ボクが見た音楽の世界 (7)
2015年、刺激的なピアノ科と指揮科の一年目を終えた。
それから様々なことがあったが、最も関心を持った事柄がある。
古楽である。
古楽というと、なんだかマイナーで古い曲ばかりを演奏して、なんでも速いテンポで弾いているイメージはないだろうか。
ボクにはあった。
しかし、それを覆してくれたのが、やはり指揮科のブルーノ・ヴァイル先生とラインハルト・ゲーベル先生だった。
ヴァイル氏は古楽的な演奏を得意としており、シューベルトの交響曲にCDブックレートには、用いられた全ての楽器製作者、製作年、所持団体が書かれていた。
2017年に発売された古楽器によるベートーヴェンの交響曲全集も非常に面白い。
ゲーベル氏も、実はボクが在籍している指揮科クラスの教授で、
かつての Musica Antique Köln の創設者、現在はベルリン・バロック・ゾリステン(ベルリン・フィル管弦楽団内のバロック・アンサンブル)の芸術監督をしている。
彼のバッハのブランデンブルク協奏曲はシビれる。
ぜひ一度聴いてみて欲しい。
それはそうと、まだ指揮を始めた当初はいわゆる古楽というものがよく分からない状態だった。
しかしクラスの教授が2人とも古楽のスペシャリストともなれば、その魅力にすぐ気付くことができた。
この2人の先生は、当時の楽器における特徴や問題点を教えてくれた。
さらに自筆譜、作曲家の性格、作曲者の作曲当時の気分までも尊重する大切さ。
どんな音楽に対してでもこの考え方は当てはまりそうだが、
実はこれこそが古楽的な考え方だと学んだ。
ドイツ語の中でも「古楽」に関する言葉がいくつかある。
"Alte Musik" と言われるものは「(時代区分としての)古楽」のことだ。
古典派よりも前の音楽のことを指す。
そして、"Historische Aufführungspraxis" という言葉もある。
日本語に直訳すると「歴史的演奏実践」だろうか。
多くは当時の楽器を用いて演奏するが、そうでなくたってもいい。
しかしこの "Historische Aufführungspraxis" 、
別に演奏するものは古典派までの音楽ではない。
ピリオド楽器のためのショパンコンクールが創設されたように、ロマン派も演奏するし、ドビュッシーが弾いていた古いベヒシュタインやラヴェルが好んだエラールで演奏することだって、これに入る。
作曲当時にどんな演奏がなされていたかを考えることが、すでに古楽的な考え方なのだ。
結局この2人の先生の影響を大きく受け、
ミュンヘン国立音楽演劇大学の"歴史的演奏実践"科で専門的に学ぶことにしたが、今のところミヒャエル・プレトリウス(16世紀後半)から後期ブラームス(19世紀後半)までを学んでいる。
ミュンヘンではクリスティーネ・ショルンスハイム先生のクラスに在籍してチェンバロやクラヴィコード、デュルケンやワルターやエラールなどの奏法について学んでいるが、当時の史実を考えながら演奏することにもワクワクしつつ、素直にかつての作曲家が聴いていたであろう古楽器の音色にもうっとりしている。
そしてそれをモダンピアノの演奏に生かすべきか生かさないべきか、生かせるなら何ができるのか、などのことを考えるのもとても楽しい。
この情熱も小さい頃から抱いていた、過去を想像することへのロマンから来ているのかもしれない。
おわり (多分)
〜ボクが見た音楽の世界(7) | 古楽への誘い〜
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