【Piano for myself】 かてぃんピアノ弾いてきました
丸の内で行われていたラ・フォル・ジュルネ東京2024というクラシック音楽フェスイベントで、念願だったかてぃんピアノを弾いてきました。かてぃんピアノ弾きたいとずっと思っていて、今回実際に弾くことができて、凄く嬉しかったです。
今日はこのピアノへの想い入れと、僕自身のことを少し書きたいと思います。
かてぃんピアノ
このピアノは、2023年の角野隼斗さんソロコンサートツアー"Reimagine"で全国を回ったスタインウェイのアップライトピアノです。
たまたまですが、このピアノにサインが刻まれた2023年3月10日、ツアー千秋楽の東京オペラシティコンサートホールに僕はいて、その時に初めてこのアップライトピアノの音色を聴いたのですが、聴いた瞬間にその優しく暖かみのある音色に心奪われたことをよく覚えています。
角野隼斗さんはこのコンサートのMCで「このツアーは新たな挑戦をしてきた。みなさんの何か刺激になったりきっかけになったりしたらなにより」と語っていました。そしてこのメッセージは僕の心に明確に刻まれました。僕は彼の演奏で感動すると同時に、自分もピアノが弾きたいと感じました。
そんな角野さんは、このコンサートから約1ヶ月後、このアップライトピアノで弾いた「追憶」の映像を公開し、拠点を日本からNYに移しました。この映像は未来に突き進む角野さんの置き手紙のような演奏です。
僕は彼のファンの1人ですが、拠点を移すこの決断には大いに興奮したし、これからどんな進化を遂げていくんだろうととてもワクワクしました。
そしてこの時、このアップライトピアノを全国で弾いてもらう「角野隼斗アップライトピアノプロジェクト」、通称 #かてぃんピアノ を開始したのです。
Piano for myself
コンサートで聴いた暖かみのある音色、そして「自分との対話に没入できるような」という Piano for myself のメッセージが持つ意味。
このプロジェクトが発表されて、真っ先に「いつかこのピアノが弾きたい」と思いました。ただ、いますぐ弾きたいというよりは、このピアノはこれから沢山の人と出会っていくと直感し、長い旅の中で、いつか弾く機会に巡り逢いたいな、そんな気持ちでした。
Piano for myself。このピアノと対話できたとき、自分が自分と何を話したいか。なぜ弾きたいと強く感じたのか。その気持ちを大切にしっかり育てたい、そんな風に思いました。
そしてかてぃんピアノが旅を始めてから約1年、2024年5月3日から5日の3日間でピンポイントで行けるタイミングがあり、このアップライトピアノを弾きに丸の内で行なわれたイベントへ足を運んできました。
実際に弾いた姿を撮影したので、こちらに掲載します。一応、この日に弾きにいくぞと決心してから、それなりに練習していったのですが、いざ目の前に座ると、気持ちが前のめりになってしまうし、周りには人もいっぱいいるし、5分の時間制限があって、正直信じられないようなミスばかりで、人様に見せるような演奏ではありません。
ただ、自分自身の気持ちと向き合った記録だし、自分の中の一つのきっかけであることは間違いないので、このnote投稿に添えておきます。
あの、本当に下手だし、恥ずかしいミスタッチばかりなので、優しい気持ちで見ていただけるとありがたいです…
もともとかてぃんピアノを弾くにあたって、フルで1曲弾こうと決めていた曲があったのですが、今回はその曲は弾きませんでした。
なんとなくですが、今回は仕上げた1曲を弾ききるというより、自分の家でピアノで遊ぶ感覚に近い状態で弾きたいなと思って、限られた時間ですが、ピアノを前にしたときに、その時の気分で少しずついろんな曲を弾こうと思っていました。(とはいえレパートリーがあるわけでは無いので、数曲つまみ食いできる曲を準備していた感じです)
1曲目:オクツマリリ/つもり、つもる
最初に弾いた曲は、奥津マリリさんがシンガーソングライターとして書いた曲「つもり、つもる」です。(SSWのアーティスト表記はカタカナでオクツマリリです)
子育てが中心となり、音楽表現から少し離れてただのリスナーだった自分にとって、また音楽を表現したいと思えたこと、そして表現する勇気をくれたのは、奥津さんの存在なんですよね。SSWとしてのオクツさんのライブは見に行ったことは無いし、音源も持っていないのですが、Youtubeでアーカイブされている限りでも、彼女の書く曲、歌う歌は人間味に溢れ、心に寄り添ってくれます。そんな奥津さんの曲に力をお借りしました。
この曲の伴奏は、ものすごく単音に近いシンプルな和音なので、初めてこのピアノの鍵盤に触れるのにちょうどいいと思っていました。そして、このアップライトピアノを弾きたいと恋焦がれていた自分の気持ちとリンクするこの曲の歌詞も相まって、このピアノに初めましての挨拶をする気持ちで鍵盤に触れました。心の中で流れる奥津さんの歌声が勇気をくれたことは言うまでもありませんが、そんな奥津さんへの感謝の気持ちも込めました。
※一応補足というか、僕のことをまったく知らないところからこの記事にたどり着いた方向けに、奥津さんのことを書いたnote記事もリンクしておきます。とっても素敵な方です。
2曲目:モーツァルト/ピアノソナタ第11番 第1楽章(主題)
この曲は、角野隼斗さんの今年のソロツアー”KEYS”の演目で披露された曲です。このコンサートに足を運んだ際、なんとなく耳に残る心地良いフレーズが好きで、単純に弾いてみたいなーと思ったのがきっかけで練習しました。(主題だけなら難易度も高くないし)
KEYSの後、自分の部屋用に電子ピアノを買ったのですが、楽器が上達するコツは、とにかく楽器に触れることという通り、すぐ手の届くところに置いて、ちょっとした気分転換でスッとピアノに触れられるようになったことは、想像以上に自分にとって有意義でした。これも角野さんから受けた刺激の賜物です。
目を閉じても弾けるくらいにはマスターしているつもりだったのですが、本番はヘロヘロでした。これはリベンジ案件ですね。次またかてぃんピアノを弾く機会があれば、もっと上手に弾きたいし、聴いてくださった方の琴線をちょっとくらいは震わせる演奏をしたいです。次なる目標になりました。
3曲目:ショパン/華麗なる大円舞曲(主題)
続いてはショパン。実はこれ、僕がかつてピアノを習っていた少年の頃に、発表会で弾いた曲なんです。もう遥か昔の話ですが、セルフリバイバルというか、もう全然弾けなくなっているけど、改めてピアノに向き合いたい気持ちで、最初のフレーズだけ練習しました。
せっかくちょっと弾けるようになってきたので(指はもたついてるけど)、次は1曲通して弾けるようになりたくなりました。練習あるのみです。
4曲目:角野隼斗/きらきら星変奏曲 Level 0
この曲だけ、途中からの切り出しです。
ここまで3曲を弾き、心の中ではもっともっと沢山弾きたい気持ちだったのですが、スタッフの方に5分と事前に念押しされていたこと、後ろに並んでいる方も多くいたことから、急に最後焦ってしまって、全然弾けなかったんですよね。最後にちょこっと角野さんの簡単フレーズ弾いて終わろと思ったのに間違えまくってしまって、でもミスったまま終わるのも収拾つかなくて。何とか着地した最後のところだけを切り出しました。
角野さんのスコアも購入したので、じっくり時間をかけて、レパートリー増やしていけたら嬉しいなと思っています。今はLevel 0だけですが、ちょっとずつレベルアップさせて、その都度演奏動画を上げるとかもやってみたいですね。
かてぃんピアノを弾いて
念願叶ってかてぃんピアノを弾きました。いやー嬉しかったです。本当に嬉しかったです。全然うまく弾けなかったけど、「会いたかった」の気持ちをつもりにつもらせてきたので、とにかく嬉しくて、弾きながら自分でニヤニヤしているのがわかりました。
鍵盤を叩いた瞬間に、その内省的な音色に、自分自身と向き合う感覚を覚えました。弾いているときに、ものすごい愛おしさを感じたのですが、今思うとその愛おしさは「このピアノを弾いてみたい、自己実現として音楽を演奏したい」と思う自分自身に対して抱いた感情かもしれません。
5分しか弾けなかったのですが、ずーっと弾いていたい気持ちでした。
このピアノを弾くことで、何か新しいチャレンジができそうという漠然とした期待を持っていました。僕は音楽を愛しているし、音楽を表現したいという気持ちも根底にあって、これから先も何からの形で音楽表現をしていきたいなと改めて思いました。
4人の子育ての最中で、自分自身の自己実現を優先することはできないですが、細くてもその気持ちは途切れさせず、これからも大切に育てていきたいと思います。次なる目標は、自分ではなく誰かに届く演奏をすることですかね。Piano for myselfで向き合った気持ちを、どこかの誰かの心に伝わる演奏に活かしたいです。
My Name is SO
ここから、かてぃんピアノへの想いに添えて、自分自身のストーリーを少しだけ書こうと思います。ものすごくパーソナルな話なので、興味ある方だけ読んでいただければ幸いです。
僕、実をいうと右手の薬指がないんですよね。
話すと長くなるのでサラッと書くと、24歳の時に骨巨細胞腫という骨の中にできる腫瘍が右手薬指にできたんです。搔爬骨移植手術という骨の中の病巣部をくり抜いて、その中に骨を移植する手術(僕の場合は人工骨というカルシウムの粒のようなものを詰めました)を2回やったのですが、再発に次ぐ再発で、26歳のとき、3度目の手術で指ごと切除しました。ちなみに最終的に入院・手術した病院は東京大学医学部付属病院で、角野さんが入学する前に、僕は赤門のあそこに入院していました。
改めてこんな書き方をすると驚かせてしまう気もしますが、自分としては不幸ともお涙頂戴とも思っていなくて、ちょっとした運命の悪戯くらいに捉えています。
ちなみに見た目がびっくりするほど綺麗で、パッと見の違和感はほとんどありません。何度も会っている人でも、知らなければ気付いていない可能性も高いと思います。隠すつもりは全然ないんですが、あえて言う感じでもないんですよね。
見た目はもちろん、機能的にもほとんど不自由がありません。お箸もパソコンも使えます。生きる上での不便はほとんどないんですが、音楽が好きな自分にとって、楽器演奏に関しては少々チャレンジングです。
ベースは主にツーフィンガー(人差し指と中指)やサムピング(親指)で弾くので基本的に影響ありません。ギターはアルペジオ奏法などで薬指を使うことはありますが、そもそも指弾きがあまりできないので、今のところその壁に当たったことはありません。子供のソプラノリコーダーを借りたときは、左手の小指を使うことですべてのポジションを押さえるやり方を独自に編み出しました。
僕はとにかく音楽が好きで楽器が好きなので、人生100年時代、これからもいろんな楽器にチャレンジするつもりです。
ピアノに関しては、元々ちょっと弾けていた分、少し苦戦しました。
薬指を切除した当初、初めて4本指で鍵盤を触った時は、体も脳もしっかり5本指を記憶していたので、「ドレミファソ」を弾こうとすると、「ドレミ」まで弾いたあと、脳が無いはずの薬指を動かそうとするので、どうしても「ファ」が弾けませんでした。あの時の薬指の神経伝達まではできるけど、動かすものがない感覚が不思議でしたね。
干支が一周回る月日を経て、脳も体も右手4番がない状態がニュートラルになってきたので、1 2 3 5でドレミファが弾けるようになりました。
ただ、かつて出来た運指は完全にゼロリセットされてしまったので、"Reimagine"で受けた刺激がきっかけで、ピアノ人生を再スタートさせた感じです。なんせ「ドレミファ」は弾ける体になったのですが、「ドレミファソ」や「ドレミファソラシド」の運指はよくわからないんですよね。完全に1からの出直しでした。でもなんか脳トレにもなるので、初心に帰った感じで、悪くはないです。
全然弾けないフレーズを1小節ずつ、2小節ずつゆっくり弾いて、それを繰り返し繰り返し反復練習する。昨日より今日、今日より明日。毎日少しずつ上達するのは、幼少の頃にピアノを習っていたあの頃を思い出しました。
今回かてぃんピアノで弾いた「華麗なる大円舞曲」は、かつて自分の特技でした。ピアノを見つけるとこのフレーズをいつも弾いていました。でも、右手4番がなくなってからは、脳と体に染み付いたフレーズは全く弾けなくなってしまいました。
今回ゼロリセットで弾いてみたのは、個人的なリスタートの象徴でもあります。主題のフレーズだけでしたが、練習して、1曲丸々弾けるようになりたいですね。
先ほども書いた通り、僕自身は今の状態を不幸とは感じていないし、コンプレックスもなく、自分にとって「普通」の中でピアノと向き合っているので、わざわざこんなことを書く必要はないと思っています。
ただ、かてぃんピアノの文脈に、未来に向けた子供たちへのメッセージもありました。それを見た時に、もしかしたらピアノが好きな子の中には、88鍵を10本の指で弾けない子もいるんじゃないかなと思ったんですよね。
もしその子が、誰かと比べて自分のことを「普通じゃない」と感じることあれば、それはとても悲しいことです。僕は9本指でも好きなピアノを弾いて人生を楽しんでるよ。音楽が好きな全ての子が、自分と向き合って音楽を心から楽しめることを願っています。
ちょっと前に自分のアカウント用のアイコンを作成しました。SOという名前の裏に円を9つ配置したデザインにしました。デザインを学んだことはないのでメタ的に意識しただけですけど、僕には僕にしかできないことがあるかもしれないし、自分の気持ちをこれからも大切にしたいなと思っています。
僕は一生音楽を続けると思います。かてぃんピアノと向き合えたことは自分にとってのリスタートのきっかけだと思っています。ベースも弾くし、ピアノも弾きます。他にもやりたい楽器はいっぱいあります。
人生をかけて、豊かな音楽を奏でていきたいです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。皆さん、素敵な音楽ライフを送りましょう。
SO / 奏
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