二郎という名の饗宴
夕闇が街を包み始めた頃、私の足は自然と二郎へと向かっていた。その名を冠したラーメン店は、通常、人々の長蛇の列で囲まれている。百メートルにも及ぶ人の帯が、まるで巨大な蛇のように店の周りを取り巻いているのだ。
しかし、この夜は違った。運命の女神が微笑んだのか、列は驚くほど短い。わずか二十メートルほどの人の流れが、私を出迎えた。
これは間違いなく天啓だ。
私は躊躇なくその列の末尾に身を置いた。
時が流れること一時間。まるで永遠とも思えるその待ち時間は、期待と空腹感を募らせるだけだった。
そしてついに、私は聖域へと足を踏み入れた。
店内に一歩踏み入れた瞬間、私の鼻腔を襲ったのは、あの忘れられない香り。ニンニクの芳醇な香りが、まるで霧のように立ち込めている。それは私の魂を揺さぶり、胃袋を目覚めさせる魔法の香りだった。
今宵の注文は、麺300g。
それは私の欲望の具現化だ。
「ニンニクあり、アブラ増し、カラメ少なめ」。その言葉は、まるで呪文のように私の唇から零れ落ちた。
そして、まるで神の御手によって導かれるかのように、瞬く間に巨大な丼が目の前に現れた。
油で艶めかしく輝く野菜の山を、私は恭しく一口。
その瞬間、私の魂は天に昇るかと思われた。
味覚が目覚め、全身の細胞が歓喜の叫びを上げる。
そしてわずか十分。
私の前には空となった丼だけが残されていた。
まるで夢幻の如き体験だった。
「ご馳走様でした」。その言葉は、感謝と満足感を込めて、静かに放たれた。
二郎への思いは、まるで月の満ち欠けのように、定期的に私の心を満たす。それは避けられない宿命のようだ。
今宵の物語はここで幕を下ろす。しかし、明日もまた新たな冒険が待っているだろう。おやすみなさい、そして、また明日。
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