子供のころ
家に帰るといきなり、私の部屋の電気はつけてはいけないと母に言われた。
1階の奥。そこに私の部屋はある。
そこで生活するようになったのは、たしか中学生ぐらいのころからだったろうか。
当時は1人でいることが妙に怖かったのだが、気づけばここにいることに何よりの安心を抱くようになっていた。
話を戻すと、どうやら私の部屋の電気をつけると家中の電気が消えてしまうらしい。
なんだか呪われてるような気がして嫌だったので、兄の部屋で寝ることにした。
なお兄は今は家にはいない。
なかなか寝つけないベッドの上、ふと子供のころを思い出す。
あれはこの部屋で、父の隣で寝ていたときのことだ。
ふと辺りを見回すと、暗闇のなかにぽつんと、真っ黒い人のかたちをした影が見えた。
怖くなって布団に隠れて、次見たときにはもういなくなっていたのだけど、それだけがただ強烈に、記憶にのこっている。
この部屋で寝るのはひさしぶり。
「もしかしたら、今もまだいるのかな。」
そーっと、あの影を目にしたところを見つめるけど、やっぱりもういない。
いたらいたで怖いから、別にいい。
でもなんだか、ちょっぴりさびしかった。
今日は、自分の部屋で寝よう。
隣の部屋からこぼれるわずかな明かりと、ちいさな間接照明。
それと、外から聴こえる虫の音。風に揺られる木々の音がたまに。
これもまた粋で、案外いいかもしれない。