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まいにち易経_0925【十朋の神亀:天からの贈り物、掴むべき幸運の兆し】あるいはこれを益す。十朋の亀も違う克わず。[42䷩風雷益:六二]

六二。或益之。十朋之龜弗克違。永貞吉。王用享于帝。吉。 象曰。或益之。自外來也。

六二は、あるいはこれをす。十朋じっぽうたがあたわず。永貞えいていなれば吉なり。王もつていきょうす、吉。 象に曰く、或いはこれをす、ほかよりきたるなり。

「あるいはこれを益す」という表現は、外部からの恩恵を指しています。この場合、「十朋の神亀」を他者が自ら進んで贈ってくるという大きな幸運が、自らの欲望や努力によるものではなく、完全に予期せぬ外からの収穫であることを意味しています。
「朋」は古代の貨幣単位で、二枚の貝殻をもって一朋とされていました。「亀」は神聖な亀、つまり神亀を意味します。この句は、相手が十朋に相当する価値のある神亀を贈ってくることを表しています。「違うことあたわず」とは、これを辞退することなく受け入れるべきだという意味です。
この爻辞が示す意味は、もし誰かが十朋に値する神亀を贈ってきたならば、これを拒まずに受け取り、その後も長く正しい道を守り続ければ、良い結果が得られるということです。さらに、君主がこの時、天神を敬って祭りを行い、その加護を祈れば、願いが成就し、吉を招くでしょう。

益卦の六二爻にある「あるいはこれを益すこと十朋の亀、違うことあたわず」という句は、損卦の六五爻と同じ内容です。損卦の六五爻では、これは「上からの助け」であり、他者への貢献による報いとして得たものですが、益卦の六二爻では、他者から自発的に贈られたものです。このため、好機が訪れた際には躊躇せずにその機会を捉えることが重要だと教えています。
また、実権を握ってもそれを乱用してはならないため、「永く貞にして吉なり」と爻辞で述べられています。「王 帝に享するを用いて」とは、祖先を敬って祭りを行うように、慎重かつ誠実に自身の職務に臨むことが吉となるということです。これは、祖先を尊ぶように君主を敬い、職権を私的に用いないことを意味しています。

占いでの解釈
自分から何かを強引に求めるのではなく、幸運が訪れたときには、それを拒まないことが肝要です。また、常に集中し、誠実に仕事に取り組むことが求められます。仮に損失があったとしても、その先により大きな利益が得られる可能性があります。貴重なものを手に入れた際には、名誉ある帰還が期待できるでしょう。未来には明るい展望があり、幸運が訪れる兆しがあります。機会を逃さず積極的に行動することが大切ですが、その一方で冷静さと慎重さを保つことも重要です。財産や名声を得る可能性もあり、水に関連する仕事が吉をもたらすでしょう。

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まず、「風雷益」という言葉の意味から説明しましょう。「風」は空気の流れ、「雷」は強い力や変化を表します。そして「益」は利益や成長を意味します。つまり、この教えは、社会や組織の中で、どのように利益や成長を生み出していくかについての智慧なのです。

皆さんは、大企業の幹部や、国の指導者になったとき、どのように行動するでしょうか?多くの人は、自分の地位や利益を守ることに必死になるかもしれません。しかし、「風雷益」の教えは、そのような考え方では真の成功は得られないと言っているのです。

この教えの核心は、「上位者が損して下位者を富ませる」ということです。これは一見、矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、実はこれこそが、組織全体の成長と繁栄をもたらす鍵なのです。

例えば、皆さんが起業して会社を経営するようになったとします。会社が成長し、利益が出始めたとき、その利益をどのように使うでしょうか?自分の報酬を増やしたり、豪華な社長室を作ったりすることも可能でしょう。しかし、「風雷益」の教えに従えば、その利益を従業員の待遇改善や、新しいプロジェクトの立ち上げに使うべきだというのです。

これは、単なる慈善行為ではありません。従業員の待遇が良くなれば、モチベーションが上がり、生産性が向上します。新しいプロジェクトが始まれば、会社全体が活性化し、新たな収益源が生まれる可能性があります。つまり、一時的に自分の取り分を減らすことで、長期的には会社全体がより大きな利益を得られるのです。

このような考え方は、実は現代の経営学でも重要視されています。例えば、「ステークホルダー理論」という考え方があります。これは、会社は株主だけでなく、従業員、取引先、地域社会など、様々な利害関係者(ステークホルダー)のために存在するべきだという理論です。「風雷益」の教えは、2000年以上も前に、既にこの考え方の原型を示していたと言えるでしょう。

さて、「風雷益」の解説には、「十朋の亀」という表現が出てきます。これは、古代中国で占いに使われた非常に貴重な亀の甲羅のことを指します。当時、亀の甲羅は神聖なものとされ、重要な決断を下す際の占いに用いられました。「十朋の亀」で占っても間違いがないというのは、つまり、この教えが絶対的に正しいということを強調しているのです。

現代の私たちにとって、「十朋の亀」はどのようなものに例えられるでしょうか。それは、長年の経験と膨大なデータに基づいた、最新のAIによる予測システムかもしれません。あるいは、世界中の一流の経営者や経済学者による綿密な分析かもしれません。「風雷益」の教えは、そのような最高レベルの知見を集めても、なお正しいと判断されるほど普遍的な真理だということです。

この教えの最後の部分、「やる気のある人を救い上げて事業を起こさせれば、経済が循環し、社会全体の利益につながっていく」という点も、非常に重要です。これは、現代で言うところの「起業支援」や「イノベーション促進」に通じる考え方です。

例えば、シリコンバレーの成功は、まさにこの考え方を体現していると言えるでしょう。大企業やベンチャーキャピタルが、有望なスタートアップ企業に投資し、支援することで、次々と新しいイノベーションが生まれ、経済全体が活性化しています。

また、マイクロファイナンスという概念も、この教えと深く関連しています。これは、発展途上国の貧困層に小額の融資を行い、彼らの自立を支援する仕組みです。一見すると、リスクの高い融資に思えるかもしれません。しかし、この取り組みによって、多くの人々が小規模ビジネスを始め、経済的に自立することができました。そして、その効果は融資を受けた個人だけでなく、コミュニティ全体の経済発展にもつながっているのです。

「風雷益」の教えは、このように現代社会にも十分に適用できる、普遍的な智慧と言えるでしょう。しかし、実際にこの教えを実践するのは、決して容易ではありません。なぜなら、それは短期的には自分の利益を犠牲にすることを意味するからです。

ここで重要になるのが、長期的な視点と強い意志です。目の前の利益に惑わされず、組織全体の持続的な成長を見据える。そして、たとえ周囲から理解されなくても、その信念を貫く勇気を持つ。これこそが、真のリーダーに求められる資質ではないでしょうか。

皆さんの中には、「それは理想論に過ぎない」と思う人もいるかもしれません。確かに、現実の社会では、自己利益を追求する人々も多くいます。しかし、だからこそ、「風雷益」の教えを実践するリーダーが必要なのです。そのような人々がいてこそ、社会全体が健全に発展していくことができるのです。

最後に、この教えを日々の生活で実践する方法について考えてみましょう。必ずしも大きな組織のリーダーになる必要はありません。例えば、チームプロジェクトのリーダーになったとき、自分の手柄を独り占めにせず、メンバー全員の貢献を公平に評価し、適切に報いる。あるいは、自分の知識や技能を惜しみなく後輩に教え、彼らの成長を支援する。このような小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化を生み出すのです。


参考出典

十朋じっぽう
風雷益の卦は、上位者が損して下位者を富ませることを示す。国家や会社組織でも、上が利益を独占せず、下位の正しい場所に還元するならば、全体が大きな利益を得る。それは「十朋の亀」という、古代の占いに用いた高貴な霊亀れいきで占っても間違いのない保証された益である、という。
やる気のある人を救い上げて事業を起こさせれば、経済が循環し、社会全体の利益につながっていくという教えである。

易経一日一言/竹村亞希子

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