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なぜ、人は並ぶのか - 行列文化の社会学

先日、ある店の前で、長蛇の列を目にした。

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開店前にもかかわらず、すでに100人以上が並んでいただろうか。傘や帽子で日差しを遮りながら、人々は黙々と待ち続けている。ふと考えた。なぜ、私たちはここまで「並ぶ」ことを厭わないのだろうか。

ちなみに私は、並ぶのは大嫌いである。


行列が生み出す価値

並ぶという行為には、不思議な価値創造の力がある。行列に並ぶ人が増えれば増えるほど、その商品やサービスの価値は高まっていく。

待つことを強いられれば強いられるほど、手に入れた時の満足感は増幅される。

これは単なる経済的な需要と供給の関係を超えた、心理的な価値の創造だ。

行列に並ぶ人々の表情を観察していると、そこには一種の連帯感さえ感じられる。

同じ目的のために時間を費やす仲間として、見知らぬ者同士が緩やかなコミュニティを形成している。

並ぶという行為は、個人的な消費活動であると同時に、集団的な体験でもあるのだ。

日本独特の行列文化

外国人観光客が日本の行列文化に驚くという話をよく耳にする。

確かに、整然と列を作り、静かに待つ姿は、日本社会の特徴を如実に表している。

秩序を重んじ、他者への配慮を欠かさない。この「待つ」という行為の中に、日本人の美徳が凝縮されているといっても過言ではない。

しかし、これは単なる従順さの表れではない。

むしろ、価値あるものを手に入れるための能動的な選択として捉えるべきだろう。

人々は並ぶことで、その商品やサービスの価値を認め、支持を表明している。

行列は無言の投票なのだ。


世代で異なる「並ぶ」という体験

渋谷のカフェの前で、2時間待ちと告げられても笑顔で並ぶ若者たち。

その隣では、スーパーの開店前から特売品を求めて静かに待つ高齢者たち。

同じ「並ぶ」という行為でありながら、その意味は世代によって大きく異なっている。


若者たちの「時間消費型」行列

Z世代やミレニアル世代にとって、行列は単なる待ち時間ではない。

それは「体験」の一部となっている。

2時間待ちのラーメン店の前で、友人とおしゃべりをしながらスマートフォンで動画を見たり、SNSに投稿したりする。

待ち時間自体が、コミュニケーションや自己表現の場となっているのだ。

彼らにとって重要なのは、必ずしもその商品自体ではない。

「並んでまで手に入れた」という物語性、そして待っている時間を共有する仲間との絆である。

行列は、デジタルとリアルが交差する特別な社会空間として機能している。


バブル世代の「ステータス型」行列

一方、バブル期を経験した世代の行列文化は異なる様相を見せる。

1980年代後半から90年代初頭、人々はブランド品や高級車を求めて行列を作った。

それは経済的余裕の象徴であり、社会的ステータスを示すものだった。

シャネルのバッグを求めて銀座に並ぶ。

新型のベンツの予約のために販売店に並ぶ。

こうした行列は、「勝ち組」であることの可視化であり、経済的成功の証だった。

この世代にとって、行列は社会的上昇志向と密接に結びついていたのである。


高齢者の「必需品確保型」行列

そして、現在の高齢者世代の多くにとって、行列は生活必需品を適正価格で確保するための手段である。

スーパーの開店前に並ぶ姿からは、戦後の物資不足を経験した世代の「もったいない」精神が垣間見える。

彼らの行列には、SNSに投稿するような派手さはない。

しかし、毎週の特売日に顔を合わせる常連同士の間には、独自のコミュニティが形成されている。

それは、デジタル社会における若者たちのバーチャルなつながりとは異なる、実体験に基づいた確かな絆だ。


価値観の交差点としての行列

興味深いことに、これらの異なる世代の行列文化は、時として交差する。

例えば、伝統的な老舗の和菓子店の前では、インスタ映えを求める若者と、変わらぬ味を求める高齢者が同じ列に並ぶ。

同じ商品でも、その価値の捉え方は世代によって大きく異なるのだ。

また、昨今の「第三次タピオカブーム」では、若者の行列文化が他の世代にも波及する現象が見られた。

SNSでの情報拡散が、世代を超えた新しい行列文化を生み出したのである。


変容する行列の意味

世代による行列文化の違いは、その時代の社会背景や価値観を如実に反映している。

物質的豊かさを求めた時代、情報化が進んだ時代、そして体験価値が重視される現代。

私たちは、行列という現象を通じて、日本社会の変容を読み解くことができるのだ。

そして今、新しい世代が生み出す行列文化は、またどのような様相を見せるのだろうか。

デジタルネイティブのさらに次の世代は、「並ぶ」という行為にどのような意味を見出すのだろうか。

行列は、これからも時代を映す鏡であり続けるに違いない。

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