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週末読書メモ89. 『P&G式 「勝つために戦う」戦略』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

「勝つために戦う」。いかに勝つか、いかに戦うか。実際にそれを実行してきた人々による力作。


世界一の消費財カンパニー、P&G。

前回の本は、いかにP&Gがローソクと石鹸の小工場から世界随一のグローバルカンパニーになったかが綴られた一冊でした。

しかし、P&Gにも、歴史の中で危機に陥ったことがあります。

その危機の渦中、2000年からの10年に渡り、変革を断行し、売上2倍・利益4倍という業績・競争優位性を作り出したのが、本書の筆者A・G・ラフリーさんとロジャー・マーティンさんでした。

いかにして、改革を断行し、躍進できたのか。

いかにして、競合他社との戦いに勝ったのか。

その肝となる戦略のアプローチを、実体験に基づいて綴られたのが、本書となります。


手短に言えば、戦略とは選択である。もう少し具体的に言えば、戦略とはある企業を業界において独自のポジションに位置付け、それによって、競争相手に対して、持続可能な優位性やより優れた価値を生み出すもの、ということである。

戦略の核心は勝利であるべきだ。私たちの表現によれば、戦略とは調和し統合された五つの選択である。勝利のアスピレーション(憧れ)戦場選択戦法選択中核的能力、そして経営システムである。
(中略)この五つの選択は戦略的選択カスケード(滝)を構成する。
だが戦略について考え抜くためには、このカスケードだけでは足りない。
(中略)戦略的論理フローである。これは、あなたの思考を鍵となる分析へと導き、そこから戦略的選択が生まれる。

筆者等は言います、どんな組織にも通用する戦略を組み立てるプレーブック(兵法)は、5つの選択、1つの枠組み、1つのプロセスから構成されると。

5つの選択とは、勝利のアスピレーション、戦場選択、戦法選択、中核的能力、経営システム。1つの枠組みは、戦略的選択カスケード(上記5つの選択によって構成されるもの)。1つのプロセスは、戦略的論理フロー。

ここで瞠目することは、戦略を構成する要素が包括的かつ連動していることです。

いや、本当にそうなんだよなあ…戦略も、簡潔に明瞭に伝えられる必要があります。しかしながら、その内実は、非常に広範で、一連の選択・活動の束であることに間違いありません。


その一端が垣間見れるものが、別の方によるP&Gの戦略が書かれた本です。

そこで挙げられた成功法則は、なんと99個。読んでみると分かるのですが、その膨大な法則が連動し、一つの束となって、競合が模倣し難い優位性を築いていることが浮かび上がります。


筆者等は、戦略を一連の活動であることを、何度も強調します。それは、日本における戦略本のベストセラー、楠木健さんの『ストーリーとしての競争戦略』で述べられていることと、近しいものがあります。

また、元P&G出身者であり、戦略家である森岡毅さんの名著『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』には、極めて示唆の富む戦略の作り方・使い方が書かれています。特に、戦略を組織の進化に合わせて段階的に変えていくことと、組織の階層ごと(経営・中間・現場)に戦略・戦術を作る重要性。

本書を読むと、森岡さんの戦略論の基盤には、P&G元CEOのラフリーさんの戦略論が脈々と受け継がれていることを感じることが出来ます。


ラフリーさんの著書は2冊、本書『P&G式 「勝つために戦う」戦略』と『ゲームの変革者』。

後者の方では、勝つためにイノベーションの重要性・進め方がテーマでした。しかし、本書も読むと、そのイノベーションさえ、勝つために戦う上の戦略として組み込まれていたことが分かります。


P&Gはその一七五年の歴史を通じて課題に挑戦することによって成長してきた。戦略と慎重な意思決定の伝統は、経営陣が自社を独自の存在にする戦場と戦法を選び続ける限り、社を救うだろう。独自の選択を通じて勝利をつかむことは、常に、そして永遠に、全ての戦略家の仕事である。

「「戦うために戦う」戦略をとってはならない。勝つために戦おう」。

勝つために、(何よりも)生き残るために、どう戦うべきか向き直されられる一冊でした。


【本の抜粋】
手短に言えば、戦略とは選択である。もう少し具体的に言えば、戦略とはある企業を業界において独自のポジションに位置付け、それによって、競争相手に対して、持続可能な優位性やより優れた価値を生み出すもの、ということである。

戦略の核心は勝利であるべきだ。私たちの表現によれば、戦略とは調和し統合された五つの選択である。勝利のアスピレーション(憧れ)、戦場選択、戦法選択、中核的能力、そして経営システムである。
(中略)この五つの選択は戦略的選択カスケード(滝)を構成する。
だが戦略について考え抜くためには、このカスケードだけでは足りない。
(中略)戦略的論理フローである。これは、あなたの思考を鍵となる分析へと導き、そこから戦略的選択が生まれる。

私がP&G生活を通じて学んだ最大級の教訓の一つは、簡潔さと明快さである。より明快で簡潔な戦略ほど、より良く理解でき、定着しやすいため、成功の見込みが高いのだ。端的に言い表せる戦略の方が、力を生みやすく、やる気を促す。そしてそれが後続の選択や行動を取りやすくする。

長続きするには、企業は長期的な競争優位性をもたらす五つの問いに答えなければならない。
自社のために、次の問いに正直に答えてみてほしい。
①勝利を定義しているか?勝利のアスピレーション(憧れ)は明確になっているか?
②どこで戦うか定義しているか?(同様にどこで戦わないとはっきりと決めているか?)
③選んだ戦場でどうやって勝つ、どこまで具体的に決めているか?
④自社の戦場と戦法の選択に応じたどんな具体的な能力群が必要かを洗い出し、身につけているか?
⑤あなたの経営システムや方法は、右記の四つの戦略的選択を支援するか?

本書のツールや枠組みは、これら五つの問いについてのあなたの答えを助け、あなたの組織の可能性を探るように作られている。こうしたツールを自社のために用いたことはあるだろうか?
・戦略的論理フローを使って、業界、流通チャネル(経路)、顧客価値、自社の相対的な能力やコスト・ポジション、競争相手の反応を、戦場と戦法の選択を下支えし続けられるような形で理解しているだろうか?
・戦略案をリバース・エンジニアリングして、そんな戦略によって勝つためには、どんな条件が揃っていなければならないのかと考えたことがあるだろうか?

勝てる戦略の六つの証拠
①競争相手とは似ても似つかない活動システムを持っていること
②あなたに絶対の信頼を置く顧客がいる一方で、肩入れをしない非顧客がいること。
③競争相手が、彼らなりのやり方で高収益を得ていること。
④競争相手以上に継続的に投下できる経営資源があること
⑤競争相手同士が、あなたをよそに攻撃し合っていること
⑥消費者が新技術、新製品、サービス向上を求める際に、真っ先にあなたに目を向けていること

P&Gはその一七五年の歴史を通じて課題に挑戦することによって成長してきた。戦略と慎重な意思決定の伝統は、経営陣が自社を独自の存在にする戦場と戦法を選び続ける限り、社を救うだろう。独自の選択を通じて勝利をつかむことは、常に、そして永遠に、全ての戦略家の仕事である。

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