不安定
「悲しい気分のときは、悲しい曲を聴いて、その気分に浸っていたい」
子供のころ、母が言っていた言葉をふと思い出す。
当時は馬鹿らしくて笑い飛ばしていたけれど、今はその気持ちがすごくよく分かる。
なんだかもう疲れてしまった。いつものことだ。
誰かに操られているかのごとく、突然テンションが高まる。
陽気に歌を歌いながら、全能感に足を浸ける。
でも5分もすればまた元通り。
というより、一気に脱力してしまい、ベッドの上に寝そべる。
何をする気も起きない。
気づけばどんどん時間が経って、もう辺りは真っ暗になっている。
壊れかけの電灯が、どことなく冷たく、点滅を繰り返していた。
なんでもできる気がするのはいつも一瞬で、なんでもできるなんてことはあり得ない。
ただの幻想が、とても意地悪に映る。
一体誰なんだろう。こんなことをするのは。
ゆったりとした曲を、あたらしく WALKMANに取り込む。
明かりを消し、イヤホンをつけて、自分の世界に閉じこもる。
まだ眠りはしないけど、このままずーっと深くに沈んでいきたくなる。
なるがままに。すべてを任せ、預けるように。
そこは、いやそこだけは、何もない。
瞼の奥には、のっぺらとした黒が広がっていた。
こんな気分の日はいつも、ただそれだけを、じっと見つめていたくなる。