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龍の巣①
NHKスペシャルで、「龍の巣に挑む」(再放送)を見た。
その内容と感想を、何回かに分けて書いてみたいと思う。
中国貴州省に、世界最大の地底空間があり、地元のミャオ族(苗族)からは、「龍の巣である底なしの洞窟、そこは冥界、決して入ってはならない」と言われている。
この世界最大の暗闇を、初めて光で照らし、内部を撮影するという試みのドキュメンタリーなのだが、どこまで深くて、どこまで広がっているかわからないので、絶対に内部を照らすなんて不可能だ、と言われてきたことに挑戦するのだ。
総重量3トン(6000メートル)というケーブルを降ろし、内部に92個の巨大照明を設置する、という途方もない労力をかけて、初めて照明が点灯された時の映像は、息をのむ程の迫力だった。
巨大な洞穴の中を、ドローンで俯瞰撮影していくのが圧巻。
俯瞰でどんどん高度を上げ、距離を広げていく鳥目線の映像を見ていたとき、奇妙な感覚に捉われた。
一億年かけて出来たであろうこの巨大な洞穴の内部は、何か自分のルーツを遡って見せられているような感覚を呼び起こしたのだ。
真っ暗で何の光源もない世界。視力が全く効かない世界に、初めて光が入り、その世界が初めて人の目に映された。
つまり、光を得て、初めて人はその世界での己の立ち位置を確認した。
それまで、その洞窟に入った人は、どこまでどのように広がっているかわからない、足元のおぼつかない空間の中で、暗闇におびえながら、いったいどうなっているのか?という疑問、あるいは探求心だけで、そこに立っていたわけだ。
それが、光を得て、初めて自分を取り巻く世界が見えた。自分が崖っぷちに立っていることに気づいて、慄いた人もいれば、思いもしなかった世界に自分が立っていることに圧倒される人もいる。
これは、まさに、自分と世界との関わりが見えずに悩み苦しむ人生そのものではないだろうか、と思った。
人は、俯瞰して見れない、俯瞰して考えられないところに、苦悩の根源がある。
照明が点灯して、照らし出された洞窟の内部をドローンが俯瞰撮影した映像を見て、暗闇であれ、何万年の時間の間であれ、どのような時空の中であっても、「わたし」という自己認識はずっと在って、それだけが真実、ということ。
そして、そこに光を当てることができるのは、やはり「わたし」だけであること。
そのことにまず感動を覚えた。
そういう映像であった。
次回は、この空間の成り立ちについて。
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