「どんちゃん騒ぎだ!!」~ブラック研修で土下座をさせられました
さて前回、土下座と洗脳の異様な研修を行う会社にも「疲弊した新卒の心を開き、親交を深める、ものすごい秘策があった」と書きました。
すぐに新卒と打ち解ける、伝統的な秘策です。
それは何か。
飲み会です。
馬鹿みたいです。これがこの会社が用意した秘策でした。
…若者と打ち解けたいなら、せめてバーベキューじゃね?
私達新卒は研修中も飯抜きではなく、お世話になっている施設の食堂で三食食べていました。そのうえに、深夜に宴会をするのです。御馳走(といってもスーパーで売ってる安い油っこいオードブルみたいの)とビールで呑め呑め。上司達は「どうだ、当社は至れり尽くせりだろうガッハッハ」と笑っていました。
ええ、確かにこんな異様な、色々はき違えたもてなしをする会社、ここ以外にありえないでしょう。
高校卒業したての新卒もいましたが、アルコールの規制がまだ少々緩かった時代なので関係なかったようです。
一日中訳の分からない討論させられ、殺伐とした中で戦わせられ、ろくに知らない他人の重いトラウマを掘る事を強制させられ、あげく一日四食、上司の太鼓持ちやおべっかをさせられ、果ては夜には飲酒と油っこい肴……もともと丈夫でない私の胃はキリキリ痛み出しました。私はお酒も得意ではありません。このころから何十年も付き合う事になる持病の胃痛が始まっていたのでしょう。本当に、後悔しかありません。
上司達は「酒を酌み交わせば打ち解ける」とでも思っているのか満面の笑みで呑めや歌え、まるで古い恩師か何かのように新卒たちに接していました。本人たちは「飴と鞭を使いこなすわしらベテラン♪」のつもりだったのでしょう。
「酒を酌み交わせば打ち解ける」という考え自体は私も好きですし、慣れ親しんだ人とちびちび酌み交わすお酒は嫌いではありません。ですが一日中あんなひどい目に遭わされ、こんな監獄実験のような状況で看守役を好きになれるわけがありません。
話は横にそれますが「白竜LEGEND~原子力マフィア編」という漫画があります。3.11前に原子力発電所の癒着などの問題にメスを入れた作品です。あまりに描写が鋭く、そのうえに東日本大震災が起きたせいで一度は連載中断になりましたが、今は単行本も配信していますし漫画アプリ等でも読めます。私はLINE漫画で読みました。
この作品の中で、いかにして電気会社が現地に原発を推進してきたかが描かれます。非常にリアルで興味深いです。普段の白竜と違って性的な場面もないので、今となっては学校の教材で使っても良いんじゃないかと思います。
どんちゃん騒ぎだ!!
(2021/07/04 本書を読み返した所内容に誤りがあったので修正)
第11話「原子力マフィア」で語られるのが、原発の安全性を証明する安全審査会のいいかげんさです。今となっては皆さんご存知の通り、中身は電力会社が雇った都合の良い御用学者です。
現地調査もおこないますが、それも電力会社の社員が御用学者一行に現地を案内するだけ。
「あとは…どんちゃん騒ぎだ!!」
御用学者達を酒と女でもてなしてどんちゃん騒ぎを重ねて懐柔していったと言うのです。
いくらなんでもそんなアホな、いい大人にそんな子供だましが通じるかい、と思いますが、実際にそうやって原発は日本中に広がりました。そしてこの会社の研修を思い出すとそうも思えないのです。
上の世代には、飲み会に妙な神通力のようなものを感じている者が多いのです。
呑めば相手の心を懐柔出来る、と本気で思っているのです。
…馬鹿じゃねぇの?
バブル時代がそうだったのか昭和がそうだったのか、自分の浅学ではわかりません。確かに美味しいものを食べながら話し合えばなんとなく腹を割ってお話できることもあると思います。でもそれはお互い魚心も水心もあればの話です。「白竜~」で語られた飲み会の場では、海千山千の裏社会の人たちが、人心を操るために、私達一般人が全く想像もつかないような様々な策や話術を使っていたのだと思います。
でもこの会社の研修はダメです。あんなやり方のまずい素人会社による洗脳研修の後にこんな事やっても、誰も会社の事を好きになんかなりません。私たちは魚心も何もないうちに土下座をさせられ、倫理を蹂躙されたのです。
このような狂った宴会こそ淘汰されてほしいものです。日本酒の売れ行きが下がっているというニュースを聞きましたが、長年こういう間違った使い方をされてきたから若者の酒離れが叫ばれるのではないかと密かに思っています。このコロナ禍ではなおさらです。
閑話休題、飲み会は研修の間、毎晩続きました。これは同じ研修に参加していた同じ新卒から聞いた話です。彼が休憩時間に外に出ると研修施設の人に呼び止められたのだそうです。そして、怪訝そうな顔でこう聞かれたとか。
「あの…毎晩何をしてるんですか?」
「…宴会です」
「…これは何の集まりなんですか?」
「…新入社員の研修なんです」
「け…研修!?…一体、何の研修やってるんですか??」
「……………」
このようなやりとりをしたとその人は疲れた顔で語っており、みんなで「そりゃそう思われるよね…」とうなだれました。あれだけ一日中罵声を響かせていれば、外にも丸聞こえです。私が施設の人なら、こんな異様な企業は絶対関わりたくありません。
飲み会でも起きる罵声
飲み会を行ってもトラブルは発生しました。
飲み会の後片付けを、何人かの女の子達が自分達で行ってしまったそうです。誰かが、後片付けって私達がやらなきゃいけなかったんだっけ?と言い出し、彼女たちはそのまま片づけを始めました。
気を利かせたのか、それとも監禁生活と討論生活で疲れ切って判断力がグチャグチャになっていたのかもしれません。無理もありません。若い女の子がこんなの耐えきれません。大人だって無理です。
普通に聞けばアラ気の利いたお嬢さんやねー、で済む話ですが、彼女たちは研修で呼び出され前に並ばされました。
「何を勝手なことをやっとるんだ!!!!!」
「指示してすらいないことを、なぜやった!!!!」
「指示しとらんことは、やらんでいい!!!!!」
罵倒を浴びる彼女たちの目は今でも覚えています。「死んだ目」とはああいう事を言うのかと。
「こんなどうしようもない新卒は初めてだ!!!!!こんなひどい研修は、初めてだっ!!!!!」
はい、「こんなのは初めてだ」モラハラ系の人物が洗脳の時に必ず使う常套句いただきました。もちろん絶対初めてじゃない筈です。ただの決まり文句です。
信じられますか。
これ、気を利かせて全員分の汚れ物の食器を片付けて洗った、18そこらのお嬢さん達に、いい年したおっさんが浴びせた罵声です。
もう、就職氷河期でさえなければ。当時「三年は我慢しなければ」という根拠のないことわざがなければ。当時、もっと経験と知恵があれば。こんな無茶苦茶な所蹴っ飛ばしてました。
「初めてだ」と言いますが私もこの会社を辞めたのち、いくつか同業の他者を転々としましたが、こんな最低な会社はここだけでした。
女の子達を怒鳴りつける上司の姿は本当に「異様」としか形容できませんでした。怒らなくとも良い事で激昂し、必要以上に怒鳴りつける。何か心に患うものがあるとしか思えませんでした。
いま思うと更年期障害のヒステリーを発症していたんだと思います。
「え、更年期やヒステリーってオバさんだけの話だろ」と言われそうですが、男性にも更年期はあります。年齢による男性ホルモンの低下で起きる男性更年期障害というのは実在します。漫画家のはらたいらさんがご自身の男性更年期体験をエッセイに書いたことで、そのことが世に知られるようになりました。つまりいわゆる昭和の頑固親父やカミナリおじさんって更年期のヒステリーなんですよ。
それに加え、こんな狂った研修を毎年行っていれば上司達自身もおかしくなっていくのも当然でしょう。今思えば、彼ら自身もむしばまれていたのです。
今思えばあの上司は主に女子社員にしか怒鳴っていませんでした。あの上司が強く出られる相手は、孫のような年齢の女子供だけだったのです。あわれなものです。
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