【2022】COMIC OF THE YEAR (前編)
個人的にはある意味、音楽アルバムより纏めるのが楽しみになってきているCOMIC OF THE YEARです。10作品セレクト+特別賞的な枠を設けています。選出基準としては「2022年の時点で漫画雑誌等に連載されている/いたこと」です。連載じゃなく読切とかでも構わないのですが。コンセプト的には「次に来る漫画大賞」とかああいうのに近いので、30巻や40巻続いているような長期連載作品とかはまず選びません。ちょっと量が膨大になってしまうので、前編・後編に分けます。まずは前編から。できる限り端的に!
ちなみに、2020年、2021年の結果は以下に。
「超人X」石田スイ
「東京喰種」の作者・石田スイによる最新作。「となりのヤングジャンプ」にてWEB連載中。日本のようで、どこかズレた世界で繰り広げられる「超人」と呼ばれる異能者による能力バトルアクション。「何も持たない者」であった主人公が突如能力に目覚めるなど、やや使い古された感のある話ではあるが、少し捻った設定はいかにも石田スイらしい。次々現れる超人たちの姿や能力もみどころのひとつである。「受け身」で「夢がない」主人公の自分探しの旅でもある。「東京喰種」ではありえなかった大仰なキメゴマとか楽しい。「東京喰種」の超絶作画の7割くらいの力で描いている印象で、もちろんそれが悪いわけではない。いい意味で、力を抜いてリラックスして描いてるんだろうなあと思う。
「テレワァク与太話」山田金鉄
「あせとせっけん」の山田金鉄による最新作。週刊モーニング連載中。11月に連載開始されたばかりで、まだ単行本未発売です。短期連載的な触れ込みだったので、恐らく1~2巻でまとまる作品だと思う。社畜(目が死んでいる/三白眼)が、テレワークになったのをきっかけに、お隣さん(未来の妻)に翻弄されて、あらあらどうなるの?ていう話なのですが、山田金鉄は実にフェティシズムをくすぐるのが上手い。もはやその筋の専門家である。「あせとせっけん」では「汗っかき×眼鏡×ウブ女子=麻子さん」という変化球を投げてきましたが、「テレワァク与太話」では「京都弁×考古学×眼鏡×そばかす×おっとり×なに考えてるのかよくわかんない魔性=奈津さん」という剛速球であなたの心を刺すのだ。実に・・・実に良い。 (眼鏡は外せねえんだな・・・)
「ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王」原作:三条陸 / 漫画:芝田優作
90年代のジャンプ黄金時代を彩った傑作のひとつである「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」。主人公・ダイの師匠であるアバン先生の「勇者時代」を描いた作品。Vジャンプ連載中。こういうスピンオフモノって、大抵「うんうんこんなもんだよね (読んで損はしないけど得もしない・・・)」って感想で終わるのが多いのだけど、この作品はほんと素晴らしいです。「ダイ」連載時にちょろちょろと明かされていた勇者アバン vs 魔王ハドラーのエピソードをがっつり描くのはもちろん、知られざるエピソードや初登場の旧魔王軍の幹部らも登場。もちろん、ヒュとかバとかク等の人気キャラも「10数年前の姿」で出てくるんです。マアムの両親であるロカ&レイラの活躍もたっぷり描かれるし、画力や構成力も申し分なし。往年の「ダイ」ファンにも満足いただけるかと。
幻のダイの大冒険続編「魔界編」構想は有名だけれど、稲田浩司の作画が難しいならば、芝田優作に描いてもらおうという声も上がっているくらいなのだが、これマジで実現して欲しいなあ。いけるよ。
あ、一番の株上げキャラはマトリフですね。濡れるだろ。
「正反対な君と僕」阿賀沢紅茶
ジャンププラス連載中のラブコメ作品。これ、「面白いよね」って妻に言ったら「意外!」って驚かれたんですが、まあそりゃそうだろうなあ。40男が読む作品ではないと思います。言っちゃえば、陽キャ女子と陰キャ男子のラブコメなのだが、それだけに終わらないキャラ造形が見事だと思います。谷くんは物静かなんだけど、芯がしっかりしている。鈴木さんは元気で明るいのだが、空気を読みまくって空回りしちゃう。そんな2人がだんだんと仲良くなっていく様にニヤニヤしてしまう。タイプの違う2人の恋に、茶化したり反対したりせず、谷くんの本質を見抜いて受け入れている鈴木さんの友達連中もイイね。僕は山田くんと西さんの関係にニヨニヨしております。ときおり見られるデフォルメされたキャラ描写含め、ポップな絵柄も魅力。
「セシルの女王」こざき亜衣
ビッグコミックオリジナル連載中。実写映画化もされた「あさひなぐ」の作者・こざき亜衣による最新作。高校を舞台にしたスポーツモノだった前作とがらりと変わり、中世ヨーロッパが舞台。イングランドの黄金時代を築いた女帝・エリザベス1世と彼女の一番の忠臣であった初代バーリー男爵 ウィリアム・セシルの物語です。この時代、斬首刑は庶民のエンタメで、バンバン首が飛ぶ。倫理観の欠片もないぶっ飛んだ王。女同士の足の引っ張り合い。混乱に拍車をかける宗教対立・・・というように、ドロドロとした宮廷ドラマが繰り広げられる時代。しかし、主人公のウィリアムは、ただひたすらに純粋で青臭い。この対比が実に秀逸。かなり難しい題材だと思うのですが、読みやすさと重厚さを兼ね備えた構成は見事です。普段こういった分野にあまり馴染みのない人にもお勧めで、この作品でヨーロッパの歴史に興味を持つ、ということもありでしょう。1巻&2巻は様子見していましたが、3巻でグッと面白くなりました。未来の女王・エリザベス1世もまだ赤子です。これから長くなりそうだけど、どう描き切るか?楽しみです。
以上。後編に続きます。