
いとおしい
とつぜん鳴き声が聞こえる。
気になって部屋をのぞく。
奥のほうから物音がする。
「コンコン」と2回舌を鳴らすと、カチャカチャと爪の音をたてながら、きみがこちらへ寄ってきた。
わたしの前にそっと立ってこちらを見つめると、そこでぐーっと伸びをする。
それからじっくり、片方ずつ足を伸ばす。
後ろ足を器用につかって顔を3,4回かいたあと、またじっと、こちらを見つめた。
わたしはちいさく「おいで」と言って、外の庭のほうへと歩みを進める。
後ろで、ちょっとはずんだ足音が聞こえた。
こういうとき、たまらなくいとおしさを感じる。
お互いのことばはわからないけれど、きみの気持ちはよくわかる。
それはとても単純なようで、とても不思議なことだ。
すごくすごくいとおしくて、ぎゅーっと抱きついてみる。
やさしく。やさしく。
ちょっといやな顔をするきみを横目に、わたしはその瞬間を大切にかみしめていた。