
清掃という名の戦争
##前回までのあらすじ
午前中の手続きを終え、初めての昼食はカレーライス。
噂よりも美味しくて、大盛りで食べたけれど、
どうやら毎週金曜はカレーらしい。
午後は600人が順番に受ける健康診断。
延々と続く待ち時間と疲労で、初日から体力は限界に近づいていた。
そう思い始めた頃、俺はまだ知らなかった。
防大の恐ろしさは、これからが本番だったことを。
そして次は――
清掃という名の戦争が始まる。
##清掃前の異様な空気

19時12分。
寮内の空気が一変した。
静かだった廊下に、突然、怒号と挨拶が響き渡る。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
通る上級生に対して、2学年の先輩たちは喉が潰れるほどの声で挨拶を繰り返している。
その場の空気に飲まれて、見ているだけの俺の背筋も自然と伸びていた。
「敬礼の角度間違ってんだろ!」
俺の上対番、たかしさんが、
いきなり3学年の上級生に怒鳴られている。
今日はトイレ清掃の担当。
「新入生が見てんの分かってんのか?」
「わかっております!」
「じゃあ最初っからやれよ!」
「気を抜いておりました!」
「は?カッター競技の疲れが理由か?」
「いいえ!」
「じゃぁなんで気を抜いてんだよ!」
至るところから怒鳴り声が飛び交っている。
シャワー室の方からも声が響いてきた。
「新品の雑巾が足りておりません!」
「じゃあ、なんで清掃始めようとしてんの?」
「はい!」
「はいじゃねぇーだろ!早く準備しろよ!」
「すぐに準備します」
「ごめんねぇ新入生。こんな2年の姿見せて・・・」
寮全体が、一気に戦場のようになっていく。
## ついに始まる清掃という名の戦争

「3大隊、清掃開始!」大隊放送がなった。
「清掃かかれ!」
清掃長の号令と同時に、寮内の戦闘が始まった。
水垢ひとつ、埃ひとつ残せない。
手順を間違えれば、即座に指導が飛ぶ。
「おい、ここ汚れ残ってんぞ!」
「はい!」
「何回目だよ!」
「3回目です!」
「なんで間違うんだよ!」
「勘違いしておりました!」
「はぁ?勘違いもねぇだろ!どう勘違いしたんだよ?」
「最初にやった方が正しいかと……」
「調子乗んなよ?」
気づけば、たかしさんが胸倉を掴まれていた。
「新入生が見てんのに、適当にやってんじゃねーぞ!」
「はい!」
目の前で繰り広げられる光景が現実離れしていて、
俺は頭の片隅でずっと考えていた。
これってドッキリじゃないのか?
2学年と3学年で、
「新入生ビビらせようぜ」って仕組んでるだけなんじゃないか?
早く「テッテレー!」の看板を出してくれよ。
本気だとしたら、これはさすがに異常だ。
## 不気味な優しさ

「新入生、こっちだよ~」
さっきまで怒鳴っていた清掃長が、
今度は驚くほど穏やかな声で話しかけてきた。
「5日後に入校したら、君も同じように清掃するから、
ちゃんと見ててね~」
小柄な清掃長が、なぜか巨大に見える。
「基本は上から下に拭いていくからね。」
その優しさが、逆に怖い。
汗が止まらない。
清掃手順なんて、何ひとつ頭に入ってこなかった。
「清掃終了。わかれ!」
やっと終わった、と思ったのも束の間だった。

「第3大隊日夕点呼、集合!」
清掃のあとは3分以内に、
用具の片付け、手洗い、着替え、まで終わらせて点呼に
並ばないといけない。
でも、部屋に戻ると、そこは地獄だった。
ベッドがぐちゃぐちゃに荒らされ、
シーツは剥がされ、枕が床に転がっていた。
最悪の場合、ベッドがひっくり返されていることもあるという。
それを元に戻して、ベッドを綺麗にして、着替えて、集合。
無理だろ。
俺は今、地獄の入り口に立っている。
これを毎日やっていけるのか・・・・
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