全裸中年男性、ゴキブリと闘う
全裸中年男性の前に、袈裟を着たスキンヘッドの男が現れた。スキンヘッドの男は日本刀を持っていた。
全裸中年男性のもとには数週間前に、禅問答をしたいという謎の書状が送られてきていた。全裸中年男性は「アメリカ原始密教の開祖である私の学識に叶うわけがなかろう。諦めろ」という返事を書いて送った。ポテトチップスの油で汚れたその返書を見て、最初から呼び出して殺すつもりでいたスキンヘッドの男はその決意をいよいよ強くした。
殺害後の警察の捜査を撹乱させるためにスキンヘッドの男は袈裟を着た。
スキンヘッドの男は全裸中年男性に問うた。答えが何であってもそのあと殺害するつもりでいた。
「ゴキブリは全裸ではないのか」
「ゴキブリは全裸ではなく服を持っていないだけである。われらの部族の心は日常的に陰茎を露出することにあり。ゴキブリは人間を見ればちょこまかと動き人間を惑わせることもあるが、そこに人間と交尾しようというこころざしがあるはずもない。」
スキンヘッドの男は全裸中年男性に斬りかかったが、そこで全裸中年男性の姿が幻であることに気づいた。
スキンヘッドの男が見た全裸中年男性は最新のAIが生成した幻で、本物はゴキブリに殺虫剤をかけている最中だった。ゴキブリの死骸を捨てると「ふう。面倒くさいな」と言った。AIがスキンヘッドの男の話を報告したが、興味を示さなかった。
なお、スキンヘッドの男との問答はアメリカ原始密教の聖典に納められることになった。ネトゲで全裸中年男性と知り合ったアメリカ人トーマスは全裸中年男性を本物の僧侶であると信じていた。日本語が読めないトーマスは全裸中年男性がその問答をコピペして草書体にしたPDF形式の文書とお経の区別がつかず、プリントアウトして大切そうに額縁にいれて飾った。