ある日の話
3ヶ月も前に拗らせたまま、
「友達」でも「恋人」でもない僕らは
本音を話すこともないまま
おそらくこの街で過ごす最後の年末に、今よりもっと離れた南と北、いや東で新しい年を迎えるんだろう。
会おうと思えば毎日だって会えた。
たわいもない話をして、お互いにしかわからない世界を作った。
『やっぱり好き』
好意に気づいてなかった訳じゃない。
一度も甘い会話をした事がない僕らが
多分彼女は、唯一無二だった。
「好きかどうかわからない。」に
「今は誰とも付き合えない。」に
どれだけの意味があったのか
恋人になればよかったのか
選択が間違っていたとは思わない。
居なくなったわけじゃない。連絡を取らないと決めたわけでも、会わないと決めたわけでもない。
いつでも会えるのに、気持ちがちぐはぐで追いつかない。
なんとなく気まずくなってから一度だけ偶然会った。
会わなかった2ヶ月分、話をした。彼女はいつものようにケラケラ笑っていたけど、時々あの夜とおんなじ顔をした。
無性に寂しくなって次に会う約束をした。会わない3日の間に、やっぱり会えないと手を離した。
やりたいことがわからないから、とか次の就職が決まってからとか、どんな言い訳も格好がつかなくて、少しでも格好付けたくて何も言わなかった。
寂しい。だけがぼんやり残った。
出会う前と同じに戻っただけなのに、ふとした時に思い出した。話したいことは沢山あった。
寒い日の朝、飲み会、誰かとのふとした会話、帰り道で、彼女を思い出した。楽しいことがあるたび、面白いことを思いつくたび、連絡を取ろうとして、止めた。
彼女だったらわかってくれるのになあと思ったけれど、一方的に連絡するのは自分勝手過ぎる気がして、何にも言えなかった。
似ているようで、ちがう。彼女の教えてくれた沢山の好きなものたちをおんなじように好きだとは思わない。
似ているから、話したい訳じゃない。
二人でいると小さな偶然が重なって、一人よりも、親友と話すともまた違う居心地の良さがあった。
小学校からの幼馴染のような、たまに会う遠い親戚のような、一度もあった事なんてなかったのに、不思議な感覚がした。
向き合う事を逃げたのは彼女からかそれとも、自分自身だったのか。
「無かったことにならないかなあ」
呟いた空気が、消えた。
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会わなくなって、そろそろ4ヶ月
好きでいるのをやめようとするのも、そろそろ飽きてきた。
ーーあの日終わったはずなのに、ズルズルと忘れられないのは情けないよなあ。
もう何度目かもわからない情けない顔と目が合って、もっと泣きたくなった。
会えない理由もわかっている。
会ったところで、連絡を取ったところで、どうにもならないことはわかっている。
ひとつだけ、
ーー私じゃダメなんだよなあ。
に辿り着いて、また泣きたくなった。
あれから、誰とも出会わなかったわけじゃない。それなりにときめいて、
「あ、まだ大丈夫。」
と安堵したこともあった。
いまは、一緒にいて一番楽しくなくてもいいと思っている。
一緒にいて楽しくて、こころ穏やかでいられる人なら、幸せなんだろうと思う。
ーーなのになんで忘れられないんだろうなあ。
「楽しかった。」
と確かに過去になっているはずなのに。
いま連絡をしたって、あの日のように笑えないことも、上手く話せないことも痛いほどわかっているのに。
「無かったことにしないで」
笑って何でもないふりをして、言いたくても言えなかった言葉は、喉に支えたままだ。