人形遣い王凱生(義興閣掌中劇団)さんへ流山児祥のインタビュー
流山児:今回は出演して頂きありがとうございました。東京は今日は小雨が降っていますが、台湾はどう?
ー こちらはまだまだ暑いです、30度以上あります。
映像で観させてもらって、人形が目を覚ますトップシーンからとても引き込まれました。大立ち回りは物凄く面白かったです。この話はカイションが考えたの?
ー 本作の演出家と振付家と3人で考えました。あらかじめ構想はありましたが、現場で即興で生れたものも沢山ありました。
僕には主人公は三蔵法師の様にも見えました
ー あの衣裳は布袋戲の中ではとても中立的な、役になる前の状態なんです。
それは観る人が自由にイメージして良いって事?
ー そうです、お客さんに想像してもらうためにあの人形を選びました。
それはいいですね。
カイションはいくつの頃から、人形遣いをやっているの?
ー 家業が布袋戲なので、物心ついた時から遊んでいた玩具、それが布袋戲でした。巡演などに付いて行くようになったのは5歳の時です。
5歳で習い始めた?
ー 布袋戲は習うというより、見ていて自然に身に付く感じでした。家業でしたから。
「義興閣掌中劇團」の歴史はどれくらいあるの?
ー 1953年からです。ひいじちゃんから僕で4代目です。
台湾語が禁止されていた中で、台湾語への拘りのようなものはあったのでしょうか?
ー 国民党政府に中国語教育を強いられた時代も、家庭や日常生活の中では台湾語を話すことは問題ありませんでした。お寺などで上演される人形劇には規制はありませんでした。
なおさら人気もあったでしょうね。
現在も上演は台湾語ですか?
ー 中国語や英語でやる時もありますが、多くは台湾語です。
カイションはロックと布袋戲を掛け合わせて上演されていると聞きました。見たことがないのでちょっと想像がつかないけど、どういうスタイルなのですか?
ー 伝統布袋戲の伴奏は北管、南管二種類の音楽が使用されます。僕は作曲など、音楽も担当していて、伝統的なスタイルでの上演もしていますが、ロックとミックスしたらどうなるだろうと試してみました。音楽が変れば当然、人形の方も変わってきます。人形劇の舞台の枠を飛び超えて演じるスタイルになってきました。
という事は、劇場全体を使って?
ー その通りです。人形劇の小さな舞台から出て、ステージを自由に使い、お客さんとコミュニケーションをとったりもするようになる。そうすると人形でなく、人形遣いも舞台に上がる事になります。その両方をどうやって成立させるか、台本をもらった時に考えます。
台北に滞在している時に、休日はよく「ダーダオチェン」に布袋戲を見に行きました。あれは観光向けだよね、
民間芸能である布袋戲の上演はお寺や街角で上演されると聞きますが、カイションはどんなところで上演していますか?
ー 布袋戲には幾つかの公演形態があります。たとえば神社で上演する時は神様に奉納する、神様にお願いをする芝居になりますが、その時はトラックで神社の前に行き、そのトラックが舞台になります。劇場で公演として行う事もあります。
布袋戲のトラックが横一列に沢山並んでいる写真を見たことがあります。
ーこれは嘉義の「廟会(びょうえ)」(日本でいう「お祭」や「縁日」)の写真です。毎年旧暦の4月23日に台湾の民間信仰の神様「余慈爺」の誕生を祝う様子です。台湾高速鉄道の線路近くの5本の道路に300ほどの「布袋戯」や「歌仔戯」の舞台が連なります。
300も舞台が並ぶの?それは時間をずらして上演するの?
同時だったうるさくてしょうがないよね。
ー 300ほどの芝居を同時に上演します。
あはははは、すごいね、それは
ー なぜかと言うと、元来布袋戲は神様にみせるための芝居だから、それで良いのです。
カイションはこれからどんなことをやって行きたいと思っていますか?
ー 台湾には沢山の布袋戲がありますが、ロックとのミックスは僕しかやっていない。布袋戲の伝統は僕の身体の中に既に流れているので、伝統に拘らずに自分のスタイルを持って、自分が伝えたいと思うことを発信して行きたいです。
操っていて手は疲れない?
ー 慣れちゃってるから大丈夫ですが。人差し指が曲がってしまうとそれだけで、首が曲がった人になるので、垂直を保てるように綺麗に真っ直ぐ開くためのトレーニングはしています。
カイションは操りも台詞も同時にやるの?
ー 今回は台詞がありませんでしたが、普段は一人で台詞も喋り、人形も操り、音楽も出します。最近は楽隊は楽隊、人形は人形と仕事が別れてきていて、僕は主に台詞と音楽を担当してます。
じゃあ、演出的な面も強いのかな?
ー 布袋戲には操偶師(人形使い)、楽団と口白師(口上師)がありますが、布袋戲の主役は口白師です。僕は劇団の看板なので今は演じることをメインにしています。
今年3月の映像を見せてもらいましたが?あれは1人で演じていたの?
ー あの時は新人と2人で演じていましたが、彼はあの後、台北藝術大学に合格して台北に行ってしまいました。お祭りは稼ぎ時ですから、いくつもの舞台を掛け持ちします。家族が全員違う所に行きます。1人で仕込み、1人で演じ、1人でバラシまで出来るようになっています。
お祭りはひと月に何回かあるんですか?
ー 1年で200ステージ有ります
ええええー、それはオモシロいだろうな。嘉義だけ?それともいろいろな地域に行くの?
ー お祭りは嘉義が中心です。公演の場合は他の都市でも上演します。
今日もこれから舞台なんだよね?今日は愉しい時間を有難うございました。
作品の仕上がりを、楽しみにしていて下さい!
ー はい、楽しみです!
いつか、又一緒にやろうね。今度は生の舞台も観に行くから。
ー ありがとうございます!!
2020.9.20
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?