【論文】Trehalose-Bearing Carriers to Target Impaired Autophagy and Protein Aggregation Diseases
2023/11/29
トレハロースに関する既存文献を総括しており、今後の展望について言及。
トレハロースがオートファジーを誘導したり、ミスフォールドタンパク質の凝集を抑制することは以前から知られている。神経変性疾患、糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、動脈硬化症、虚血性疾患などの疾患群に対して、治療薬となる可能性について研究されている。
トレハロースの構造は下図の通り。グルコースが1,1-グリコシド結合をしてできた二糖。非常に安価で入手可能。これが治療薬になるなら素晴らしい。
臨床試験の状況は表1にまとめられているが、神経変性疾患を適応症として、積極的に臨床開発されていることが分かる。
Clinical Trial (Phase 2~3, Trehalose)
トレハロースがオートファジーを駆動するメカニズムについては、以下の2つが知られているとのこと。
①
トレハロースがGLUTを介したグルコースとフルクトースの輸送を阻害し、それによって飢餓状態を作り出し、AMPKとULK1を活性化、オートファジーを誘導する
②
TFEBの活性化によりオートファジーを誘導、リソソームヒドロラーゼや膜タンパク質など、様々なオートファジー関連因子の発現が増加する
②のメカニズムは、個人的にも興味があるところ。
トレハロースの臨床上の課題は下記の通りである(経口で飲んでよく効くなら自分も試したいが、ちょっと芳しくない印象)。
・トレハロースは、主に小腸に存在するトレハラーゼによって容易にグルコースに加水分解されるため、生物学的利用率が低い
・トレハロースは高極性分子なので、細胞膜を透過しにくく、そもそも吸収されにくい
要するに、単純に経口で飲んでも、吸収されなかったり、代謝されたりで、目的とする標的部位にほとんど届かないという話。オートファジーの誘導、タンパク質凝集の軽減など、面白い薬理作用を示す可能性はあるが、薬物動態特性が非常に悪くて使いづらい。また、高容量のトレハロースの経口投与は、流行性Clostridium difficile株の有病率増加と関連しているらしい。たくさん飲んで無理やり体内に入れるアプローチは、望ましいものではないのだろう。
本論文はトレハロース担体に関する事例が豊富に紹介されている。トレハロースの薬物動態をDDSを駆使して改善する研究が積み重ねられていることが分かった。中枢性の神経疾患を標的にする場合、血液脳関門の透過もイシューになるだろうが、これに関する研究も今後期待される。
神経変性疾患は現代の難病だが、DDSに関する研究が大きく進展することで、トレハロースのような "安いけど効く可能性のある化合物" が、医薬品として再認識されると素晴らしいと思う。創薬研究の難易度の高さを知っている人は「高額医薬品に対する社会の理解が深まること」を切に願っていると思う。とはいえ、アメリカのような極端な医療格差社会には、やはり違和感を感じざるを得ない。お金のない人でも選ぶことのできる選択肢の提示はいつも重要。トレハロースの臨床応用研究は、そういう視点からも重要だと思う。
本論文は、トレハロースの現在地だけでなく、DDSに関する情報がまとめられている。勉強になりました。トレハロースに興味のある人にはオススメ。