【ファイナンス基礎講座】資本コストがわかればバリュエーションがわかる
バリュエーションをするときの会社のとらえかた
お金を入れれば、そのお金が何倍かになって返ってくる魔法の「箱」とはなにか?
資本主義の世界では、この謎かけに対する答えは「会社」しかないだろう(細かく言えば、「投資事業組合」も正解)
バリュエーションとは、会社という「箱」の価値を決めるものという考え方をしてみよう。図示するとこのようになる。
なお、バランスシートの世界観(つまり複式簿記の考え方)にしたがって、資本の投入はあえて右から描いている。
資本とは?
バリュエーションにおける「資本」を定義しよう。
資本=リターンを生むために投入が必要なお金
資本はさらに、他人から借りるお金=借金と、自分のお金=株式に分類される。
なお、英語では自分のお金のことを”Equity(エクイティ)”と表現するが、これはラテン語のエクイタス=平等を語源とする。会社に対して複数人で出資する場合には、出資した人たちの権利はみな平等であるーーーこの平等の権利をエクイティと言っている。
資本コスト(Cost of Debt)
借金のコストは非常に明快である。なぜなら、借金をする場合には融資契約書を締結し、金利(コスト)についても契約にて確定するからである。社債による調達でも同様のことがいえる。
資本コスト(Cost of Equity)
バリュエーションはアートとサイエンスの両面を持つといわれる。バリュエーションをアートたらしめているのは、Cost of Equityの影響が大きい。Cost of EqiutyはCost of Debtにくらべてわかりずらい。これはなぜだろうか。
わかりずらい要因①:会社からの支払いに関して、契約で決まった条件がない
Debtであれば契約書に定められた金利が会社にとっての資本コストとなる。Equityの場合はどうだろうか?
Equityにたいして会社がしはらうべきお金は、配当金のみだ。また、会社は支払わないものの、株式をもっていれば、売却によるお金も得ることができる。ただし、配当(株式総会で利益処分)、株式売却ともに、契約であらかじめ確定しているものではない。
わかりずらい要因②:会社からの支払いがなければ、何をもって会社の資本コストとするか?
これに答えるために、株式を持っているひと(株主)の視点にたってみよう。
理論的に考えると、株式への投資を考えているひとは、いくつかある投資のオプション(他の株式、不動産、FX、仮想通貨なども含まれるだろう)のうちもっともリターンが高い投資先を選択するはずだ。
ある会社に投資を決めたということは、他の投資機会よりも高いリターンをその会社が生み出せると思ったからである。そうでなければ株式を売り払って他の投資対象に投資するだろう。
このことを会社の視点にたちかえって考えてみると、株主に残ってもらうためには、配当と株式売却の金額が他の投資オプションよりも高いという状況をキープしなければならない。
Cost of Equityといっても、具体的に株主に払う金額ではなく、概念的に株主がもとめるリターンのことを意味するのである。
Cost of Equityのまとめ
概念としては頭の中で描けるが明確に存在しないものーーー
Cost of Equityとはそのような性質をもつものであり、Cost of Equityを内包する資本コストについてもつきつめていけば最後はどこかもやっとしたものがつきまとう。
このもやもやに学術的なアプローチで挑んだのがCAPM(Capital Asset Pricing Model)であり、これなしにはバリュエーションの実務は成り立たない。
次回以降は引き続きCAPM、そしてそれを根底で支えるファイナンス上のリスクについて考えてみたい。
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