見出し画像

「当たり前の隣人」 #にじいろメガネ 連載(2024年9月号)

このポストは「アイユ」(公益財団法人 人権教育啓発推進センターの月刊誌)の連載からの転載です。諸事情により先方HPでの公開がなくなってしまったため、発行後にここで無料公開いたします。
試験的に投げ銭機能も設置していますが、全編が無料で公開されています。


アメリカのワシントンで初めて性的マイノリティの人権を祝うパレードが開催された10月11日をルーツとする「全国カミングアウト・デー」は、今やアメリカ以外の国でも「カミングアウト・デー」として理解向上への発信が見られるようになりました。(報道等でよく見る「国際」表記は誤りで、国連総会で採択されたもののみが正式に国際と名乗れます。ちなみに10月11日は国際ガールズ・デー。)

カミングアウトとは、自身が性的マイノリティであることを打ち明ける行為を指しますが、当事者の間でも、カミングアウト「すべき」「すべきでない」と喧々諤々の神学論争がよく起こります。

いわゆるストレート(心と体の性が一致していて、異性にひかれる)の人は、1日の会話や行動の中で何度も自身の性的指向や性自認を公に「カミングアウト」していますが、周囲も本人も「開示」の認識はありません。なぜ性的マイノリティの開示だけ「カミングアウト」になるのでしょうか。

カミングアウトは、社会が作り上げた障壁を打破するために行われるアクションだからです。カミングアウトは「行為」なので自己責任論に流れがちですが、「その行為をカミングアウトたらしめているのは、社会」と気付いた時、それは個人に帰する責任ではなく、社会を構成する全員に責任がある問題になります。(この視点は、障害の文脈で現在主流である「社会モデル」に共通するそうです。)

そして逆説的ですが、「カミングアウトしても、しなくても、困らない社会」への道のりは、カミングアウトが増えて「当たり前」になる時代を通過することが、必要になります。

2015(平成27)年、OUT IN JAPANというプロジェクトが生まれました。1990年代、アメリカ社会に暮らす一般の性的マイノリティたちを写真で紹介し、可視化したOUT IN AMERICAプロジェクトにインスピレーションを得てNPOが企画し、ギャップジャパンの支援(当時)を得て始まったポートレート企画です。

芸能人やセレブリティではない、市井に暮らす性的マイノリティを、世界的なファッション写真家であるレスリー・キー氏が撮影し、スーパークールなポートレートと被写体からのメッセージが、ウェブ上にアーカイブされます。参加者にとってポートレートは最強のカミングアウトの名刺となり、アーカイブは全国の当事者への大きなエールとなりますが、身近に当事者を感じられない多くの人へ「当たり前の隣人」という気付きも提供しています。

実はカミングアウトの少なさは、当事者にとっても自分以外の当事者との接点の少なさにつながっています。私自身、OUTIN JAPANでのべ1000人以上の多様なセクシュアリティの人たちに伴走し、自分らしい姿でカメラの前に立てるようにスタイリングを通じてサポートした経験が、渋谷区からのオファーに悩んだ時、背中を押してくれました。

OUT IN JAPAN(NPO法人グッド・エイジング・エールズ)
http://outinjapan.com

OUT IN JAPAN

ここから先は

0字

¥ 300

PayPay
PayPayで支払うと抽選でお得

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?