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ネオデトロイター!【楽しい銀行強盗編】#1

 ミ゛ーン! ミ゛ーン!

 セミが必死に自己主張をして、太陽が容赦なく紫外線をまきちらしている夏の真っ昼間。ここ、ネオデトロイトでは記録的な猛暑が続いていた。

 なぜこんなに暑いのか? 俗にいう地球温暖化か? それともどこかの国の秘密兵器か? 分からないがとにかく暑い。

 あまりの暑さにネオデトロイト住民は限界寸前。東ではコンビニではアイスを求めナイフを持った若者が入っていき、店員のショットガンで返り討ちにされている。西ではシスターがホーリー火炎放射でセミを森ごと焼いて焼き畑BBQだ。

 国境は軍隊によって封鎖され、墓地では死体が起き上がった。さらには宇宙人が侵略を開始したという噂も流れている。

 そいつらはギガンティック通りとババルバベル通りの境に立てられているマンションの3階角部屋にいた。

 その部屋の床には、空き缶や本が乱雑に置かれていた。家具はソファに木製の椅子が数個、そこそこ大きい机、小型冷蔵庫、パソコンぐらいしか無い。

 窓は全開にしてあり、外から熱風が入りこんでいる。窓の上にエアコンが設置されているが、何故か手斧が突き刺さっている。

「あー! あっちい! 冷房かけろよ!」

 ボロボロのソファに寝転がりながらビールを瓶から煽っていた大柄な青年が天井を向きながら叫んだ。刈り上げた金髪、ブランド物のサングラス、金色のネックレス、タンクトップから除く右の二の腕にはナイフが刺さったマグロのタトゥーが書かれている。

「壊れてる。というかダニエルが壊したんでしょ」

 パソコンのディスプレイを見ながらそっけなく返事をしたのは分厚い丸メガネを掛けている小柄な少女。この暑さで長袖のTシャツを着ているのにもかかわらず汗一つかいていない。「それと、暑いから離れてよベル!」

 ベルと呼ばれた、長いブロンドヘアーと完璧なプロポーションをもつ美女は、小柄な少女に抱きつくのを止めようとしない。

「だってケイトちゃん柔らかくていい匂いするしー」

「せめて服着てよ!」

「暑いからヤダー」

 ケイトは無理やり引き離そうとする。しかしベルの豊満な胸がぷるんと揺れただけで引き離せなかった。体型の差は歴然だ!

「うるせえ!」ダニエルが殻になったビール瓶を窓の外に投げ捨てる!

 パリン! ギャー!

 窓の外からビール瓶が割れる音と人の悲鳴が聞こえた! このような事故は日常茶飯事。なぜならここはネオデトロイトだからだ。

「もー、ゴミ投げ捨てるの止めてよ。あとで怒られるの私なんだよ」

 部屋主のケイトが嘆く。ダニエルは聞き耳を持たず新しいビール瓶に口をつけている。ベルはまだケイトに抱きついている。

 ガチャ。

 その時、ドアが開き小太りの青年が入ってきた。左手にはコーラのペットボトルが入った袋、右手にはトカレフと呼ばれる拳銃を持っていた。

「ただいまー。いやー本当にこの暑さは何なんだろうね。帰ってくる最中に一本飲み干しちゃったよ」

「ドクくんおかえりー。お疲れ様ー」

 ベルはドクと呼んだ青年からコーラを受取り、小型冷蔵庫にしまった

「いやあ、外はすごい暑いよ。まるでメキシコだよ」

 ドクは木製の椅子に腰掛けた。木製の椅子がギシギシと悲鳴を鳴らす。今にも壊れそうなのはドクの体重のせいか、イスの老化のせいか。

「部屋の中も暑いなあ。外と大して変わらないよ。冷房つけてないの?」

 ドクのTシャツは汗で濡れていない部分がない状態になっている。ケイトはエアコンを指差した。ドクは手斧の刺さったエアコンを見て首を傾げた。

「なんで?」

 ケイトはダニエルを指差した。ダニエルは殻になったビール瓶を窓の外に投げた!

「もー! 止めてって!」ダニエルは中指を立てた。ケイトも中指を立てかえした。しかも両手だ。つまりダブルフxxクサインだ!

「直さないの?」

 ドクの足元には水たまりが作られ始めている。訊かれたケイトは深い溜め息をついた。

「金がないよ」「お金がないのー」

「そのPC売って金に変えるのはどうだ?」

 他人事のように言うダニエルに対して、ケイトは中指を立てた。

「そんなに文句があるなら出てけばいいでしょ。ここは私の部屋よ」

「うるせえな」

 ダニエルはケイトからドクに視線を移した。

「そういえばドク。お前なんで拳銃なんて持ってたんだ?」

「ん?ああ、ええとね……帰る途中にサラリーマン襲われてね。この暑さでおかしくなっちゃったのかな?」

「その人はどうなったのー?」と、ベル。

「気絶したから日陰に置いてきた」

「ドクくんやさしー」

 それを聞いてダニエルは酒を飲む手を止めた。どうやら何か考えているようだ。それを見てケイトは嫌そうな顔をした。

「あんた、またろくでもない事考えてるんじゃないでしょうね」ケイトが訊いた。

 ダニエルはしばらく黙ったのち、ソファから勢いよく立ち上が。た

「よし、銀行強盗をするぞ」

「あーもう! そんなことだろうと思った!」

 ケイトは天を仰いだ。天井には大きなファンが気だるそうに回っていた。

「強盗って……いや、俺達ってボクも入ってるの?」ドクがコーラを飲むのを止めた。

「ああ、俺達4人でだ」と、ダニエルが言った。

「えっ!? 私も入ってるの!?」「ワタシもー?」

「ああ、俺達4人で、だ」ダニエルが繰り返した。「なに、心配するな、完璧なプランがここにある」といって、彼は頭を人差し指で叩いた。

「なにが完璧なプランよ! あんた頭イってんじゃないの!?」

 ケイトは額に血管を浮かばせてダニエルに詰め寄った。彼の目は瞳孔が開いたり閉じたりを繰り返し、また、焦点は確実に合っていなかった。ベルは、ダニエルの手に白い粉がついているのを見つけたが、何も言わなかった。

「まあまあ、とにかく話を聞こうよ」と、ドクが言った。

「そうだよー。お金いっぱいになれば、エアコンも直せるよ―?」

 ケイトは皆の顔を見渡した。そして、馬鹿でかいため息をついた後、疲れた顔をして元の位置へ戻った。

「よし、話を聞く気になったな? それじゃ、俺の完璧なプランはこうだ……」


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チルお
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