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ぴ~すふる その3
前回のあらすじ
サイダー:200イェン
フーセンガム:10イェン
トメバアがくれる飴:プライスレス
次へ行っちゃう
初めから
=>[マッドも博士の研究所兼自宅]
ピンポーンピンポーンピンポンピンポンピンポンピンピンピン……
「おーい! 博士―! きたぞー!」
タローがインターホンを鳴らしながら叫んでいると、扉の上部の壁がパカッと開いた。
ウィーン、ガシャン。
そこから監視カメラを持ったロボットアームが伸びてくる。
『合言葉を言え』と監視カメラから無機質なボイスが流れた。
「ムーンバードは目覚めない」とタローが答えた。
『よし』
ゴゴゴゴゴ。
監視カメラから厳かな効果音が流れ、扉は普通に内側に開いた。
中は明かりがついていないので暗く、入り口すぐに敷かれた緑色の泥除けマットしか見えない。
「おじゃましまーす」
しかし、タロー意に介さないで元気よく暗い室内に入った。
泥除けマットに丹念に靴にこすりつけていると、玄関扉が閉じた。
パッ。
そして、天井のライトが一斉に点灯した。
ウォールナット材フローリングの、なんの変哲もない廊下が奥の扉へ続いている。
タローは意味もなく壁を叩いたりしながら扉のほうへ。
罠などはなく、扉へはすぐにたどり着いた。
タローはドアノブを引いたが扉は開かなった。
「人呼んどいてこれだもんなー」
タローが愚痴る。すると、ドコからともなくまた無機質な声が響いた。
『合言葉を言え』
「……ムーンバードは目覚めない」
『入れ』
扉の向こうでガチャリと鍵が外れる音がなった。
「なんでいちいちに同じこと言わせるかねえ」
扉の向こうは、学び舎の教室ひとつ分程度の広さの部屋だった。
ただ、あちちこっちに大小様々な鉄が合わさってできた何か──博士のろくでもない発明品の数々──が雑に置かれているので、人が動けるスペースはそれほどない。
そして、部屋の中央では、白衣の男性がリクライニングチェアに腰掛けて、手に持った何かを熱心にいじくり回していた。長身で痩せ型。
容姿は整っているが、病人のように肌は白い。
男性の前にはスチールデスクが置かれており、横と上に博士がパソコンと呼ぶものが置かれている。
男性はタローが入ってきたことに気がつくと、片手を上げた。
「やあ、よく来たね」と、白衣の男性は言った。
「博士、なんか飲むもんくれんか。喉がカラカラでデンジャラスだぜ」
「あっ、ミネラルウォーターでいいかな」
博士と呼ばれた男性は指をぱちんとならした。
すると、天井からアームが伸びてきて、タローの前で止まる。
アームの中にはミネラルウォーターが入ったコップ。
「センキュー。あー、冷たい水も悪かねえな! で、なんか俺を探してたって聞いたんだけど、もしかしてアレについて?」
「うーん、まあ、関係はあるかな」
白衣の男性は、手元の金属の塊をテーブルに置いてタローの方へ椅子ごと身体を向けた。そして、両手の全ての指を合わせて指のストレッチを始めた。
「さっすが天才マッドも博士! 愛してるぜベイベー!」
タローは周囲をキョロキョロと見渡した。「で、ブツはどこっすか?」
「……いや、それがね……まだ完成していないんだ」
「――え?」
タローの動きが止まった。ギギギといった効果音がなりそうな動きで首だけを博士の方へ向けた。そして、同じセリフを繰り返した。マッドも博士は、顔を若干うつむかせて上目遣いでタローを見て「……えへ」と、小首をかしげて言った。
「帰るわ。完成したらまた呼んで」
「あー! ちょちょちょ、待って待って。言い訳をさせて──」
タローは踵を返して帰ろうとしたが、それより先に博士がデスク裏のスイッチを押した。
ガシャン! ガシャン!
扉が閉まり、天井から鉄格子が扉の前に降りてきた! ロックダウンだ!
タローはしばらく扉を見た後、ゆっくりと振り返った。驚くほど冷めた表情を顔に張り付かせて。
「博士、未成年監禁の罪は重いぜ」
「頼むから話を聞いてくれよタローくん。これには色々訳があってさ……。もちろん、タローくんの依頼を優先していたんだけどね、途中でどうしても最優先で対処しなきゃいけない事象が発生して……ね?」
博士は一度そこで言葉を切ってタローの表情をうかがう。
タローは、ポケットから溶けかけの飴を取り出して、難儀しながらもビニールから飴を引き剥がして口に入れる。
そして、わざと音を立てて噛み砕いた。
ゴミはポケットにちゃんとしまった。
どこからどう見ても期限は悪いだろうと博士は思った。さもありなん。
「ええとね……で、それでだけど。そのう、対処するために必要な素材があってね――使っちゃったんだよね……」
ガリッ。タローが飴の最後の一欠片を噛み砕く音がマッドも博士の言葉を遮った。もはや博士は怯える子犬のような表情になっている。
「素材ってどれのこと?」と、タローは訊いた。
「あっちを少し、こっちを少しって感じ、かな」
「もしかして隕石の破片も?」
「……うん。本当にゴメンね」
「…………」
なんとも言えない空気が二人の間に広がった。エアコンが稼動する音だけが部屋を包もうとした。が、その前にタローがため息を吐いた。
「はぁー。ま、やっちゃったことをグチグチ言ってもしかたねーしなー」
「タローくん……」
「あれっしょ? 博士のことだから、やむを得ぬとか断腸の思いで、みたいな感じだったんでしょ? ならしゃーねーわ。素材はまたとってこればいいしな」
タローはマッドも博士に向かってニカッと笑った。
気丈に振る舞う少年の姿を見て、マッドも博士の表情に少しずつ余裕が戻ってきた。
「本当にゴメンねタローくん。埋め合わせはするから」と、マッドも博士は言った。
「おう、頼むぜ博士。――ところで、俺を探してたのってその事を言うため? なら、俺はそろそろ帰るけど。素材を集めてこないといけないし」
「いや、実はね、ここからが本題なんだ。タローくんにしか頼めない重要なことなんだ」
先程までだらしない猫背だったマッドも博士は、急にスイッチが入ったように姿勢をピンと伸ばして、タローの目を正面から見た。
「俺にしか頼めない重要なことねえ。世界を救えとかそういう系? でもさすがの俺でも世界はちょっときびしい系? でも俺じゃなきゃだめってんなら頑張っちゃう系?」
「えと、そういう系ではない系? なんだけど」
「あっそうなの。じゃあなにさ」
「テッペン山にいってきて、確認してきてもらいたいことがあるんだ。モノと言ったほうが正確かな」
「テッペン山?」
タローは眉をひそめた。宙に視線を向けて、ひげ一本生えていないツルツルな顎を指でなでた。
ちなみにテッペン山とは、タロー達が住む町のすぐ近くの山のこと。
毎年、夏になると子どもたちが虫を捕まえたりただ単に遊びに行ったりする様な山だ。野生のヘビが出るぐらいで危険も少ない。以上、簡単な説明でした。
視線を戻した時、マッドも博士は真面目な表情を崩してはいなかった。
タローは、近くにあった椅子を引き寄せ、背もたれを前側にして座った。
「どゆこと? テッペン山なんかになにかあったっけ?」
「うん、タローくんは……いや、街の人は知らないと思うけど、すこし前に小さなアンテナを設置したんだよね」
「アンテナ? 博士、また変なの作ったの」タローは首を傾げた。
「へ、変なのって……まあ、タローくんから見たらそうかも知れないけれどね」
マッドも博士は頬をかいてから続けた。
「えっとね、アンテナってのはつまり、金属でできた大きな三角形の模型みたいなもので、それが、テッペン山の頂上にあるんだよね。それを見てきてほしいんだ」
パチン。天井からぶら下がっているアームが動き、タローの前に伸びてきた。今度はコップではなくて絵が描かれた紙だった。
タローはそれを見た。そこには、博士が説明した三角形の模型みたいなもののが鮮明に描かれていた。
「ヤッパリ変なものじゃん。で、コレを見てきてほしいって? 見てるくるだけでいいのか?」
「ああ、うん、見てきてどうなっているかを教えてほしいんだ。写真――この絵の通りだったら良いんだけど……どこか壊れていたら大変だから」
「ふーん。テッペン山のどこらへんにあるの?」
「頂点の広場だよ」と、マッドも博士はサラリと言った。
絵をジロジロ見ていたタローはさらに眉をひそめながらマットも博士を見た。
「頂点って……今立入禁止じゃんか」
「うん、そうなんだよね。だから確認しに行きたくてもなかなかね……。
タローくんだったらうまく潜り込めるかなって。ほら、タローくんって運動神経良いよね。それに、ヘビが出ても大丈夫でしょ? タローくん強いし」
「まあね。ヘヘッ」
タローは腕を曲げて二の腕にとても小さな山を作ってみせた。
マッドも博士は優しい眼差しでうんうんとうなずいた。
一通りポーズを決めた後にタローが言った。
「――いいよ。サクッと見てくるぜ」
「本当かい、助かるよ!」
「その代わり、アレ作るための素材集めは博士にもやってもらうかんな」
「うん、わかったよ。じゃ、よろしくね」
ガチャン。扉の鍵が開いた。
「行ってくるぜ―」とタローは元気よく言って扉から出ていった。
マッドも博士はタローの後ろ姿を優しい笑顔で見ていたが、姿が見えなくなると表情を曇らした。
「何事もないといいなあ」
マッドも博士の独り言はエアコンの送風音でかき消された。
◆
外に出たタローをUV-AとUV-Bが襲った。
冷房で程よく冷えたタローの身体から、一気に汗が噴出する。
タローは目元に手をかざして蒼い空を見て叫んだ。
「ちくしょー! 暑が夏いぜー!」
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