全裸中年男性、本を買いに行く
全裸中年男性は文学青年に連れられて書店にやってきた。全裸中年男性は周りから陰茎が見えなくなる妖術を使って店内を歩いた。
「どんなの読みたいですか?」
「『クレヨンしんちゃん』かな。象の鼻を陰茎に見立てたのは実に良かった」
「じゃあこれなんかどうです?」
そう言って文学青年はライトノベルコーナーから一冊の本を取り出した。本の裏表紙にはあらすじが書いてあった。
《崖から落ちて死んだ皇帝のあとを継いだシン。民衆は「シン様」と呼び歓声をあげるが、その人気に嫉妬したマロニエ大臣の陰謀で帝国をハイパーインフレが襲う。どうするシン!》
全裸中年男性は文学青年を殴った。
「これのどこが『クレヨンしんちゃん』なんだよ」
「崖から落ちて皇帝が死んだというのがクレヨンしんちゃんの作者の暗喩になっていて、そのこどもの名前がシン。これを解読するとクレヨンしんちゃんの制作秘話になるんですよ」
「どう見てもただのラノベじゃねえか」
「もっと知的になれよオッサン。暗喩も分からねえのか」
「俺がそういうのに何回騙されたと思ってるんだ。アイドルがテレビでバナナが好きですと言うから事務所に陰茎を見せに行ったらあっさり逮捕されたわ」
「陰茎を切断して死ねよキチガイ」
口論しているうちに全裸中年男性の妖術が解けてしまい、陰茎があらわになった。全裸中年男性は無事に警察に連れていかれた。
23日後、釈放された全裸中年男性はふたたび書店に行った。
「そこまで言うなら、こう、分かりやすくしてやらないとな」
全裸中年男性はラノベにレモン汁でクレヨンしんちゃんの絵を書き、あぶり出しでクレヨンしんちゃんの絵が出てくるようにした。
全裸中年男性は店員に近寄り、
「あちらの方のご依頼の通り書物の飾りつけをさせていただきました。作業料金は後日請求させていただきます」
と訳の分からないことを言いながら、その場にたまたまいたスキンヘッドに黒いシャツの男を指差して逃げた。