【comicreview#7】「ディノサン」木下いたる
コミックレビュです。
今回はコミックバンチ連載の話題作「ディノサン」。作者は木下いたる。1巻が今月発売されたばっかりです。
男の子ならみんな大好き(だったはず)、恐竜モノなのですが、ちょっとヒットに繋がりにくいんですよね。恐竜を取り上げた作品って。最近やってるのは「ギャルと恐竜」くらい?
ストーリーはこんな感じ。
1946年にとある島で生き残りを発見。その後、繁殖や遺伝子操作によって、再生されることとなった恐竜。それから恐竜ブームに沸いた世の中だったが、とある事故がきっかけで人々の心はすっかり恐竜から離れてしまう。そんな中、経営難に陥った恐竜園「江の島ディノランド」に新人飼育員として、須磨すずめが入社することに。恐竜に対して熱い思いを持つ彼女にとまどう園の職員たちだが……。(参照:コミックバンチWeb)
「恐竜の血液から再生」というわけではなく「生き残りを発見」という違いはあるものの、概ね「ジュラシック・パーク」の世界感を拝借したともいえる設定ですが、ここでの恐竜たちはもっと身近な存在になっています。動物園のように「恐竜園」が各地に点在。幼稚園児が遠足で訪れちゃうくらいの親しみやすさです。でも、「とある事件」をきっかけに人々の心は恐竜園から遠のいてしまうのです。
そんな業界的にピンチの状況下、経営難に陥っている恐竜園「江の島ディノランド」に入社することになった主人公の須磨すずめ。(これ、江の島っていう立地も絶妙ですよね。万が一脱走したとしても島から出さなければなんとかなる)
物語としては「動物園の飼育員を主人公に据えたお仕事モノ」をそのまんま「恐竜の飼育員だったらどうなんの?」という考えで構成されている印象。ゆえに、リアル。恐竜の産卵でトラブルが起こったり、かつてのスター恐竜の人気を復活させるにはどうしたらいいか?を考えたり、恐竜の病気に関してのお話だったり。すずめたち飼育員の奮闘と並行して、ギガノトサウルスにトリケラトプス、トロオドンなど、ディノランドで暮らす恐竜たちも愛情をもってクローズアップされます。専門家の監修も入っており、恐竜の描写も最新の研究結果に基づいたものとなっています。
そして強調されるのは「恐竜への誤解を解きたい」というすずめの強い思い。
「恐竜は強い 恐竜は怖い 世間が抱くのはそういう印象ばかり」
「だから実はユキ(※大型肉食恐竜のギガノトサウルス)が甘えん坊なことも、誰も知らない」
「例えば恐竜も年を重ねれば老いるし弱くもなる」
「そういう生き物としての魅力を伝えたくて私はここに来たんです」
「あの事故以来、大きく開いてしまった彼らとの距離を埋めるきっかけになりたい」
「それが私の夢なんです」
もちろん新人がすぐに状況をがらりと変えられるような、そんな甘っちょろいものではないんですよ。ただ、この作品は「新人が壁にぶちあたりながらも、その情熱で職場(業界)の空気を少しづつ変えていく」というお仕事漫画の王道を歩むのだと思います。そしてそれはたぶん正しい。設定が非現実的で突飛なだけに、主人公がストレートで熱いくらいがちょうどいいです。
すずめの出自だったり、15年前の「あの事故」であったり、ちょっと不穏な匂いも漂わせており、物語にも厚みが出てきそうです。
恐竜大好き人間はもちろんですが、恐竜に詳しくなくても大丈夫。ちょっと珍しい作品を読みたい人、仕事で悩みを抱える人なんかにもおすすめしたい。
あと、すずめの自宅の家族写真にはお父さんと赤ちゃんが写っているのですが、1巻では触れられなかった赤ちゃん(弟?妹?)の存在も気になります。
2021年9月29日時点で、1話、2話、6話が読めます。とりあえず1話&2話を。
海堂さん役に井浦新さん熱望。