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馬になった全裸中年男性

 ある全裸中年男性は気づいた。動物は全裸でも逮捕されない。私は人間だから全裸になると嫌われそして逮捕されるのだ。犬や猫になれば陰茎を出し放題。いや、犬や猫は去勢されるか。

 なるならド派手な色の鳥になろう。

 全裸中年男性は妖術を研究し始めた。妖術を記した書物には《道路を走りながら両手を水平にしてブーンと叫ぶと鳥になる》と書かれていた。書物の最初の頁に《この本はフィクションです》と書かれているのを全裸中年男性は見落としていた。

 全裸中年男性は高速道路を全力疾走した。全裸中年男性の速度は時速120kmに達した。高速道路を走っていた自動車からは通報が相次いだが、通報を受けた警察は嘘つくな撃ち殺すぞと三回聞き返したあと、自然人には速度制限が適用されないから事故を起こすまで無視しろと指示した。

 全裸中年男性は事故を起こすこともなく高速道路を走り続けた。ペーパードライバーだったが、基本的な交通法規は分かっていた。

「見よこの安全運転。いや安全疾走」

 全裸中年男性は自画自賛したあと、両手を水平にしてついにその言葉を叫んだ。

「ブーン」

 ついに人間界からおさらばだ。他の全裸中年男性ども、あばよ。疾走から失踪になるのだ。

 気づくと全裸中年男性は馬になっていた。

 書物は嘘だったが、全裸中年男性は本当に妖術を発動させてしまったのだ。なお、この事例は《自然人が時速100kmを超えて走ると普通は途中で力尽きるか事故を起こして死ぬが、事故が起きないで走り続けると怪異現象が起こる》として全裸中年男性の教科書に掲載されることになった。

 まあ馬でもいいかと元全裸中年男性はそのまま高速道路を疾走していたが、数時間後には警察に捕まり引き取り手のいない身元不明の馬として処分されることになった。

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