管理と関わりのあるファン同士で円滑に進行するように完結していることがほとんどです。

また、このバミ表にはグループによっては空きが出ることがありますが、この空きには場所をキープしておくことを目的に誰かが空きを埋める形で最前枠に入ることになります。これが所謂「張り」です。
張りであれば、管理外のファンであっても最前管理に交渉することで目当てのグループの最前枠を譲ってもらうことは可能ですが、そう上手くいかないケースも多いです。

管理枠では、各グループの最前管理が決定権を持っている場合が多く、最前管理に交渉をしたとしても目当てのグループの最前管理でなければ、該当グループの最前管理やイベントの仕切り役(立場が上の者)に確認をする手間が発生します。確認をせずに最前枠を他のファンに譲り、そこで何らかのトラブルが発生したとなると、該当グループの最前管理からお𠮟りを受けてしまうリスクがあるためです。

何らかのトラブルとは、例えば横連(同じ推しメンのファンが横に並んでライブを見ること)を嫌う最前管理だった際にその状況が偶然起きてしまうことであったり、バミ表では空きになっていたとしても別の人に最前枠を譲る話が裏で決まっていてバッティングが発生してしまうこと、他のファンに場所を割り込まれて最前枠自体が狭くなってしまうことなどが挙げられます。

また、最前管理は管理枠を確保するために抽選チケットを必要数以上購入し、場合によっては負債を折半する他、早番チケットを手に入れるために他のファンと何らかの交渉をしていたりとコストや手間をかけている場合がほとんどであり、イベントの開場時刻から入場をして張り等でキープしている最前枠を見ず知らずのファンに譲ったことで何らかのリスクを背負うのを嫌う最前管理がいるのも頷けます。この、ある意味"会社的な"組織の都合により最前枠が空いていたとしてもそう簡単に譲ってもらえないというケースが生まれるのです。

しかし、こういった都合は最前管理以外のファンには知る由もありません。他のファンからすると、"イベント中ずっと最前枠をキープして目当てのグループのファンに譲ってくれない集団"に見えてしまってもおかしくはありません。交渉を断られた挙句、自分の目当てグループのライブ中に最前でスマホをいじりだされたなんてクレームもよく聞きます。

本来、場所を譲るのはその場所を取った人の権利であるはずですから、自分の目当てグループを最前枠で見たいのであれば、最前枠を持っている人に譲ってほしいとお願いをするか自分で早番を入手するなり行動する必要があります。

もちろん、最前管理も人間ですから常識を持った優しい人もいます。(中には自分勝手で横暴な人間もいますが、全員が全員そうではそもそも組織として成り立たないはず)イベントに開場時刻から行って交渉するか、早番のチケットを手に入れて交渉すればいい加減な対応はされないと思います。

私個人の考えとしては、最前管理の中には不正やルール違反をする者もいるとは思いますが、そうではない常識的な人がいることも経験上理解しています。組織が大きいだけに一部がトラブルで騒がれると全体としてマイナスなイメージで見られるのは致し方ないと思いますが、最前管理だからといって悪者扱いするのではなく一人のファンとして関わるべきかそうでないかを見極めるのが良いと思います。その点は他のファンと何ら変わりのないことのはずです。





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