【2022】COMIC OF THE YEAR (後編)
2022年面白かった漫画大賞。
COMIC OF THE YEAR 2022、後編です。
前編はこちら。
「タコピーの原罪」タイザン5
ジャンプ+にて連載されていた当時、ストーリーが進行するにつれ「やべえ」「エグい」「ぞわぞわする」などと漫画フリークたちを騒然とさせた問題作。水商売を営む母子家庭の少女・久世しずか。彼女を目の敵にして苛め抜く雲母坂まりな。医者の家庭に生まれ成績優秀だが兄に対してコンプレックスを抱く東直樹。小学生たちの間に渦巻くドス黒い感情を浮き彫りにする存在として機能するピュアで何も知らないハッピー星人・タコピー(無知は幸せでもある) 。悪意というものを解さないタコピーにより、事態はどんどん悪い方向に転がってゆく。可愛らしい絵柄に不釣り合いな陰惨かつ絶望的な展開。好き嫌いは思いっきりわかれるだろうが、目を背けずに最後まで読んでみて欲しいと思う。
ちなみにタコピーのキャラは「チェンソーマン」第二部の冒頭の「コケピー」で思いっきりサンプリングされていたので、チェンソーマン好きでまだ「タコピーの原罪」読んでない人はチェックしてみると良いのでは。
著者のタイザン5は現在、ジャンプ本誌で「一ノ瀬家の大罪」を連載中。こちらは家族全員記憶喪失とういう設定のホームドラマなのだが、これまたタコピーばりに闇が深い (いまんとこちょっと重すぎてキツイ)。
「三十路病の唄」河上だいしろう
30歳、男女6人シェアハウス物語。コミックトレイルにてWEB連載中。男子3人:ゲーマーとして成り上がりたい「ラスボス」、お笑い芸人として燻り続ける「こぎり」、特に夢を持たず楽して金を稼ぎたいというスタンスの「ムッシュ」。女子3人:鳴かず飛ばずのミュージシャン「ミリオン」、自分の料理店を開きたい「おかん」、ひとりでいるのを辞めるためにシェアハウスの道を選んだ「チュン」。6人それぞれの遅咲きの夢を信じて、頑張ったり頑張らなかったりするだけの物語。男女比が50:50ってこともあるし、ラブストーリー展開を想像される人も多いかもしれませんが、一組だけ片思いがあるだけで、あとは予感もなし。外部での恋愛要素も見当たらず、純粋に夢追い人の物語という印象です。基本的にはメンバーの本名は明かされずに渾名呼び。と、なかなか興味深い条件でお話が進んでいます。
もちろん自分の年齢的にどんぴしゃりでではないので最初読むのを躊躇したのですが、40代以上の人間にも感慨とある種の勇気を与えてくれる作品だと思います。
「踊れ獅子堂賢」常喜寝太郎
週刊モーニング連載中。獅子堂賢、40歳。独身。大手下着メーカーの2代目社長。どんな人間でも、社長って肩書きがつけばそれなりに見えるような気もするのだが、果たしてこんなに頼りない社長がいるのだろうか。仕事ではお飾り。自分がいなくても会社は回る。プライベートでもダメダメ。すっかり自信喪失している獅子堂が、"もういちど奮い立つ"きっかけとなったのが社交ダンス。数奇な運命に導かれて、自社の新入社員でもある椎名まなかが講師を務める社交ダンス教室へと通い始め・・・・というストーリー。
極端な「ダメ社長」描写は、少しづつ変化していく獅子堂の未来を描くためのスパイスでもある。個性的なダンス教室の面々との日々を通じ、社長業でも一歩づつ前に進んでいく獅子堂。そして椎名への思いもはっきりとして、ラブストーリーも絡みだす。椎名さんのギャップ萌え(普段は眼鏡で大人しめ/ダンス教室のときはアクティヴ)と天然っぽい大胆な振る舞いはちょっとポイント高いです。40代男性が20代の女の子とどうにかなっちゃうなんてファンタジーでしかないのだが、女性からしたらちょっと気持ち悪いんだろうな。ただ、男性の方が社会的地位があるからな・・・なんて雑念は振り払って読みたい作品。
「あかね噺」原作:末永裕樹 / 作画:馬上鷹将
週刊少年ジャンプ連載中。物語は主人公・朱音の小学生時代から始まる。噺家である父・阿良川志ん太が挑む真打昇進試験。そこである事件が起こり、そして時は流れ・・・・という展開。察しがいい人は、この流れだけでだいたい何が起こったか理解したと思います。僕はさすがに「はあ???」と思いましたが。
高校生になった朱音は髪の毛の先っちょだけピンクに染めちゃったりして小生意気で不敵な感じで、とっても今風なキャラ造形なのだが、そんな娘が落語の世界で生き抜こうともがくギャップ。女の子が主人公のジャンプ漫画は多くはないが、朱音は快活で気も強く、竹を割ったように一本気。落語に一生懸命で、全力で取り組む。苦労もある。でも、それを乗り越えていく胆力がある。とてもジャンプ的な主人公だと思うし、受け入れられやすいのではなかろうか。トーンを多用しない、すっきりはっきりとした筆致も好き。
噺家の表情がくるっくると変わる、落語の描写もいい。噺家たちも同輩・先輩・レジェンドなどなど、個性派揃いで多士済々。とても敵わねえと思わせるボスキャラも。テーマは落語だが、友情・努力・勝利を地でゆく、ジャンプ王道バトル漫画であると思う。
「日本三國」松木いっか
みんな大好き「三国志」。今も昔も人々の心を熱くさせるド定番の英雄譚です。そんな三国志の設定を強引に日本という国に持ってきたのが「日本三國」。かつても「太陽の黙示録」など日本を舞台にした三国志オマージュ作品はあったものの、「日本三國」は、日本という国家が完全に破壊されたうえで、その廃墟に新たな文明/価値観が育っているような近未来が舞台。めちゃくちゃ強引だが有無を言わせないパワーと熱量があるのだ。
武力がモノを言う戦乱の世。しかし、主人公の三角青輝は明らかに「諸葛亮公明」タイプである。武ではなく、智で世を正す。のちの天才軍師も、いまはまだ黎明期にあり、今はまだ、青輝を導くものとして先達たちの活躍が描かれる時代だ。辺境将軍・龍門光英。軍師・賀来泰明。武鳳総督・輪島桜虎。初めて知り合ったはずのキャラクターを、その名を語るだけで心が躍るような存在に変えてしまうのは威風堂々とした作風の賜物だと思う。そして内務卿・平殿器。恐らく物語序盤における董卓のような存在となると思われる彼の憎たらしさもストーリーの強烈なスパイスとなっている。あと、たぶん前代未聞の「物語中の会話、8割くらい関西弁」。これもトピックとして挙げられるべき。これからも重厚なストーリーを期待しています。
・・・・以上10作品でした!
レビューのなかではランキング形式にしなかったけど、順位つけるとしたらこんな感じになるとおもいます。
1.日本三國
2.あかね噺
3.踊れ獅子堂賢
4.三十路病の唄
5.タコピーの原罪
6.セシルの女王
7.正反対な君と僕
8.ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王
9.テレワァク与太話
10.超人X
その他にもピックアップしときたい次点の作品として、以下の3作品を。
音楽業界の「天才を届ける側」の物語「アンサングヒーロー」にはかなり期待していたんだけど、酷いレベルの打ち切りだったから選出はしませんでした。でも次点として名前挙げたい。巨大ロボ×怪獣モノ「スノウボールアース」は粗削りなんだけどなんか目が離せないのよな。
2023年も面白い作品と出会えますように。
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