【夢日記】家のドアが外れた衝撃で着火してボヤ騒ぎとなった
僕はいつものように自分の部屋でデスクワークに勤しんでいた。時刻は、日中、朝か昼か、といったぐらいだと思われる。
そんな平凡な日常の中で、事件は起きた。
「ガンッ!」
(一瞬、間を置いて)
「ダダーンッ!」
僕は「いったい、何事だ!?」と思い、自室から飛び出した。家の廊下に出てみると、玄関のドアが開けっ広げになっていた。いや、開けっ広げ、というよりも、そもそも、ドアが、無いのである。
僕は即座に「ああ、ドアが外れたのか・・・。」と思い至った。原因は皆目見当付かないが、とにかく、最初に鳴った「ガンッ!」という音は、ドアが外れた音、そして、次に鳴った「ダダーンッ!」という音は、ドアが倒れた音、そこまでは、開けっ広げのような状態になっている光景を見て、合点が行った。
「とりあえず何とかしないとな・・・。」
僕は、背に腹は代えられぬ、という思いで、ドアの救出作業へと繰り出した。「背に腹は代えられぬ」と書いたことには意味がある。僕は、この手の作業が、滅法苦手なのだ。いや、苦手、というよりも、出来る限り避けて来た、と言った方が、正しいのかもしれない。避けて来たことで結果的に苦手になった、といったところであろうか。
僕が、渋々、といった風に、ドアを何とかしようとしたことには、ワケがある。なぜなら、今この瞬間、僕の家で、活動しているのは、僕だけだったからだ。父は出社しているし、祖母はデイサービスに通っているし、兄と母は眠っている、そんな時間帯だったからだ。
「そう、だから、誰にも頼ることは出来ないんだ・・・。」
「僕が何とかするしかない・・・。」
そんな、悲壮とも取れる決意を滲ませながら、不格好ではあるけれども、努めて雄々しく、今、目の前で起きているトラブルを直視し、真っ向から対応するぞと心に誓った。言うなれば、意識的な雄々しさ、である。兄と父は、無意識的な雄々しさ。この両者の違いが「努めて」という枕詞を生んでいるのだ。
僕は、家を出て、倒れているドアに目をやった。実際に見る前から、大体こうなっているんだろうな、というイメージ通りだったので、それに関しては、特段、驚きもなかった。問題は、このドアの外れ方は、専門の人を呼んで何とかしてもらわないといけないレベルなのか、それとも、自分の手で何とか直せるものなのか、そこにあった。
僕は、ヨイショ、ヨイショと、型遅れのロボットでももう少しキビキビと動けるぞ、というセルフツッコミを心の中で唱えながらも、せっせと作業に励んだ。「せっせと」という形容詞を当ててみたが、他の人から見れば「ちんたらと」と書いた方が正しいのかもしれない。それでも僕は、僕なりに、懸命に、作業に励んだ。なので僕の視点からでは「せっせと」という言葉を当てた方が正しい、と考えた次第である。
しかし、どれだけベストを尽くそうとしたところで、所詮、ここぞと言う時に頼りにならない男の頑張りなのだから、悲しいかな、たかが、知れている。やはり、どうにもならなさそうだった。「やはり」と書いたのもまた、ある程度、想定された未来であったため、僕は、そこまで落胆の色を見せることはなく、努めて冷静に、上手く行かない現実を受け入れることが出来た、と、思われる。
その時、
「・・・ボッ、ボッ、ボッ」
「メラメラメラメラ・・・」
突然、耳元で、何か、燃えているような音、が聞こえて来たのだ。僕は、そんなトラブルは、全く、想定していなかった。まさに「!?」と言った具合に、音速のスピードで後ろを振り返ると、なんと、室外機から、火が発生しているではないか!
「ドアが倒れた衝撃で着火したというわけか・・・。」
僕は、自分でも驚くぐらい、平然としていた。いや、驚天動地を通り越したために、気が動転しなかっただけ、なのかもしれないが。とにもかくにも、まずはコイツ(火)を何とかしないと、と思い至り、迅速に、消火作業に当たることが出来た。
とはいえ、前述してきた通り、僕は、何にも頼りにならない男であるし、消火器の類いすら持ち合わせても居ない。まぁそもそも、消火器を持っていたとしても、それを満足に使いこなすことも出来ないであろうから、豚に真珠、みたいな話になってくるのだけども、それは一回、置いておくとして・・・。
僕は、とりあえず、火が発生している箇所まで歩み寄ってから、こともあろうに、口で、フーフーと、息を吐き始めたのだ。
「(おい、お前、焼肉屋さんでホルモン焼いたら油で点火しちゃったよ~、じゃないんだぞ、ボヤ騒ぎなんだぞ、お前、コトの重大さを分かっているのか、そんなもので、火が消えてくれるわけがないだろうに・・・。)」
僕は、目に見える行動では、フーフーとしながらも、目に見えない心では、自分の取った行動に罵声を浴びせている、という、何とも滑稽な、とはいえ、事態は全く滑稽ではないのだが、まぁとにかく、珍妙な状況ではあるのだが、至って僕は真剣に、フーフーと、消火の祈りと共に、息を吐き続けていた。
すると、奇跡が起きた。僕の祈りが通じたのか、火は、少しずつ小さくなっていき、やがて、消えていったのだ。僕は、最後の火を消し切ったのを確認すると、息も絶え絶えといったテイで、その場に倒れて、呼吸を整えていた。さながら、過呼吸状態で苦しんでいる人のようだった。だけど、僕は、何とも言えない達成感に包まれていたため、極めて心地の良い、呼吸困難であったのだ。
そんなことをやっていると、物音で目を覚ましたのか、異変を察知したのか、母が目を覚まして、僕のもとへ駆け寄って来た。
僕は、自分がやれることは全うしただろう、と、力不足ではあるけれども、僕なりに労をねぎらいながら、トラブル対応を、母へとバトンタッチしたところで、目が覚めた。