えがお
笑っていればなんとかなるのかもなと思ったけど、そこに浮かぶのはぎこちない表情だけだ。
どこか落ち込んだ気分を引きずったまま、椅子から立ち上がる。
台所。手を洗おうとおもって、レバーを上げ、蛇口に手を近づけた。
でもなぜか、水は別ところから出てくる。
なんでだろうと不思議におもいながら手元を見てみる。
するとどうやら、自分が手を近づけたのは蛇口ではなく、洗面台のほうに突き出たフライパンの取っ手だったようだ。
それがすごく可笑しくて、ついつい笑みがこぼれる。
そのあと、落ち着いてコーラを飲もうとしたのだけれど、さっきのことを思い出して笑ってしまいそのまま吹き出す。
よく面白さの表現として「コーラ吹いたwww」とか言う人がいるが、わたしはそれを信じない。
少なからず吹きそうになったことは確かかもしれないが、本当に吹いた人はおそらくいないとおもう。
ただとりあえず、本当に吹いた。
ペットボトルの飲み口のちかく、猛烈なスプラッシュが起きて、顔面がコーラまみれになった。
それもまた面白くて、笑みがこぼれる。
まるでさっきまでの作り笑顔が、すべて嘘だったかのように。
「悪いことするとばちが当たるよ。」
子供のころによく言われた言葉を思い出す。
当時はそれがすごく不思議で、ほんとうに神様が見てるのかな、なんてひとりぼーっと考えを巡らせていた。
年をとって、気づけばそんなことはこれっぽっちも信じなくなってきている。
けどたまに、面白くてつい笑ってしまうぐらいに、世界が作為的に映る。