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【反逆者~ウンメイノカエカタ~】 大志を抱いた少年の純真な強さ

反逆者~ウンメイノカエカタ~
集英社 2008年9月30日 第1刷発行
弥生翔太(やよい しょうた)

本を購入するきっかっけというのは色々あると思いますけど、本作はたまたまTwitterで見かけたtweetがきっかけでした。

大吉堂(@toyritz)様という古本屋さんです。

大吉堂さんのtweetは、自分が読んでみたいジャンルを伝えることでおすすめの作品を選んで送ってくれるというサービスを行っている、という内容でした。本屋さんに行くと、ほしい本があってもなくても、棚を見ながら心に響くような一冊を見つけるために長居をすることが多いのです。ですが、今回の大吉堂さんのように、誰かにお勧めの本を選んでもらうってのも、それはそれでワクワクする体験だったりします。

それで、今回(とはいっても、買ったのは4月ですけど。。。積んでましたw)は大吉堂さんに、「冒険もの」というリクエストで本を購入してみました。
そのとき届いた一冊が、今回読みました「反逆者(トリズナー)」です。
帯に大きく「第7回スーパーダッシュ小説新人賞 佳作」と書いてありました。なるほど、受賞作品の書籍化ってやつですね。期待が大きくなります。

本作の内容を説明すると、超常の力を持つ少年が、ある少女を護衛するという任務を受け、悩み、苦しみ、それでも任務を遂行しようと奮闘する、そんな作品です。
超常の力と書きました。この作品では人類の持つ力を「人為的」に強化した人間が登場します。もちろん、どのような作品でもそうであるように、善に属する組織にも、悪に属する組織にも人外の力を持つ人間は所属しています。作中では、善に属する人外の力を持つ者を「先駆者(ハビンジャー)」、悪に属する者を「反逆者(トリズナー)」と呼んで区別をしています。
さて、ここでもう一度本作のタイトルを確認しましょう。

反逆者~ウンメイノカエカタ~

ん??これはどういうことだ?
ストーリーがある程度進んだところで先駆者と反逆者の説明がされますが、タイトルには反逆者。あれ?反逆者は悪に属する組織の能力者だったはず。
副題に「ウンメイノカエカタ」とある。
ふむ。
これが、あれか?
反逆者の能力者が自分の境遇に疑問を持ち、善なる心に目覚める、的な展開?
これ、序盤のあたりで私が感じた疑問です。

ちなみに、この小説の主人公は「立花浩平」という先駆者の少年。
そうです。主人公は先駆者なので、善の組織に属する者なのです。
んんー??すでに私の疑問は外れてそうな感じ。

そうそう。能力者とひとまとめにして書いていますが、この「能力」というのは能力者によって異なるらしいです。普通の人間にもある個性のようなものでしょうか。
主人公である浩平の能力は人間の筋力や修復力といった身体能力が大幅に向上するという、これ以上ないくらいわかりやすい能力。身体一つで悪に立ち向かっていくのですが、その異能の能力とは別に「予知」の能力を生まれつき持ち合わせています。ところが、この予知は自分でコントロールできるものではなく、突然、それも普通に生活している中で見せられる融通のきかない能力。しかも、その能力は「世界のどこかにいる人間の亡くなった場面」が見せられる。どこの誰かわからない人の亡くなった場面を見せられても、それに対して浩平ができることは何もない。
人間を超えた人外の力をもつ能力者が、自分の予知に対しては何の対応もできない。
この力の及ぶ範囲ってのも物語のキモですね。

勘のするどい方なら、途中で物語の展開が想像できるかもしれません。
決してわかりやすいというわけではないのですが、上手に作られたストーリーなので、自然と話の展開を匂わせながら読者に予想させる楽しさを提供しているように感じます。
主人公の立花浩平の書き方も、こうあってほしいという願いが届いたかのように読者の期待に応えるように動いてくれます。冷静に立ち回り、深く悩み、大いに悲しみ、叱咤激励を受ける。人外の力を持つ能力者といっても、感情の起伏は私たちと同じように儚くもあり、強くもある。人間なのだから当たり前なのかもしれませんが、私たちと同じような目線で悩む姿に共感を得るように感じます。

戦闘シーンはスピード感に溢れ、私生活が書かれるときにはほのぼのとした雰囲気に包まれる。
文章の強弱は申し分なく、最後まで一気に読ませるくらい読みやすい。
何よりも、主人公の立花浩平の生き生きとした表情が読者を惹きつけます。

ファンタジー世界ではない、異世界転生ではない、ちょっと未来の、私たちと地続きの未来で私たちの子供のような少年が躍動するノンストップアクションです。あなたも見守ってみませんか?

それでは、ここからは触れていなかった「ネタバレ」を含みつつ、もう少し書いてみます。
ネタバレを読みたくない方は、ここで読むのをやめてください。
行数を10行くらい空けておきますね。









本当に読みますか?ネタバレありですよ?


では、書いていきます。

そりゃタイトルが反逆者になるよなぁ、と感心しちゃいました。
予知という、今後の運命を決定づけると思わせる現象に、「運命に対する反逆者」としての立ち位置を自分の力で手に入れた浩平は、なるほど、先駆者でありながら反逆者となった稀有な例ということなのかな。

本作は、浩平にはちょっとだけ酷なストーリーだったかな。
浩平と対になる存在である日向とすれば、自身はすでに時代に取り残された能力者であることを自覚したうえで、犠牲を払ったとしても自分の立場と次世代を担う浩平を守りたかったのかな。その一連の流れの中に、自分の死が含まれていたとしても。
うーん、それでも日向の行動には賛同できない。
どうしても日向の行動には「自己保守」が見え隠れしてしまう。
次世代のエースが浩平なら、前世代のエースが日向。豪放磊落とも思える日向だけど、作中で語られていたように後輩の活躍を邪魔するような行動が書かれたりしている。
長くエースとして活躍した分、失うものへの恐怖や立ち位置等に怯えているのでしょうか。
今回のストーリーでは、それなりに理由付けをして浩平の前に立ちましたが、次世代のエースでもあり、圧倒的な能力差を持つ男に叩きのめされることで、敗北を正当化したかったんじゃないかな。次世代エースだから仕方ない、93%という圧倒的な適合率。負けてもしょうがないという状況を利用し、さらには結果的に浩平を覚醒させた、という見方もできる結果になる。
この日向という男があまり好きになれなかったのは、このへんに理由があったかもしれません。

一方で、浩平の描き方については非の打ちどころがありません。
悩み苦しむ姿、冷酷になろうとする偽りの姿、戦闘時の圧倒的な強さ。
主人公として文句無しです。
文句無しなんですけど、ちょっとかわいそうなくらいに悩んでましたね。

そんななかで、きっちりと仕事をこなした、本作で退場するのがもったいないキャラといえば『バラし屋』ベニー=スタットでしょう。身体にブレードを生やすというわかりやすい能力、巨大な体躯にタンクトップと迷彩柄のズボン。The悪役。こんなキャラ、大好きです。
見た目のインパクトだけではなく、悪役としての仕事、序盤は圧倒的有利に立ち主人公を煽る、覚醒した相手と対峙して手も足も出ない、退場したと思わせてまさかの姑息な再登場、重要な場面でダメ押しの謎活躍(悪役として)。ボリュームたっぷりの悪役っぷりじゃないですか。
多くの人は悪役が最後によくやる爆発玉砕で退場するとおもったんじゃないでしょうか。私は思いました。まさかの再登場があり、歓喜に震える私に、満身創痍の浩平にあっさりとやられる場面なんて、悪役ここにあり!を体現したような活躍だと思います。さらに言えば、シアを助ける場面で、死んだと思われていたベニーがまさかのブレード投擲でダメ押しの活躍。
悪役とはいえ、ここまできっちり書いてもらえれば主人公と同じくらいに印象が深くなるってもんです。
惜しいキャラを失ってしまった。。。

さて、全体的には大いに気に入った作品でしたが、三つだけ気になったことがあるので書かせてください。
一つ目は、読んでいる中でどうしても「ある漫画」が頭に浮かんできました。
主人公が高校生、過去にきつい体験がある、肉弾戦がえらい強い、覚醒するとさらに強い。
出版社が異なるのでタイトルは書きませんが、ちょっとだけ気になっちゃいました。だから嫌だ、とかそんなことではないのですが、気になったので書いておきます。
二つ目は、これは完全に好みとなってしまうので、申し訳ない話でもあるのですが、登場するキャラのイラストについてです。どうしても、設定の年齢よりも幼く見えてしまい、違和感を感じてしまうのです。
これは本当に個人によって感じ方が変わるので、申し訳ないことこの上ないのですが、浩平や愛海が高校生との設定でしたので、幼すぎはしないか、と感じました。浩平たちだけではなく、周りを固める大人達についてもそうです。日向に関しては、もっと達人感を出してもよかったでしょうし、斎賀についてもきついくらいのクールビューティーでもよかったのでは、と思いました。
いちゃもんをつけるつもりはありません。
あくまでも、そう感じた人もいる、くらいに読んでください。
そして最後はシアのその後です。
シアが不老不死になっていたことは作中で語られました。そのことについては秋山がうまいことごまかしたように書かれていましたが、本当に安心できる状況なのでしょうか?狙っていた側からすれば、実際に目の前で不老不死ではないことを見ない限りは信じないと思うのです。さらにいえば、不老不死であるということは、老いていく浩平を見守り、永遠の別れを見届け、それでも生きていかなければならないのです。
本当にこれでよかったのでしょうか。この状況を手放しで喜べる、とは思えません。
将来のことを考えれば、希望よりも絶望に塗りつぶされそうです。

とはいえ、ストーリーに関しては文句無しです。
一気に読み終えてしまいました。
やっぱり誰かにお勧めしてもらうってのは楽しいです。

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流水
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