「空白」

20220223@Netflix

なんともヘビーな作品だった。事の発端となる、女子中学生が万引きから逃れる途中に車にはねられてて亡くなる、その責任の所在を巡って展開されるという、まずそのスポットの当て方すごいな。

娘に対してまともに向き合いもしなかった父親(添田)が、娘を亡くしてようやく娘のことを知ろうとする。物語の終盤に元嫁から言われる「許せないのは自分自身のくせに」という、父親自身もそれを自覚しているようで認められないような葛藤や混乱から、不器用なあまり感情を露わに、周囲に強く当たってしまう。自分自身と向き合えていない人間って、感情に頼って衝動的に他人に責任を転嫁しようとする言動が出てしまうよなぁ。この映画でいうと、別に娘がなくなった責任が父親というわけでは決してないけど。
共に働く若手漁師に対しても、お前だけは味方だと思っていたと言っていたけど、そんな素振りも見せないしむしろ敵に近い認識を持っているような感じだったから、よっぽど不器用な性格。古田新太のあの顔面と良くマッチしていた。

松坂桃李もとてもよかった。悲壮感というか葛藤というか、自責の念を持ち続けながら心ここにあらずで途方に暮れる役どころ。被害or加害、正しいor間違いというような、どちらとも言えない・どっちとも言えてしまうような、どうしようもない両極に挟まれた立場。そのどうしようもなさが、この映画の行き場のない感情というものを表しているよね。

娘を演じた伊東葵、つい先日観た「さがす」のあの子じゃん。ご活躍ですねえ。ほとんど会話らしい会話は無かったけど、芯のありそうで陰のある役どころハマってる印象。

過剰なまでに世話焼きな性格の草加部さんの寺島しのぶ、何とも言えない役どころ。ボランティアやチラシ配りに見る、好意で圧をかけるような言動。周囲に偽善者とまで言わしめてしまうほどの正義感を持っていて、こちらも本人の不器用さが他人に疎ましく感じさせてしまう要因にもなっている。店長に対して、明らかに色恋としての好意が、この偽善っぷりを際立たせる。店長の自殺未遂のシーンで、どさくさに紛れてキスするシーン、あれはほんと嫌な気持になったな。からの「私がきもいんでしょ?私が若くて美人だったら云々」と感情をぶつけて、結局、好意的な言動の根幹はそこかよ、この期に及んでとことん自分本位な横暴っぷりだなと。
反して自分は、肉を食べないからと言って他人の好意(あれは同僚の単なるコミュニケーションとしての優しさだよね)を受け取らなかったり、感情が突っ走ってしまって自分が強行した送別会の目的を蔑ろにする描写も含めて、飲み会のシーンは印象的。

最初に事故を起こしてしまった女性が自殺してしまう。自殺した娘の母親は、当然自分を責めると思った添田は、逆に真摯に謝罪をされることで、ようやく冷静に事の顛末と向き合うきっかけにもなる。この母親も相当苦しんだだろうに。この辺もどうしようも出来ない感情に見てるこっちまで苦しい。

映画としては、ほとんど音楽もなく、説明的に過剰に台詞とかで使われることもない。ただ事実が並んでいる中で、どこをどのように受け取るか、どこから見るか、受け手に委ねられている感もあった。ヘビーな映画と言いながらも、こういうどうしようもなさと向き合っていく事が、事実とか現実の本質なのかなぁと思った。エンディングの「みんなどう折り合いをつけているんだろうなぁ」という父親のぼやきが、映画全体を支配するモヤモヤ感にエッジを効かせて、こちらに突き付けているように感じる。

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