しぎょうしき
貰った漫画を読んでいたら、気付けばそこは朝になっていた。
ついさっきまで雷が光っては消え、そして深い音をさせていたのだけど、それはとてもとても穏やかな朝だった。
まだ薄暗い廊下を抜け、2階への階段を上る。
テーブルの上には、朝早くから仕事に行った母の置き手紙。
今日は高校の始業式だ。
別になんだって話ではないかもだけど、そんなに気の乗る話でもない。
カップ麺を食べようと思って、やかんに手をかける。
微かに残ったその温度は、ついさっきまで母がここにいたことを教えてくれた。
遅刻した。普通に。
出発まで時間があるからって、余裕でソファに寝転がって尾崎豊の卒業を聴いていたら、知らぬ間に寝ていた。
かと言って焦ることもない。
遅刻したって別になんともならないし、怒られることもない。
地下鉄のホームに電車が止まる。
「駆け込み乗車は、大変危険ですので、おやめください。」
やたらとのろまなその声に合わせて、周りの人間が一斉に走り始める。
その様を傍観しながら、ペースを変えずに、ただゆっくりと歩く。
電車は先に行った。
ぎっしりと人が詰まった教室に入ると、一度も見たことのない先生が前に立っていた。
「散々言ったし、まさかレポートまだ終わってないって人はいないと思うけど…」
なんだか、声がとても気持ち悪い。
自分はレポートなんてとっくに諦めてたからいいんだけど、もし他に間に合わなかった人がいたとしたら、どう思うだろう。
わりと傷つくと思う。
そうやって生徒を前にしているのに自分しか見えてなくて、勝手にエクスタシーに浸っているようにさえ見える人がどうも苦手だ。
わがままかもだけど、好きでもないどうでもいい人たちと関わるのはつらい。
自分が大層恵まれた環境で生きていることに気づく。
それなのにどうしてだろう。
顔にべったりと貼りついた作り笑顔が、一向に剥がれないんだ。
そのときだけは、まるで自分じゃないみたいに。
でもたしかにそれは自分で、そんな自分が怖くなる。
あー、疲れたな。
またしばらく休みたい。
レポートは予想どおり締切が伸びたので、それもまたやらなければいけない。
ただ、とりあえず休みたい。
やっぱり、この部屋がいちばん落ち着く。