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司法試験に独学合格するためのおすすめの基本書【刑法編】
この記事では、司法試験に初回受験で合格できた筆者が、合格するために使用していた刑法のテキスト・基本書について説明していきます。
刑法については、体系が明確であるため、「得意」「好き」「民法よりは刑法」と感じている人も多い印象です。
なかには、科目としては好きなのに、あまり刑法を得点源にできていないという人もいると思います。
本記事を参考に、学習にテコ入れすると効果があるかもしれません。
以下、目次で一覧が分かるようにしていますので、気になるものがある場合にはチェックしてみてください。参考までにAmazonの広告リンクも併せて掲載しておきます。
1.刑法の勉強方法について
刑法は、非常に論理的(ロジカル)な学問であるため、受験科目の中でもハマる人が多い科目です。
そして、非常にたくさんの学説が対立しているため、まずは判例・通説の考え方を軸として抑えることが重要です。
近年の司法試験も、従来の通説的な考え方に対して、さらなる検討・批評的な視点を加えられるか、という設問も出題されています。
2.司法試験のために使用した刑法のテキスト
私が、司法試験を受験するにあたり、使用していたテキストや周囲の受験生が使用していた基本書等を紹介したいと思います。
書店や図書館でも手に取りやすいように、説明の下にリンクを貼っておきます。
最初に言ってしまいますが、
・授業で指定されている基本書
・みんなが使っているテキスト
であれば、どれを使用しても大丈夫だと思います。
怖いのは、たくさんのテキストに手を付けすぎて、体系化できずに中途半端な理解状態になってしまうことです。
極論を言えば、刑法のテキストに関しては、「総論」と「各論」で1冊ずつ合計2冊で勉強するというスタイルでも問題ないかと思います。
それでは、順番に紹介していきます。
①『刑法総論(第3版)』:山口厚
まずは、山口2冊本の総論こと、『刑法総論(第3版)』です。
この基本書を使用していた理由は、法学部生の刑法の授業で推奨テキストの1つとされていたからです。
「文章が難解」というレビューもあるようですが、
著者の山口厚先生は、平成29年から最高裁判所判事に就任されており、まさに刑法の大家が記した体系書ですので一読の価値があります。
結果無価値論で答案を書きたいという場合には、何度も立ち返って参考にすることができると思います。
否定的なレビュー:
「文章が分かりにくすぎる。知識を凝縮しているから難解になっているのではなく、単に読み手に配慮できていない文章だから分かりにくくなっているだけ」
肯定的なレビュー:
「決して現役の法律実務家やそれを目指す学生の立場と反するものではなく、体系的理解が重要視されるこの分野でいかなる立場をとろうとも一読の価値があります。」
②『刑法各論(第2版)』山口厚
2冊本のうち各論の『刑法各論(第2版)』です。
レビューでも指摘されているように、保護法益・制度趣旨から法解釈をしているため、答案を作成する際にも非常に参考になります。
制度趣旨からいえば、判例解釈論は、広すぎるor狭すぎる、という指摘も明解にされており、まさにそうのような問題点を意識したような司法試験の過去問もありました。
肯定的なレビュー:
「先生の刑法各論体系及び個々の犯罪における保護法益論・処罰根拠論から展開される緻密な解釈論は刑法各論の解釈方法を学ぶ絶好のお手本となろう。」
③『刑法 第3版』:山口厚
3連続、山口刑法ですが、私が好んで揃えて使っていたというだけですのでご了承ください。
しかし、この『刑法 第3版』は総論・各論が1冊にまとまっており、択一の復習や本番のときスーツケースに入れて宿に持っていくとしたら、私ならこの1冊ですね。
前述の総論・各論の別冊を読み込んだ方なら、この『刑法 第3版』の行間についても難なく理解できると思います。
学習に1年以上余裕があるという方なら、総論・各論が分かれている方をおすすめします。
肯定的なレビュー:
「総論各論が一冊に纏まっており、無駄な記載も少なく、判例の量自体は多く、分量がしっかりとおさえられているため、刑法の基本書の中でも通読用としてはこの本を超える本は中々無いと言えます。」
否定的なレビュー:
「判例の引用や解説が薄く、重要な論点が大幅に端折られていたりするため、特別読みやすいというわけではなく、これだけは刑法を完全に理解するのは難しいでしょう。」
④『刑法総論 第3版』:西田典之
⑤『刑法各論(第7版)』:西田典之
西田先生の『刑法総論』と『刑法各論』も、私の周囲の学生に愛読している人は多かったです。
西田先生が亡くなられてからは橋爪先生が補訂されているため、近年の議論もしっかりと抑えられています。
レビューでも非常に高評価が多く、西田刑法で司法試験を突破している受験生は多い印象です。
肯定的なレビュー:
「性犯罪や自動車運転関係の部分は補訂した橋爪先生の記述が多いですが、特に違和感は感じられませんでした(補訂箇所において西田説を示す際にも「本書の立場」と記述されており、補訂者に徹した橋爪先生の苦心が見えます)。他の箇所は西田先生の記述が生かされており、引用文献のアップデートや各節末尾に最新判例の説明が付加されているくらいです」
⑥『基本刑法Ⅰ総論 第3版』:大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦
⑦『基本刑法Ⅱ 各論 第3版』大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦
実はファンが多いテキストではないでしょうか。「基本」シリーズの刑法総論・各論です。
学部生やロースクール生などの読者を想定して書かれているため、わかりやすさに定評があります。
判例の紹介や解説についても丁寧に記述されているため、受験勉強には最適かもしれません。
各論は非常に分厚くなっているので、まずは「財産犯」から潰すという方針で取り組んでもいいかもしれません。
3.副読本、その他参考書
⑧刑法判例百選Ⅰ総論(第8版)
⑨刑法判例百選Ⅱ各論(第8版)
刑法判例百選です。択一対策としてすぐに参照できるようにしておくべきでしょう。
具体的には、購入して持っておかなくても、自習室や図書館ですぐに確認できる環境を整えていればよいと思います。
「基本シリーズ」のようにかなり厚めに判例を引用してくれているテキストもありますので、そのような場合には、百選を別途参照する必要はないかもしれません。
⑩『刑法演習ノート-刑法を楽しむ21問 第3版』只木 誠 他
本書の大きな特徴として、明確に「答案を書く」という目的で書かれており、解答例として実際に設問に対する「答え」を見ることができるという点です。
「答案が書けずに悩んでいる」「書き出しがいつも難しい」と思っている方は、是非本書のモノマネから始めてみるのもよいと思います。
学者が答案の書き方について論じたり、参考例を示してくれている本は多くはないため、非常に有益な1冊になると思います。
特に、「司法試験合格者による」解答例は、みなさんの先輩方による答案構成例なので、目指すべき答案の完成形として設定しやすいのではないでしょうか。
肯定的なレビュー:
「解説が丁寧であること、文献の引用も充実していること、そして何より、全ての設問に司法試験合格者による解答例が付されていることである(これは本書の最大の特色でもあるといえよう)」
⑪『刑法総論の悩みどころ(法学教室LIBRARY)』:橋爪隆
⑫『刑法各論の悩みどころ(法学教室LIBRARY)』:橋爪隆
個人的に、上記「刑法総論の悩みどころ」は非常におすすめの副読本です。
いずれも橋爪先生による「法学教室」の連載を単行本化したものです。
とくに「共犯論」に関する記述については、全受験生に読んでもらいたいくらい整理されています。
「共同正犯が正犯とされている理由」「共同正犯が教唆・幇助と異なる理由」については、ご自身で判断枠組みを定立する際にも、非常に有益なはずです。
論証を固める際には、総論の共犯論と因果関係論については、是非一読されることをおすすめします。
肯定的なレビュー:
「特に司法試験受験生ならば是非とも熟読しておきたい。刑法総論の副読本の新たなる決定版である。ただし、論点を深掘りしていくという性質上、本書には、刑法総論の全体的な理解が進んでいなければ咀嚼することが難しい部分も含まれている」
「重要な刑法各論の解釈論について、学習者が躓くポイントを的確に押さえており、また学説や判例が出てくる前提である「なぜそれが問題となるのか」という点の解説がとても分かりやすい。
基本的に橋爪説は判例通説に近いものになっていると思われるが、この本の真価は、橋爪説というよりも、答案でいえば問題提起の部分にあると思われる」
おわりに
以上たくさんの基本書を紹介しましたが、間違っても全部読もうとしないでください。
まずはどの1冊でもよいので、1冊をしっかり大切に読んでみてください。
私にとって読みやすかったテキストが必ずしもあなたにマッチしているとは限りません。
図書館や書店で手に取ってみて、
「これなら読めそうだ」と思えるものをまず1冊進めてみるのが重要なポイントだと思います。
それでは、最後までお付き合いいただいた皆様に、モーフィアスのセリフをお贈りします。
「道を知ることと、歩むことは全くの別物だ。」(byモーフィアス 映画「マトリックス」より)
ありがとうございました。