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「何くそ」のバトン #にじいろメガネ 連載(2024年11月号)

このポストは「アイユ」(公益財団法人 人権教育啓発推進センターの月刊誌)の連載からの転載です。諸事情により先方HPでの公開がなくなってしまったため、発行後にここで無料公開いたします。
試験的に投げ銭機能も設置していますが、全編が無料で公開されています


2015(平成27)年11月5日、日本初となるパートナーシップ証明が、渋谷区で同性カップルへ交付されました。

渋谷区が最初だったのはなぜでしょう?それはさらに10年近く遡ります。

長谷部健 渋谷区長が区議会議員時代に創設した、ゴミ拾い活動の団体「グリーンバード」の支部「歌舞伎町チーム」に、トランスジェンダー当事者(杉山文野さん。現 東京レインボープライド 共同代表※)がいました。顔と名前を明らかに発信する若い当事者が皆無の2006(平成18)年当時、自身の経験を綴った書籍『ダブル・ハッピネス』は大きな反響を呼び、ゴミを一緒に拾うためだけに全国から当事者が集う日々が続いたそうです。そんな当事者の孤立と孤独にショックを受けた長谷部氏が地方行政でできることを考え始めたのが、全ての始まりでした。

※注
入稿後、2024年9月末をもって杉山文野さんは東京レインボープライドの共同代表を退任し、後進に道を譲ることが発表されています。
https://tokyorainbowpride.org/blog/list/3221/

東京レインボープライド

そして長谷部氏を含む複数の議員が粘り強くパートナーシップ証明について質問し続けたことが、当時の区長(桑原敏武氏)の決断につながります。

条例案が提出された当時、何台もの街宣車が区役所を取り囲み、数千枚のFAX(多くは組織的な指示が疑われる定型文)と鳴り止まない電話に業務は麻痺状態に。混乱の中、当時の担当は「小さな一歩にこれほどの偏見と悪意が湧くことに驚き、何くそ、絶対に負けないぞと思った」と話してくれたことがあります。当事者でもないのに、ひたむきに人権に寄り添う行政職員の矜持に触れ、受け取ったバトンの重さに心が震えたことを、今も鮮明に覚えています。

そして、多様な人が混ざる中で生まれた気付きのバトンは、多くのアライに引き継がれ、パートナーシップ証明という渋谷発のソーシャルイノベーションに結実したのでした。

今やパートナーシップ制度導入自治体は459自治体、それらの人口を足し上げると総人口の85.1%に拡大しました。(全国パートナーシップ制度実態調査。2024(令和6)年6月28日時点)。

渋谷区 全国パートナーシップ制度共同調査

【参考】
渋谷区 「全国パートナーシップ制度共同調査」
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/kyodochosa.html

渋谷区

当初、当事者コミュニティでは喜びだけでなく、社会に認知されることへの戸惑いも混在していましたが、今や「同性カップルが社会生活を営む未来」のイメージは、当たり前のものとなりました。

法制度の議論が遅々とする中、カップルたちは現在の生活での実効性、つまり事実婚としての後押しを求めているように感じます。戸籍の記載変更に伴う親族への強制的カミングアウトの忌避や、共働き等で別姓を望む同性カップルには、そもそも事実婚しか選択肢がないという事情もあります。

多くの導入自治体と異なり、公正証書をベースとした契約型の制度設計の渋谷区は、事実婚状態を裏書できる可能性があるのでは、と個人的に感じています。公正証書によるパートナーシップ契約であれば、未導入自治体を含む全国どこにお住まいの方も作成可能です。雛形と手引書は渋谷区ウェブサイトで公開(英語版あり)されています。

【参考】
渋谷区パートナーシップ証明
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/ shisaku/lgbt/partnership.html

渋谷区

【参考】
渋谷区パートナーシップ証明実態調査
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/partnership_hokoku_kokai.html

渋谷区

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