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チョップスティックマンと約束
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昔々あるところにチョップスティックマンと呼ばれるプロの殺し屋がいました。
チョップスティックマンは文字通りチョップスティックウェポンを使って標的を殺すのでそう呼ばれています。
もちろん他の武器のほうが殺しはしやすいのはチョップスティックマンも認めていますが、彼が必ずチョップスティックウェポンを使います。理由は師匠との約束だからです。
1
ある日、チョップスティックマンの元に新たな依頼人が現れました。
依頼人は素性をかくしていましたが、佇まいからヤクザさんであることをすぐ見抜きました。
標的はとある組の若頭補佐とのことで一週間以内に殺してほしいということでした。
明らかに厄介な匂いがします。しかしチョップスティックマンはいくつかの質問をして依頼を受けることにしました。
プロの殺し屋にとって依頼動機はただのノイズでしか無いということです。余計な詮索をするものは生き残れません。
依頼人が帰った後、チョップスティックマンは馴染みの情報屋に連絡を取り、標的の情報と依頼人の裏を取ることにしました。
情報屋は二日後に連絡すると言って電話を切りました。
二日後、情報屋から連絡が来ました。標的は毎週金曜日に、馴染みのピカピカ光るお城で大人のパーティーを開いているということがわかりました。そして、依頼人はやはりヤクザさんで、なんと標的と同じ組に属していることがわかりました。
あとその他幾つかの必要最低限の情報を聞くと、すぐに情報料を振り込んで電話を切りました。
依頼人の情報は裏を取ったのに、情報屋の話は信じたのか。
それは、お互いに嘘をつかない。これがこの業界の約束事だからです。
ふたりとも長年この業界に身をおいているのでそのことをよくわかっています。
今日は月曜日なのでまだまだ余裕はありますが、予期せぬ出来事が起きる可能性があるので早めに計画を練り始めることにしました。
2
金曜日の夜になりました。チョップスティックマンは標的が訪れるはずのピカピカ光るお城の近くで隠れていました。
黒い服に身を包み、黒いニット帽をかぶっているのでみごとに暗闇の中に溶け込んでいます。
季節は冬なので外気温はとても低いです。
そんな中でもいつでも動けるようにとチョップスティックマンは静かに身体を動かし続けています。
一時間ほど立った頃でしょうか、お城の駐車場に五台のヤクザカーが入っていきました。
チョップスティックマンはもうしばらく待ち、他にもヤクザカーがイないことを確認してから駐車場の方へ静かにしかし素早く向かいました。
本当は直接乗り込んで標的の首なり目なり脳天なりにチョップスティックウェポンを突き立てるのが手っ取り早いのですが、今回のケースでは取り巻きのヤクザさんたちの数が多すぎるので別の方法を取ることにしたのです。
さて、駐車場に入ったチョップスティックマンですが、お目当てのヤクザカーはすぐに見つかりました。しかしすぐに他のお客さんの車の陰に隠れました。
なぜなら、ヤクザカーの周りに三人も見張りのヤクザさんがいたからです。彼らはめんどくさそうに周囲を見渡しては「なんで俺が見張りなんて」「俺も参加したかった」などと愚痴っていました。
ヤクザさんのうち二人はドスを、残りの一人は服の下に拳銃を隠し持っている事がわかりました。チョップスティックマンはプロなのでわかるのです。
チョップスティックマンは素早く周囲を見渡して、他に障害になりそうなものがないことを確認しました。
そして、ポケットからチョップスティック警棒を隠し持つようにしてヤクザさんたちの方へゆっくりと歩き出しました。
愚痴っていたヤクザさんでしたが、「おい、あいつ」「ん?」と全員が敵意を込めた視線を向けました。
タダの一般人でしたら、視線を向けられた時点で足をすくめてしまうか回れ右をするのですが、チョップスティックマン歩みを止めませんでした。
「チッ」手前のドスを隠し持ったヤクザさんがチョップスティックマンに近づきました「おいテメェ──」
二人に距離が五歩まで縮まったとき、チョップスティックマンはチョップスティック警棒でヤクザさんの側頭部をぶん殴りました。目にも留まらぬ速度でしたのでヤクザさんは全く反応できず地面におねんねしました。
「ッ!?」「ドコノモンダテメッー!」
後の二人は泡を食って得物を取り出しました。ドスに拳銃です。拳銃は遠くからでも人を殺せるとても凶悪な武器です。
しかし、ヤクザさんが引き金を引くよりも前に、チョップスティックマンが投げたチョップスティック警棒が手に当たりました。
骨の折れる音がしてヤクザさんの手から拳銃が落ちました。
そして素早く距離を詰めてチョップスティック一本背負いでコンクリートに叩きつけました。もちろん昏倒します。
すぐに残りの一人が腰にドスを構えて突撃してきますが、冷静に避けてから顎めがけてチョップ。最後のヤクザさんは気絶。
チョップスティックマンはプロなのでタダのチョップでもマイクタイソンが繰り出すフック程度の威力があるのです。
見張りを全員倒したチョップスティックマンは、ひとりひとり丁寧に首を折って回りました。
次にすべての車にお手製のチョップスティックボムを仕掛けました。エンジンを掛けたら爆発するやつです。特別性で全てのボムは連動しているので一斉に爆発します。
最後に倒れたヤクザさんのうち一人の下にチョップスティック手榴弾を仕掛け、チョップスティック警棒を拾って駐車場の外に出ました。
3
さてさてパーティーを終えてホクホク顔で駐車場に来た若頭補佐一行ですが、ヤクザカーの周りで倒れているヤクザさんを見て色めき立ちます。
全員が得物を取り出して周囲を警戒しながらヤクザカーに近づきます。
ヤクザさんの一人が倒れたヤクザさんをゆすりました。「おいっどうした、なにがあっ──」カチリ。
ドカーン!
手榴弾が爆発して数人のヤクザさんが吹き飛びました。
「おいお前、俺を乗せて隠れ家に向え! 他のモンは俺が脱出するまで周りを警戒しろ!」
若頭補佐は口から泡を飛ばして指示を出し、ヤクザカーの後部座席に乗り込みました。
支持を受けたヤクザさんの一人が運転席に座り、エンジンをかけ──
ドカーン! ドカーン! ドカーン!
車は大爆発し、ヤクザさんたち全員が吹き飛びました。あるものは手足がおかしな方向に曲がり、あるものは壁に頭を打ち付けました。またある者はヤクザカーの破片で身体が真っ二つになりました。
標的の若頭補佐はもちろん、全員が死にました。
外からその様子を眺めていたチョップスティックマンは、生存者がいないことを確認して闇の中に消えました。
4
「よくやってくれた」
更に一週間後、チョップスティックと依頼人は再び顔を合わせていました。前回と違うところは、待ち合わせ場所が依頼人の所有している廃ビルだったことと、依頼人の他に三人の黒服がいたことです。黒服は依頼人の後ろで直立不動の姿勢をとっています。
チョップスティックマンと依頼人の間には木製のテーブルがあり、その上にはアタッシュケースが置いてあります。
「報酬の2000万だ。確かめてくれ」
チョップスティックマンが確認すると、中には札束が20組入っていました。いくつかの札束を手にとってパラパラとめくってみましたが全部本物でした。
チョップスティックマンは札束を戻してアタッシュケースの蓋を閉めました。
顔を上げると黒服がこちらに短機関銃を向けているのが見えました。
「つまり、こういうことなんだ。チョップスティックマン」
と依頼人は言いました。
「君は我々の組の若頭補佐を殺した。だから報復で殺される。君に関わりのある者も見せしめとして殺される。我々の組に手を出したらどうなるかを知らしめるためにね」
と依頼人は続けます。
「悪く思わないでくれ──」
依頼人のセリフは途中で途切れました。なぜならその首には鋭利なチョップスティックが刺さっていたからです。
更に背後の三人も一斉に崩れ落ちました。その首には同じようにチョップスティックが刺さっています。
もちろんやったのはチョップスティックマンです。彼の手にはいつの間にかチョップスティック鉄砲が握られていました。これは彼が本気で怒ったときにしか使わないウェポンです。
依頼人は殺し屋との約束を破るという裏業界の最大のタブーを犯してしまったのです。
チョップスティックマンはアタッシュケースを掴むとその場を去りました。後には死体とチョップスティックだけが残されました。
これが、大事な約束を破ってしまった者の末路です。良い子のみんなはきちんと約束を守れる大人になりましょう。じゃないと予想もしないところであっけなく死んでしまうかもしれませんよ。
めでたしめでたし。
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