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まいにち易経_0719【リーダーと組織】陽卦は陰多く、陰卦は陽多し。[繋辞下伝:第四章]

陽卦多陰。陰卦多陽。其故何也。陽卦奇。陰卦偶。其德行何也。陽一君而二民。君子之道也。陰二君而一民。小人之道也。

陽卦は陰多く、陰卦は陽多し。其の故は何ぞや。陽卦は奇にして、陰卦はぐうなればなり。其の徳行は何ぞや。陽は一君にして二民にみん、君子の道也。陰は二君にして一民。小人の道也。

八卦には、震、坎、艮が陽卦に属し、巽、離、兌が陰卦に分類される。陽卦は一陽二陰で陰の爻が多く、陰卦は一陰二陽で陽の爻が多い。なぜこのように分かれているかというと、少数者が多数者を支配する構造に理由がある。
陽卦では、奇数の陽爻が一つと偶数の陰爻が二つで、少ない奇数爻が卦の主導権を握る。一方、陰卦では、偶数の陰爻が一つと奇数の陽爻が二つで、少ない偶数爻が卦を支配する。こうして、陽卦には陰が多く、陰卦には陽が多くなるわけだ。
さて、陽卦と陰卦の徳行について考えてみよう。陽爻は君主を、陰爻は民衆を象徴する。陽卦は一陽二陰で、君が一人、民が二人という構図だ。多数の民が一人の君に心を寄せるのは、理想的であり、有徳者の在り方といえる。逆に、陰卦は二陽一陰で、二人の君が一人の民を取り合う形になる。民は二人の君の間で利益を追求し、これは悪しき道だといえる。
このように、陽卦と陰卦はそれぞれの爻の数と配置により、異なる徳行や支配の構造を持つ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

『繋辞下伝』四章では、リーダーシップと組織の在り方について語られています。これを現代に生かすために、少し解説しましょう。

リーダーシップには《陽・陰》二つのタイプがあります。
一つは優れた能力や技術を持つリーダー(陽)。こうしたリーダーには、その力に惹かれて人々が集まります。皆さんが持つスキルや知識、判断力が輝けば、自然と人は集まるでしょう。
もう一つは、包容力のあるリーダー(陰)。こうしたリーダーは、人を育て、支え、包み込む力があります。包容力を持つことで、優れた能力のある人々が集まり、協力し合う環境が生まれます。

組織や集団の中では、少数の者が中心となって多数の者を指導することで、バランスが保たれます。これは、ピラミッド型の組織構造を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。しかし、ここで注意が必要です。指導者が多くなりすぎると、争いが起こる可能性があるのです。これは、「船頭多くして船山に登る」ということわざにも通じます。
では、なぜ指導者が多すぎると問題が起こるのでしょうか?それは、意思決定の過程が複雑になり、方向性が定まりにくくなるからです。また、権力争いが起こりやすくなるというのも大きな要因です。

例えば、古代ローマの三頭政治を思い出してください。カエサル、ポンペイウス、クラッススの三人が権力を分け合いましたが、最終的には内紛に発展し、ローマ共和政の崩壊につながりました。
このように、リーダーの数と組織の安定性には密接な関係があるのです。しかし、だからといって独裁的なリーダーシップが良いというわけではありません。重要なのは、適切なバランスを保つことです。

現代の企業経営でも、この原則は当てはまります。例えば、Google社の創業者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、共同CEOとして長年会社を率いてきました。彼らは互いの強みを生かし、バランスの取れたリーダーシップを発揮することで、会社を成功に導きました。

ここで、皆さんに質問です。自分の所属する組織や集団を思い浮かべてみてください。そこでのリーダーシップの構造はどうなっていますか?うまく機能していますか?それとも、何か問題を感じていますか?
実は、理想的なリーダーシップの形は、時代や状況によって変化するものです。古代中国の易経の時代から現代に至るまで、社会は大きく変化しました。特に、テクノロジーの進歩により、組織のあり方も大きく変わってきています。

例えば、リモートワークの普及により、従来の対面式のリーダーシップとは異なるスキルが求められるようになりました。オンライン上でのコミュニケーション能力や、デジタルツールを活用したマネジメント能力が重要になってきているのです。
また、近年では「ホラクラシー」という新しい組織運営の概念も注目されています。これは、階層構造を廃し、自律的なチーム運営を重視する考え方です。このような新しい組織形態では、リーダーシップの概念自体が変化していく可能性があります。
しかし、どのような時代や状況であっても、リーダーシップの本質は変わらないと私は考えています。それは、「人々を導き、組織や社会をより良い方向に導くこと」です。

易経の教えは、この本質を捉えています。優れた能力を持つリーダーも、人を育てる包容力のあるリーダーも、どちらも人々を引き付け、導く力を持っています。そして、少数の指導者が多数の人々をまとめることで、組織は機能し、社会は前進していくのです。
リーダーシップは、決して特別な人だけのものではありません。皆さん一人一人が、それぞれの場所で、それぞれの方法でリーダーシップを発揮することができるのです。
小さなプロジェクトのリーダーであっても、クラブ活動の部長であっても、あるいは単に友人グループの中心的な存在であっても、そこにはリーダーシップが必要とされています。日々の生活の中で、自分なりのリーダーシップを探求し、実践していってください。


参考出典

優れた能力や技術を持つ一人のリーダー(陽)には、その力に頼り従う人々(陰)が集まる。また、人を育てる包容力のあるリーダー(陰)には、優れた能力の人々(陽)が集まる。
すべての組織、集団の中では少数の者が中心勢力となって、多数の者を指導することで組織が成り立ち、バランスが保たれる。
しかし、指導者が多くなる時は争いが起こる。

易経一日一言/竹村亞希子

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