【ファイナンス基礎講座】DCFの業務アプローチ
バリュエーションは、大きく三つの要素に分解される。
① 価値算定のための数量データ収集(インプット)
② 価値算定実行(プロセス)
③ 価値算定結果(アウトプット)の解釈
これらのうち、①と②はAIの導入によりほとんど自動化されるはずだ。価値算定において、バリュエーションの専門性が発揮されるのは③の結果の解釈だけになるだろう。
今の時代にそれぞれの要素がどのように変わるかを見ていこう。
※特に企業買収実務にたずさわっている投資銀行、証券会社、会計事務所などの業務を想定している
① 価値算定のためのデータ収集(インプット)
かつて上司に言われたことがある。
「数字を集めているうちに裏側にある事業への理解が進む」
M&A業界のレジェンドの一人の言葉だが、正直に言うと今でもこの意見にはあまり賛成できていない。
数量データを集めているうちに中期経営計画や関連ニュースを調べることになるが、このようにコツコツとボトムアップで企業に対する理解を進めていくより、作業を自動化してバリュエーション結果まで回し、何か論点が出てくるようであればトップダウンで数値の裏側にあるものを検証すればよいと思う。
時代やテクノロジーの進歩により、バリュエーションへのアプローチも変わるはずだ。このように表現するのは言い過ぎだろうか。
昭和・平成の(古い)バリュエーションのアプローチ(ボトムアップ)
数字の裏側にある事象をすべて理解する、または理解しようとする
完璧に理解したうえで価値算定を実行する
令和の(新しい)バリュエーションのアプローチ(トップダウン)
必要なデータだけ集める
詳細検討が必要な論点は価値算定結果を一度実施してから焦点を当てて分析する
② 価値算定実行(プロセス)
これに関しては、そもそものバリュエーション手法自体が標準化されていることもあってそこまで変わらないのかもしれない。バリュエーションの基本的な手法であるDCF法、類似会社批准方式、類似取引法、修正簿価純資産法で考えてみよう。
DCF法
DCF計算自体は標準化されている。インプット情報が標準化されていなければ、DCF計算へのつなぎの部分で人の手を介在させる必要があるだろう。
類似会社批准方式、類似取引法
これらに関しては、類似会社の選定・類似取引の選定についてはAIにより大幅に自動化されるだろう。業界の知見さえあれば主要な会社・取引をもらすことはない
修正簿価純資産法
時価への評価替え(不動産など)が必要なものを現状のBSに反映するというもので、不動産鑑定などが介在する部分の自動化はされないだろう。そもそも不動産鑑定などは外注するのであまり全体の工数への影響はない
③ 価値算定結果(アウトプット)の解釈
バリュエーションの専門家にとってその専門性をもっとも発揮できるのは結果の解釈になるはずだ。その意味では、バリュエーション業務に長年携わり、いろんな会社の価値算定結果を見てきたひとが最も必要とされ、純粋に作業に従事するリソースは不要になる。
どの業界でも同様かもしれないが、バリュエーション業界においても結果を解釈できたうえで、それにもとづき投資の意思決定について議論ができるコミュニケーションスキルがますます必要とされる。
結論
AIと業務の関係を考えるうえで、バリュエーションにおいてもAIに代替される業務はある。それをふまえたうえで、バリュエーション専門家としては、より意思決定によりそった議論ができるようなコミュニケーションスキルをみがくなどの対応が必要になる。
参考記事