カジャン・クリウォン
バリ人の毎月のお供え物の中でも、定期的で重要な日であるカジャン・クリウォン Kajeng Kliwon は、15日に一度巡ってくる。
バリでは様々な暦が使われているが、そのうちの三曜週(Tri Wara)のカジャンと、五曜週 (Panca Wara) のクリウォンが重なった日、それがカジャン・クリウォンだ。
カジャンの日=デウィ・ドゥルガー(aham kara 自我 のパワー=bhuta kala )とクリウォンの日=デワ・シワ(dharmaのパワー=dewa)という、相対・二元性の要素を持ったエネルギーが、同時に出現する日である。
※BHUTAという言葉は、BHUという言葉から来ている。存在する、暗い、形、といった意味である。その後、「BHU」という言葉が「BHUTA」に変化。「KALA」という言葉は、エネルギー、時間を意味する。つまり、BHUTA KALAという言葉は、暗闇を引き起こすエネルギーを意味する。さらに、バリの宗教哲学によると、ブータ・カラは宇宙にエネルギーが発生した結果である。そのエネルギーは、ブアナ・アグン(大宇宙)とブアナ・アリット(小宇宙)の間の調和と不調和につながる可能性がある。※
この、シヴァとドゥルガーのパワーが一緒になることによって、常にダルマ(シヴァ)によって制御された、シャクティ(kesidhian癒す力、治療する力, kesaktian 超自然的な力, kemandhian 浄化の力)が生まれる。
このカジャン・クリウォンの日は、人間の内外からネガティブな力が現れやすく、生活を妨げる可能性がある、と言われている。
なので、このカジャン・クリウォンの日に、お供え物をして、世界・宇宙のバランスが保たれることを願うのである。
ブアナ・アグン(大宇宙)にある宇宙のエネルギーはすべて、ブアナ・アリット(小宇宙あるいは個人)に現れるから、個人である我々は、カジャン・クリウォンの日に、通常の神々へのお供え物と同時に、懇ろにブータ・カラへのお供え物、つまり”地面系”のお供え物をするのだ。
Kajeng Kliwonはまた、ブータがダルマ(人間がすべきこと)を実践していない人々を探し、裁くために、地上に出てくる日である、と言われている。
カジャン・クリウォンのお供え物
①Natar sanggah(家寺の地面)に、スゴハン・マンチャワルナ(segahan manca warna )を供える。
スゴハン・マンチャワルナとは、黒、白、赤、黄、と、それら4色を混ぜ合わせた色、の5色の米で作った小さな握り飯 kepel で作られたスゴハンのことで、Sang Bhuta Bucari(ブータの居場所)に供えられる。
②Tengah natar rumah(家の庭の真ん中の十字路)に warna empat 4色のスゴハンを供える。
黒米のスゴハンは北
白米のスゴハンは東
赤米のスゴハンは南
黄色のお米のスゴハンは西
各方角に対応して置かれる。
これは、Sang Kala Bucari (四方向のカラの居場所)に供えられる。
③敷地の門(lebuh)の敷居には、canang buratwangiとcanan gyasaを置き、Segahan 9 tanding(9個の白米がセットされたスゴハン)を供える。
これは、Sang Durgha Dewi/Bucari(ドゥルガーの居場所)に供えられる。
スゴハン(segahan)は、地面に置かれるものだが、主食の米には、にんにく・塩などのおかずが添えられ、トゥアックまたはアラックやブラムという、椰子や米から作られたお酒も提供される。お酒は、地面に撒かれる。
また、tunggun karangと呼ばれる、バリの家の守護の祠には、チャナン、ティパット・ケラナン、ティパット・ダンプランなどを供える。
これは、家族のカンダパットの守護の祠に対して、家庭・家族の安全を願って供えられる。
このように、15日ごとにスゴハンというお供え物を供えて、負のエネルギーを懇ろに祀り、ブータの領域、ネガティブエネルギーから、光に満ちた神の領域、ポジティブエネルギーへバランスを戻すのである。
Kajeng Kliwonは15日に1回巡ってくるが、3つの時期に分けることができる。それは、
①Kajeng Kliwon Uwudan(満月後のKajeng Kliwon)月が欠けていく2週間の間のカジャン・クリウォン
②Kajeng Kliwon Enyitan(新月後のKajeng kliwon )月が満ちていく2週間の間のカジャン・クリウォン。
③Kajeng Kliwon Pamelastali(Watugunung Runtuh、6か月に1回来る)サラスワティの5日前。kajeng kliwon Watu gunung runtuhとも呼ばれる。
この日に、痛み、腫瘍などの病気が治るように、スゴハンを供えるといいと信じられている。
カジャン・クリウォンの日は、病気を中和するという言い伝えがあり、特にこのkajeng kliwon Watu gunung runtuhの日に、所定のお供え物を所定の場所に供えるとよいそうだ。
このKajeng Kliwonの日には、バリ人たちは、なるべく外出を避ける。旅行に出るときも、特別な注意を払う。
この日の夜は、道にたむろする犬たちが凶暴に吠えたて、深夜零時は最も危ない時間帯といわれ、帰宅するのにも、その時間を避けて外に出る。
また、Kajeng Kliwonは神聖な休日だとみなされる。なぜなら、この日、宇宙(シヴァ)は自分自身を浄化し、若返らせると言われているからである。
多くの人々がこの日に、神秘的な能力を得るための修行や、ヨガを実践する。
Kajeng Kliwonは、15日ごとに2週間の月が満ちていく時と欠けていく時に行われる、インドのEkadasiのお祝いに由来している。エーカーダシーの日(月齢11日目の日)には、ヒンドゥー教徒は断食し、日常の行動を制限する。エーカーダシーは満月の日から新月の日までの他のすべての日のうちで最も神聖な日であるとされる。実際にバリ島のカジャン・クリウォンと、エーカーダシーは、重なっていることが多いが、月齢の数え方などの理由で、ずれていくことも多い。
※エーカーダシーについて
もう一つ、余談だが、Kajengは「鋭い」という意味であり、バリの人々は、釘付けや刀剣の練習を行うべきではないと考えている。このタブーに違反すると、股関節痛に苦しむ可能性があるということだ。
このように、カジャン・クリウォンの日には、スゴハンというお供え物が地面に供えられる日であるが、このお供え物には、「カンダパット」の概念が密接にかかわっている。
これについては、また稿を改めたい。
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