見出し画像

「いない」のではなく「見えていない」だけ #にじいろメガネ 連載(2024年10月号)

このポストは「アイユ」(公益財団法人 人権教育啓発推進センターの月刊誌)の連載からの転載です。諸事情により先方HPでの公開がなくなってしまったため、発行後にここで無料公開いたします。
試験的に投げ銭機能も設置していますが、全編が無料で公開されています。


在任中、渋谷区内外の福祉関係の方とご一緒する機会も多くあったのですが、「小さな頃から娘に『行動がガサツだから女らしくしなさい』といさめてきたけど、もしかしたらLGBTQだったのかも。笑」と話しかけられたことがあります。

詳しく聞いてみると、発達障害のあるお子さんは幼少時から衣服など女性らしさ全般への拒絶等があり、今振り返ると性別不合だったのでは、とのことでした。お子さんは成長につれ疑り深く反抗的になり、ご家族や支援者は苦労されたそうです。

国内の研究者による調査データでは、保育園の年齢で性別違和を自覚する子どももいるそうです。先ほどのお子さんも、自身が言語化できないアイデンティティのモヤモヤを、身近な人たちから「ガサツ」「女らしくしろ」と否定され続けるのは塗炭の苦しみだったのでは、と衝撃を受けました。

言語化できる人だけが、性的マイノリティではありません。性のありようは多様なグラデーションであり、自身のアイデンティティをうまく表す言葉や表現方法に出会うまで時間がかかるケースもあります。

渋谷区のジェンダー平等に関する意識調査では、区内の公立中学2年生も対象としました(タブレット配信。任意回答で回収率8割)。7.9%の生徒が性的マイノリティ該当と算出されましたが、先生たちの肌感覚とはかけ離れています。なぜなら、先生は言動から「性別違和が見える子」しかカウントしないからです。実際、私が関わった教員研修ではトランスジェンダー(性別不合)への理解や取組に熱心な一方、同性愛(性的指向)に関して関心が薄い傾向が見られました。

子どもが過ごす空間では、言語化(申告制)を前提とせず、個別対応に矮小化しない、ジェンダーインクルーシブな心理的安全性の視点が欠かせませんが、残念ながら「見えていない」性的マイノリティの生徒たちは、今も変わらず不安な学校生活を送っているのが実情です。

不登校や障害のある子どもだけでなく、被災地、難民キャンプ、養護施設、子ども食堂等にも、性的マイノリティの子どもはいます。こういったマイノリティ性の重層=交差性という課題は、これまでもインターセクショナリティ(Intersectionality)や複合差別といった言葉をもって指摘されてきました

現在、医療者の教育カリキュラムにおいて、性の多様性(性自認・性的指向)が必須科目なのはご存知でしょうか。ジェンダーや性の多様性に関する無知・偏見・差別が、家族や支援者を悪意なき加害者にしてしまうリスクと、学び直しの必要性について、ケアに関わる皆さんに広く関心を持っていただけたらと願うばかりです。

【参考】
ジェンダー平等に関する意識調査
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/iris_projects.html

渋谷区

【参考】
性の多様性を前提にしたすべての子ども・若者のためのセーフガーディング「レインボー・セーフガーディング指針」(認定NPO法人 虹色ダイバーシティ)
https://nijiirodiversity.jp/2539/

認定NPO法人 虹色ダイバーシティ

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?