THE MOM TEST - ビジネスアイデアを正しく検証するヒアリング
こんにちは、Stripeの@Ryuです。
突然ですが、私はビジネスアイデアを考えるのが大好きです。iPhoneのメモに50個以上はアイデアを書き溜めています。
例えば「クッキング教室のライブ動画配信サービス」「筋トレのコーチングチャットボット」「体質・食生活に応じて最適な香水を選ぶAI」などなど。
そうしたアイデアを他人がどう思うかヒアリングしたくて、友だちや知り合いに話すと「へーおもしろそうだね」とだいたい言ってくれます。
が、別に真剣なディスカッションの場ではないので、その会話がどこへ行くわけでもなく微妙な空気になります。
起業志望の人や起業したことのある人、新規事業に関わる人は似たような経験があるのではないでしょうか?
間違った質問で気まずい空気を作ることはできるだけ避けたいですし、そもそも折角のアイデアを確認することができていません。
そこで、その質問がアイデア検証に適切か、確認する方法として@robfitzのThe Mom Testというものがあります。
The Mom Testとは何か、具体例を見るとわかりやすいので、本文に登場するヒアリングの悪い例と良い例をもとに紹介します。
悪いヒアリング例
息子:お母さん、ちょっとビジネスのアイデアがあるんだけど、聞いてもいい?
母親:もちろんよ。(私の大事な息子だもの。何でも聞くわ)
息子:お母さん、iPad好きだよね。よく使ってるよね?
母親:そうね。(そう質問されたらそうよ)
息子:じゃあ、もし料理レシピ本みたいなiPadアプリがあったら買う?
母親:そうね〜、どうかしら。(この歳で別のレシピ本いるかしら?)
息子:たった$40だから今棚にある紙の本より安いよ!
母親:そうね…(アプリにお金払うの?)
息子:しかも、レシピを友達にシェアできて、iPhoneアプリから買い物リストも作れるの。それに有名シェフのビデオも見れるんだよ!
母親:あら、それはいいわね。$40でそれなら安いわ。レシピは写真もあるのかしら?(あんまり必要なさそうだけど傷つけちゃ悪いし、興味あるように答えなきゃ!)
息子:うん、もちろん。ありがとうお母さん、愛してるよ!
母親:ラザニア食べていく?(そのアイデアはきっとうまくいかないからせめて何か食べていって)
-The Mom Test本文より拙訳
母親の少し困った表情が浮かびます。息子がこのヒアリングを根拠にアプリ開発を進めてしまうと残念なことになりそうです。
ヒアリングを受ける側は、その人の気持ちを傷つけたくないので、本心でなくても褒め言葉、肯定する言葉を返してあげたい気持ちがあると思います。
しかしその偽のポジティブなフィードバックには何の意味もなく、それを真に受けてビジネスを作ったところで成功することはないでしょう。
だからといって本音で回答しなかった人を責めることはできません。
起業家なら自分のアイデアの良し悪しは自分で判断すべきだからです。
そのためには正しい質問をする必要があります。The Mom Testを意識すると上の会話は次のようにできるはずです。
良いヒアリング例
息子:お母さん、新しいiPadはどう?
母親:とってもいいわよ。毎日使ってるわ。
息子:いつも何に使ってるの?
母親:ニュース読んだり、数独したり、友だちと連絡したりよ。
息子:一番最近は何に使った?
母親:お父さんと今度旅行に行くから、どこに泊まるか探したわ。
息子:何かのアプリで探したの?
母親:ううん、ただ検索しただけよ。アプリもあるのね。
息子:今iPadに入ってる他のアプリはどうやって探したの?
母親:新聞の「今週のアプリ」特集で見つけたのよ。
息子:なるほどね。ところで新しい料理レシピ本が棚にあるみたいだけど、どうしたの?
母親:クリスマスにもらったのよ。マーシーがくれたと思うけど、まだ開いてもいないわ。この歳でラザニアの別のレシピ本なんてねえ。
息子:最後に自分で買った料理本は何?
母親:聞かれて思い出したわ。3カ月前にヴィーガン料理の本を買ったの。お父さんが健康を意識してるから役に立つかと思って。
-The Mom Test本文より拙訳
さっきとは一転して会話がスムースです。
母親は息子が考えている料理レシピアプリは買わないかもしれませんが、それ以上に、息子はこの会話から多くのことを学べます。
例えば、新聞のアプリ特集は母親の年齢層にとって効果的なマーケティングチャネルになり得ること、母親の年齢層には一般的なレシピ本ではなくニッチなレシピ本のニーズがあるかもしれないこと、ギフトとしてレシピ本の市場があることなど。
悪い例と良い例の違いは何でしょうか。
それはアイデア自体について話しているか否かです。
悪い例では料理レシピアプリの話をしていますが、良い例ではしていません。代わりに母親の生活・事実について話しています。
アプリのアイデアについて話していないから、母親が息子を気遣って嘘をつくこともありません。
聞く方にとっても、アイデア自体には触れないので誘導せずにヒアリングしやすくなります。
The Mom Testとは
The Mom Testは、あなたの頼みには何でもYesと答えたい母親でさえ嘘のつけない、よい質問をするためのルールです。
その原則はシンプルに3つ。
1. あなたのアイデアではなく、相手の生活について話すこと。
2. 一般的なことや未来のことではなく、過去の特定のことについて聞くこと。
3. 自分が話すより、相手の話を聴くこと。
-The Mom Test本文より拙訳
The Mom Testにパスする質問をすることで、価値あるヒアリングができ、ニーズの深堀りや機能の優先順位付けに活かせるはずです。
書籍には見込み顧客企業にヒアリングする際の良い質問・悪い質問など、ユーザーインタビューを効果的に行う方法が書かれています。
邦訳されていませんが、非常にカジュアルでわかりやすい英語で書かれており、笑える部分も多いのでオススメです。
著者のYouTube、Twitter、Podcastもあります。
コードの間違いはエラーやテストで気づきやすいですが、ユーザーヒアリングは誤っていても目では見えません。
そのヒアリングは正しいのか、The Mom Testでチェックしてみるといいかもしれません!
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