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草原と猫の子

 目を開く。

 視界いっぱいに青い空が広がり、緑と白と青の雲が浮いている。どうやら私は屋外で寝ていたよう。なんでだろう? まあいいや。気温は程よく暖かくそのままだともう一度寝てしまいそうだったのでとりあえず上半身を起こすことにした。おはよう、新しい世界。 

 辺りを見渡すが見覚えのない場所だった。地面は短い色とりどりの草に覆われている。どうりで背中が痛くないわけだ。自然のベッドってところかな。所々に様々な形の木が生えている。中には実をつけているのもある。遠くの方には山があり頂点辺りに雲が漂っている。

 静かで良い草原だなあ。寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、穏やかな風が吹いた。緑の匂いが充満し、草が体を撫でる。少しくすぐったい。

 立ち上がって服に付いた草を払う。身につけているものはシンプルだが動きやすい軽装。私の春の普段着だ。
 さて、これからどうしようか。とりあえずお腹が空いた……。

 ねえ、君、ここで何しているの?

 突然後ろから声がした。高い子供の声だった。私は振り返った……が、そこには誰もいなかった。私は首をひねった。

 ここだよ! ここ!

 声は低い位置から聞こえた。私は下を向く。そこには白い毛並みの猫の子が二本足で立っていてこちらをじっと見ていた。目は澄んだ深青色で吸い込まれそうだった。そして、背中には綺麗な青色の羽が生えていた。

 ああ、ダメだよ。そんなに目を見ちゃ。吸い込まれちゃうよ!

 私は慌てて目をそらした。危ない危ない。この猫の子の忠告がなければ、今頃私は澄んだ青色の目に吸い込まれてしまっていたのだろう。私は猫の子と話がしやすいようにしゃがんで猫の子と対面した。もちろん、目を直接見ないように気をつけながら。

 うん、もう大丈夫だよ。それで、君は一体何をしているの?

 何もしていないよ、さっきまで寝ていたんだからね。

 つまりお昼寝してたんだね! 僕もお昼寝好き!

 猫の子は器用にピョンピョン飛び跳ねてどれだけお昼寝が好きかが分かる。その姿を見ているとこちらまで嬉しくなってくる。

 うん、お昼寝は気持ちがいいもんね。だけどお腹がすいたからいつまでも寝ているわけにはいかないのだ。

 お腹がすいているの?

 猫の子が言った。私は返事をしようとして、その前にお腹の音がぐぅーっと大きく鳴らした。いや、私が鳴らしたのではなくてお腹が勝手に鳴ったのだ。この悪いお腹め。恥ずかしさを誤魔化そうとお腹をぽんと叩くと再びぐぅーっと鳴った。猫の子がそれを見て笑った。

 お腹が減っているんだね。なら僕に着いてきて。美味しい実があるから。

 そう言って猫の子は二本足でトコトコ歩き出した。その後ろを私がゆっくり着いていく。猫と人の歩幅の差は歴然だ。時々猫の子が振り返り、私の様子をうかがう。優しい先導者君だ。なでてあげたいもんだ。

 しばらく歩き続けていると、先程、遠くに見えていた実のなっている木にたどり着いた。その木はトランプのクラブをそのまま取り出したような形をしていた。色は樹木が緑で葉が茶色。実はみずみずしいオレンジの様に見えた。

 この木に生えている実がとても美味しいんだよ!

 猫の子が振り返り、キラキラと眩しい笑顔で私を見上げた。

 確かに美味しそうなオレンジだね。……オレンジなのかな? あ、でも猫ってオレンジ食べられないんだっけ。じゃあ違うかな。

 んん? よくわからないけど美味しいよ! 食べてみてよ! あ、よかったら僕の分もとってくれると嬉しいな!

 私は推定オレンジの実を二つ取って、一つを猫の子に渡した。猫の子は前足で起用に果物を持つと、そのままガブリと食いついた。私も見習って皮ごとかぶりついた。

 皮も果実も柔らかかった。口の中にほどよい甘みが広がり、パンケーキの香りが鼻腔を突き抜ける。遠い昔、母親によく作ってもらっていたパンケーキが思い出される。最近食べてないなあ。懐かしさが胸に広がる。

 おいひいねえ!

 猫の子が口いっぱいに頬張りながら笑顔で言う。

 美味しいね。うん、本当に美味しい。

 私は四口で食べおえた。小さな実なのにフシギと一つ食べただけでお腹は満たされていた。

 だよねえ。よかったー。

 ありがとう。おかげでお腹と背中がひっつかなくてすんだよ。

 ええー! お腹と背中がくっついちゃうのー!? 

 猫の子が驚いた表情をして飛び上がった。私も驚いてしまい、手を伸ばして猫の子をキャッチしてしまった。猫の子は捕まえられている状態で私のお腹をジロジロ見る。私は少し申し訳なく思った。

 ゴメンね、驚かせちゃって、ちょっとした冗談のつもりだったんだけど。 

 大丈夫? 本当に大丈夫なの?

 うん、本当に大丈夫だよ。 

 そうなんだー。もー、本当にびっくりしたんだからね! 

 ごめんごめん。

 私はそう言いながら頬を膨らませてプンスカ怒っている猫の子をなだめるように頭を優しくなでる。ナデナデ。白い毛は想像以上に柔らかくいつまでも触っていたくなる。ナデナデ。ナデナデ。

 ふにゃぁー。気持ちいいー。

 ナデナデ。ナデナデ。手が止まらない。

 にゃー……。

 ナデナデ。ナデナデ。ナデナデ。

 ……すぅ……すぅ。 

 猫の子は私の手の中で寝てしまった。寝る子は育つ。

 私は木の陰にそっと猫の子を置く。しばらく寝顔を堪能していたが私も眠くなってきたのでもう一度寝ることにした。猫の子の近くで横になり空を見上げる。空は変わらず青く、緑と白と青色の雲が浮かんでいる。

 不思議な世界に来てしまったなと今になって思う。まあ、美味しいパンケーキの実と可愛い猫の子がいるし、なんとかなるでしょう。今後どうするかは起きてから考えよう。私はまぶたを閉じた。世界は静かで、猫の子の呼吸音と草木が風で揺れる音だけが聞こえる。

 おやすみこの世界。

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チルお
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